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守るための銃

昼下がり。


 


畑の前で、

ミレイユは立ち尽くしていた。


 


風が吹く。


 


揺れる麦。


 


遠くでは、

牛の鳴き声が聞こえる。


 


穏やかな景色。


 


だが今、

ミレイユの頭の中には、

別の光景が浮かんでいた。


 


山から降りてくる獣。


 


荒らされる畑。


 


壊される柵。


 


泣く子供達。


 


「……駄目ね」


 


ぽつりと呟く。


 


イノシシや鹿なら、

対策はある。


 


しし垣。


 


深い溝。


 


柵。


 


農業高校でも習った。


 


だが。


 


「熊は無理だわ……」


 


ミレイユの顔が曇る。


 


熊は木を登る。


 


力も強い。


 


普通の柵では意味がない。


 


電気柵があれば、

話は別だった。


 


一度痛みを覚えれば、

獣は近づかなくなる。


 


だが。


 


「電気がないのよね……」


 


頭を抱える。


 


水車。


 


発電。


 


なんとなく知識はある。


 


けれど。


 


「原理がわからないわ……!」


 


致命的だった。


 


銅線も必要だ。


 


だがこの国に、

そんなものが大量にあるとは思えない。


 


ミレイユは、

ぐしゃりと髪を掴む。


 


「犬……」


 


欲しい。


 


犬がいれば、

獣の気配を察知できる。


 


夜番にもなる。


 


それでも。


 


最悪、

熊は来る。


 


その時は。


 


「銃が必要だわ」


 


真剣な声だった。


 


脳裏に、

幼い頃の記憶が浮かぶ。


 


祖父。


 


山。


 


雪。


 


そして。


 


獣を狩る男達。


 


「マタギ……」


 


命懸けの狩人。


 


人を守るために、

山へ入る者達。


 


だがすぐに、

ミレイユは眉を寄せた。


 


「……そもそも、

この国に銃なんてあるのかしら」


 


そこで。


 


ふと、

ある光景を思い出す。


 


王城。


 


重厚な武器庫。


 


壁に飾られていた、

長い筒状の武器。


 


火薬の匂い。


 


「……ある」


 


ミレイユの瞳が、

鋭く細まる。


 


「王城で見たわ」


 


次の瞬間。


 


ミレイユは、

勢いよく駆け出していた。


 


土を蹴る。


 


スカートを翻しながら、

屋敷へ飛び込む。


 


使用人達が驚く中、

一直線に向かった先は――


 


応接室。


 


ノックもなしに、

扉が開かれる。


 


「クロヴィス様!!」


 


室内にいたクロヴィスが、

静かに顔を上げた。


 


書類を読んでいた灰色の瞳が、

ミレイユを映す。


 


「……騒がしいな」


 


「銃をください!」


 


沈黙。


 


後ろに控えていた側近が、

固まった。


 


クロヴィスは、

ゆっくり瞬きをする。


 


「何?」


 


「銃です!」


 


「聞こえている」


 


静かな声だった。


 


だが圧がある。


 


普通なら怯む。


 


だがミレイユは、

一歩も引かなかった。


 


「山が荒れれば、

熊が降ります!」


 


「畑が荒らされます!」


 


「民が危険です!」


 


真っ直ぐな声。


 


クロヴィスは、

黙って聞いている。


 


ミレイユは続けた。


 


「しし垣では限界があります!」


 


「犬だけでも足りません!」


 


「誰かが戦わなければいけない!」


 


応接室の空気が張る。


 


クロヴィスの瞳が、

僅かに細められた。


 


「お前が戦うと?」


 


低い声。


 


試すような響き。


 


だが。


 


ミレイユは、

迷わなかった。


 


「えぇ」


 


即答。


 


「私は、

いつかこの国の王になります」


 


空気が止まる。


 


側近が息を呑んだ。


 


だがミレイユは、

真っ直ぐクロヴィスを見据える。


 


「民を守れない王に、

価値なんてありません」


 


「畑も」


 


「牛も」


 


「民も」


 


「全部守ってみせます」


 


その瞳には、

恐怖がなかった。


 


覚悟だけがあった。


 


クロヴィスは、

長い沈黙のあと。


 


ふっと息を吐く。


 


まるで。


 


負けを認めるように。


 


「……わかった」


 


低い声。


 


「取り寄せよう」


 


ミレイユの瞳が、

大きく見開かれる。


 


だが次の瞬間。


 


クロヴィスの声が、

鋭く落ちた。


 


「ただし」


 


空気が変わる。


 


「銃は道具だ」


 


「扱う者が未熟なら、

己も他人も殺す」


 


灰色の瞳が、

真っ直ぐミレイユを射抜いた。


 


「覚悟だけでは人は守れん」


 


ミレイユは、

静かに息を飲む。


 


そして。


 


ゆっくり頷いた。


 


その日の夜。


 


ミレイユは、

一人で中庭に立っていた。


 


木剣を握る。


 


細い腕。


 


未熟な体。


 


だが。


 


金色の瞳だけは、

強く前を見据えていた。


 


「……強くならなきゃ」


 


風が吹く。


 


王女の髪が揺れる。


 


「守るために」


 


静かな夜だった。


 


だがその瞳には、

確かな火が灯っていた。

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