その王女、未来を配る
春の陽射しの下。
辺境の畑では、
大勢の村人達が鍬を振るっていた。
ざくっ。
ざくっ。
牛糞を混ぜ込んだ土を、
何度も耕していく。
汗。
土の匂い。
辺境の春は、
忙しかった。
やがて。
「ふぅ……!」
一人の男が、
鍬へ体重を預ける。
「これで、
いつでも植えられるな!」
周囲も、
ほっとした空気になる。
だが。
次の瞬間。
「ダメです!!」
元気な声が、
畑へ響いた。
村人達が、
びくっと振り返る。
そこには。
泥だらけのミレイユが、
びしっと指を立てていた。
「最低でも一ヶ月は置いてください!」
「えぇ……?」
村人達の顔が、
一気に曇る。
ミレイユは、
真剣そのものだった。
「発酵途中の堆肥は、
熱を持つんです!」
「根を傷める可能性があります!」
「あと微生物環境が安定して――」
始まった。
ジークが、
静かに空を見上げる。
ミレイユは止まらない。
「土を休ませる時間も大切なの!」
「焦ると逆に失敗します!」
「農業は待つことも重要なんです!」
完全に先生だった。
村人達が、
ぽかんと聞いている。
やがて。
ミレイユは、
ぱっと笑顔になった。
「ということで!」
嫌な予感がした。
「皆さん!!
不要な木箱ありませんか!?」
沈黙。
話が飛んだ。
村人達が、
困惑する。
「木箱……?」
「壊れていても構いません!」
「あと古い樽も歓迎です!」
完全に目が輝いていた。
ジークが、
小さくため息を吐く。
……また何か始まる。
次の日――
村の広場では。
朝から、
トントン、と音が響いていた。
ミレイユとジークが、
木箱を解体している。
「そこ押さえてください!」
「無茶を言わないでください」
「ほら釘!」
「投げないでください!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら。
二人は、
小さな木箱を大量に作っていく。
最初は、
村人達も遠巻きに見ていた。
だが。
「……貸してみろ」
一人の男が、
金槌を手に取る。
「釘打ち曲がってるぞ」
「あっ!」
「ほらこうだ」
すると。
次は別の男が来る。
女達が木を磨き始める。
子供達まで、
木屑を運び始めた。
気づけば。
村中で、
木箱作りが始まっていた。
その時だった。
「ねぇミレイユー!」
子供が、
目を輝かせながら聞く。
「これ何作ってるのー!?」
ミレイユは、
ぴたりと作業を止めた。
それから。
ふふんっと笑う。
「秘密です!」
完全に、
隠しきれていない顔だった。
そして――
一ヶ月後。
春風が、
辺境を吹き抜けていた。
村の広場には。
大量の小さな木箱が並べられていた。
中には、
ふかふかの土。
そして。
小さな緑の芽。
可愛らしい葉が、
ちょこんと顔を出している。
村人達が、
ざわついた。
「なんだこれ……」
「草?」
「食えるのか?」
ミレイユは、
にこにこと笑っていた。
「皆さん!」
ぱっと両手を広げる。
「好きなのを一家族一つずつ持っていってください!」
「これは、
わたくしからのプレゼントです!」
村人達が、
困惑した顔で木箱を見る。
老人が、
恐る恐る聞いた。
「……これは何なんだい?」
すると。
ミレイユは、
いたずらっぽく笑った。
「大切に育ててくだされば、
わかります!」
春風が、
金色の髪を揺らす。
ミレイユは、
嬉しそうに続けた。
「多分皆さん、
まだ食べたことのない特別なものですので!」
「育ってからのお楽しみです!」
村人達が、
顔を見合わせる。
でも。
不思議と嫌な気はしなかった。
ミレイユが配るものは、
いつだって。
自分達を少し幸せにしてくれるから。
その時だった。
隣で木箱を見ていたジークが、
小さく呟く。
「……これは、
何の植物なんですか」
ミレイユは、
ちらりと彼を見る。
そして。
一つ木箱を持ち上げると、
そのままジークへ押し付けた。
「育ててみてください!」
「え」
「ちゃんと毎日見て、
お水をあげてくださいね!」
「いや、だからこれは――」
「愛情を込めると、
より美味しくなる気がします!」
「気がするなんですね」
ミレイユは、
にぱっと笑った。
春の陽射しの下。
辺境の村には、
小さな緑が少しずつ増え始めていた。




