その王女、畑を指揮する
春の辺境は、
一年で最も忙しい季節だった。
雪が消え。
柔らかくなった土へ、
命を植えていく。
村中の畑では、
人々が慌ただしく動いていた。
その中心で――
「そこの畑にはこの苗を!」
ミレイユが、
びしっと指を差す。
「こっちは葉物系!」
「水持ちが良いので、
根菜は少し減らしてください!」
完全に指揮官だった。
村人達が、
慌てて苗を運ぶ。
「はいよ!」
「こっちは豆だな!」
「ミレイユちゃん!
次どうする!?」
村中が、
自然とミレイユへ従っていた。
その様子を見ながら。
ジークは、
静かに目を細める。
最初は、
誰も信じていなかった。
子供の言葉だと笑っていた。
それなのに今は。
皆、
当たり前みたいに彼女の指示を待っている。
ジークは、
ミレイユの隣へ歩み寄った。
「……どうやって決めているんですか」
ミレイユが、
ぱっと振り返る。
「ん?」
「どの畑へ、
何を植えるかです」
すると。
ミレイユの目が、
少しだけ細められた。
春風が、
金色の髪を揺らす。
(前世では――)
脳裏に浮かぶ。
大きな手。
日に焼けた背中。
祖父が、
土を指で擦っていた。
時には。
本当に土を舐めて、
酸性かどうかを確かめていた。
けれど。
(私には、
そんな技術はない)
(酸度計もないし)
だから。
ミレイユは、
にこっと笑った。
「生えている雑草を基準にしました!」
ジークが、
嫌な予感を覚える。
そして案の定。
ミレイユが、
楽しそうに語り始めた。
「例えばスギナ!」
しゃがみ込み、
ぴっと草を摘む。
「これは酸性土壌に多いんです!」
「つまり、
この辺りは酸性寄り!」
「なので酸性を好む作物との相性が良くて――」
始まった。
ジークが、
静かに空を見る。
ミレイユは止まらない。
「逆にクローバー系が多い場所は、
比較的肥沃で窒素量の目安になります!」
「あと苔の付き方とか、
水の流れ方も見て――」
「待ってください」
ジークが、
頭を押さえる。
「何故そんな知識があるんですか」
ミレイユは、
きょとんと瞬きをした。
「畑は教科書です!」
元気いっぱいだった。
意味がわからない。
ミレイユは、
また別の畑へ駆けていく。
「そっちは植える間隔を空けてください!」
「風通し大事です!」
「あと連作障害対策で、
去年と違う作物を――」
村人達が、
慌てて動く。
畑には、
次々と苗が植えられていく。
小さな葉。
まだ頼りない芽。
けれど。
そのほとんどは。
ミレイユが、ずっと育てていたものだった。
部屋中に並べた苗
毎日水をやり。
温度を気にし。
話しかけながら育てた苗達。
もちろん。
村人達へ教えながら、
一緒に育てたものもある。
辺境の春には今。
小さな命が、
溢れていた。
やがて。
ミレイユは、
畑の真ん中へ立つ。
泥だらけの長靴。
頬には土。
けれど。
その顔は、
誰より嬉しそうだった。
春風が吹く。
植え終えた畑が、
陽の光を浴びていた。
ミレイユは、
その景色を見渡す。
そして。
ふわりと笑った。
「さぁ!」
金色の瞳が、
きらきら輝く。
「楽しみですね!」




