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発酵する草

それから――


 


ミレイユとジークは、

毎日のように土を掘り続けた。


 


乾いた藁を運び。


 


草を刻み。


 


踏み固め。


 


空気を抜く。


 


秋風の吹く辺境で。


 


二人は、

泥だらけになりながら動き回っていた。


 


最初は、

遠巻きに見ていた村人たちも。


 


最近では。


 


「またなんか始めてるぞ」


 


と、

半ば名物みたいな扱いになっていた。


 


そして数日後――


 


地中のサイロは、

ついに完成した。


 


大きな穴。


 


内部には、

ぎっしりと草が詰め込まれている。


 


ミレイユは、

腰へ手を当てて満足そうに頷いた。


 


「完璧です!」


 


泥だらけだった。


 


ジークが、

深く息を吐く。


 


「……問題はここからですね」


 


彼が見上げた先。


 


そこには、

まだ骨組みだけの建築途中の小屋があった。


 


冬場、

サイロを取り出すための作業小屋。


 


ミレイユは、

顎へ指を当てる。


 


「雪が入り込まない構造にしたいですね」


 


ジークも、

真面目な顔で頷いた。


 


「なら密閉性を高く――」


 


その瞬間。


 


「だめです!」


 


ミレイユが、

食い気味に遮った。


 


ジークが、

ぴたりと止まる。


 


ミレイユは、

真剣な顔になっていた。


 


「地下から湧いたガスが、

建物内へ充満する可能性があります」


 


「……ガス?」


 


ジークが、

眉を寄せる。


 


ミレイユは、

地面を指差した。


 


「発酵時に発生したガスで、

酸欠になることがあるんです」


 


「密閉空間へ入った瞬間、

意識を失う事故もあります」


 


風が吹く。


 


ミレイユの金髪が、

ふわりと揺れた。


 


「だから壁は、

大きく開放できる構造にしなきゃだめ」


 


「換気が最優先です」


 


ジークが、

静かに目を見開く。


 


まただ。


 


この王女は。


 


時々、

本当に訳のわからない知識を口にする。


 


しかも。


 


妙に説得力がある。


 


ミレイユは、

木材を持ち上げた。


 


「さぁ!

設計変更しますよ!」


 


「今ですか?」


 


「今です!」


 


理不尽だった。


 


そこから。


 


二人の建築作業は、

さらに加速した。


 


木材を運び。


 


柱を立て。


 


縄を引き。


 


屋根を組む。


 


ジークが釘を打ち。


 


ミレイユが寸法を測る。


 


時には言い合いになり。


 


時には泥だらけで転び。


 


それでも。


 


二人は、

止まらなかった。


 


やがて――


 


秋空の下。


 


ついに、

建物が完成する。


 


風通しの良い構造。


 


広く開く壁。


 


雪を防ぐ傾斜屋根。


 


辺境では見たことのない、

奇妙な建物だった。


 


村人たちが、

次々と集まってくる。


 


「なんだこれ……」


 


「二人だけで作ったのか?」


 


「すごいじゃないか!」


 


感嘆の声が、

あちこちから上がる。


 


ミレイユの顔が、

ぱあっと輝いた。


 


「成功です!!」


 


ジークも、

小さく息を吐く。


 


気づけば。


 


口元が、

ほんの少しだけ緩んでいた。


 


ミレイユが、

にこにこと彼を見る。


 


「やりましたね!」


 


「……まぁ、

悪くはありません」


 


素直じゃなかった。


 


けれど。


 


その灰色の瞳には、

確かな達成感が宿っていた。


 


そして――


 


その話は、

すぐに公爵邸へ届いた。


 


応接室。


 


アンネが、

静かに報告書を閉じる。


 


「土中サイロと、

保存用作業小屋を完成させたそうです」


 


クロヴィスは、

書類へ目を落としたまま黙っていた。


 


アンネが、

少し困ったように続ける。


 


「村人達も、

かなり驚いているようで」


 


沈黙。


 


やがて。


 


クロヴィスの口元が、

ほんの僅かに緩む。


 


「……ふん」


 


低い声だった。


 


けれど。


 


どこか愉快そうだった。


 


窓の外では。


 


冷たい秋風が、

静かに吹き始めていた。

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