深沓を編む日
完成した牛衣を前に――
ミレイユは、
満足そうに腕を組んでいた。
「……思ったより可愛いわ!」
目の前では。
藁で編まれた牛衣を着せられた牛たちが、
のんびり干し草を食べている。
もこもこだった。
完全に冬仕様。
しかも。
なぜか少し誇らしげに見える。
ミレイユは、
一頭一頭を見回して頷く。
「みんな美人ねぇ〜」
「素敵よ〜」
完全に親バカだった。
「モォ〜」
牛たちも、
どこか上機嫌そうに鼻を鳴らす。
藁が暖かいのか。
いつもより、
落ち着いている。
バルが、
腕を組みながら唸った。
「……牛に服なんざ、
考えたこともなかった」
ミレイユは、
得意げに胸を張る。
「可愛いでしょう?」
「そこかよ」
即座に突っ込まれた。
その隣で。
ジークが、
ぐったりした顔をしていた。
「……大変だったんですからね」
藁を編み続けたせいで、
指が痛い。
昨日など、
夜中まで巻き込まれていた。
だが。
ミレイユは、
にこにこしている。
「そうね!」
全然反省してなかった。
そして次の瞬間。
ぱっと顔を上げる。
「今日は村の人達の様子を見に行きましょう!」
ジークの顔が、
引き攣る。
「……少し休みましょうよ」
「いいえ!」
即答だった。
ミレイユは、
びしっと村を指差す。
「いくわよ!」
バルが、
ぶはっと吹き出す。
「お前さんも大変だなぁ」
ジークは、
遠い目をした。
最近、
本当に休めていない。
それから――
ミレイユは、
村中を歩き回った。
「こんにちはー!」
元気な声が、
雪景色の中へ響く。
家の扉が開く。
「あら、ミレイユちゃん!」
「寒くない?」
「ちゃんと食べてますか?」
ミレイユは、
次々と村人へ話しかけていく。
保存食の確認。
体調確認。
暖炉の確認。
まるで。
小さな領主みたいだった。
その途中。
ミレイユは、
ふと気づく。
子供達の足だった。
雪で濡れた靴。
赤くなった指先。
冷え切った足。
ミレイユの表情が、
すっと変わる。
「……足が寒いのね」
子供達が、
きょとんとする。
その数日後――
快晴。
珍しく、
空が青く澄んでいた。
その日。
村の広場には。
女達と、
子供達が集められていた。
中央には、
なぜか藁の山。
そして。
木箱の上へ立ったミレイユが、
元気よく両手を広げる。
「それでは皆さん!!」
完全に始まる空気だった。
「これから、
深沓の作り方をお教えしまーす!!」
村人達が、
ぽかんとする。
ジークが、
小さく目を閉じた。
また始まった。
ミレイユは、
藁を掲げる。
「藁は空気を含むので、
とっても暖かいのです!」
「つまり天然防寒素材!」
止まらない。
「しかも雪にも強い!」
「軽い!」
「修理しやすい!」
「最高です!!」
もはや演説だった。
子供達が、
きゃっきゃと笑い始める。
女達も、
半信半疑で藁を触り始めた。
やがて。
広場には、
藁を編む音が広がっていく。
ミレイユは、
その中心で楽しそうに笑っていた。
「そこもっときつく編みます!」
「そうそう!
お上手です!」
「わぁ!可愛い!」
完全に、
お祭りみたいだった。
さらに。
途中でミレイユが、
どさっと木皿を置く。
「茶菓子に、
私の作った干し葡萄どうぞー!」
女達が、
目を丸くする。
「えっ」
「こんな甘いの初めて……!」
「美味しい!」
ミレイユが、
ふふんっと胸を張る。
「そうでしょう?」
ドヤ顔だった。
ジークが、
呆れ半分で聞く。
「……いつの間に作ったんですか」
すると。
ミレイユは、
さらっと答えた。
「夜中です!」
「私の部屋、
広くて良かったわ〜」
ジークが、
頭を抱える。
この王女。
寝ているのか本当に。
だが。
広場では。
笑い声が響いていた。
冬の辺境では珍しいほど、
明るい空気だった。
そしてその様子を――
公爵邸の窓から。
クロヴィスとアンネが、
静かに見下ろしていた。
村人達の輪の中心で。
笑う小さな王女。
アンネが、
ふっと微笑む。
「……不思議な方ですね」
クロヴィスは、
黙ってその姿を見つめていた。
やがて。
ほんの少しだけ、
口元が緩む。
「……本当だ」
雪の降る辺境で。
凍っていた村が、
少しずつ変わり始めていた。




