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土中サイロ

季節は、

ゆっくり秋へ変わっていた。


 


辺境の風は冷たくなり始め、

草原が金色へ染まっていく。


 


村人たちは、

冬支度に追われていた。


 


山へ入り、

どんぐりを拾う者。


 


山葡萄を集める者。


 


干し肉を作る者。


 


薪を積む者。


 


辺境では、

冬を越えられなければ死ぬ。


 


それが、

当たり前の土地だった。


 


そんな中――


 


牛舎の近くで。


 


一人だけ、

異様な光景を作り出している少女がいた。


 


「……何をしているんですか」


 


ジークが、

思わず足を止める。


 


そこには。


 


スコップ片手に、

地面を掘り返しているミレイユの姿があった。


 


しかも。


 


かなり深い。


 


既に、

ミレイユの腰ほどまで穴が出来ている。


 


泥だらけの顔で、

ミレイユが振り返った。


 


「ん?」


 


ぱっと顔が輝く。


 


「知りたい?」


 


完全に、

説明したくてたまらない顔だった。


 


ジークが、

小さくため息を吐く。


 


「知りたいから聞いているんです」


 


するとミレイユは、

ふふんっと胸を張った。


 


「土中サイロを作ろうと思うの!」


 


「……なんですか、それは」


 


次の瞬間。


 


ミレイユの目が、

キラッと輝いた。


 


始まった。


 


ジークが、

うっすら察する。


 


ミレイユは、

スコップを杖みたいに持ちながら説明を始めた。


 


「まず穴の底と側面に、

乾いた藁を敷き詰めます」


 


「そこへ刻んだ草を入れて、

何度も踏み固めながら空気を抜くの」


 


「空気が残ると腐敗しやすいので、

圧縮が重要なのよ!」


 


早口だった。


 


止まらない。


 


「その後、上にも藁や大きな葉を被せて、

さらに土を盛るの!」


 


「覆土して雨水を防げば、

長期保存できる発酵飼料になるわ!」


 


ジークが、

無言になる。


 


ミレイユは止まらない。


 


「冬場に牧草が不足しても、

これがあれば牛さん達の栄養を確保できるのよ!」


 


「しかも発酵熱で保存性も高いし――」


 


「……待ってください」


 


ジークが、

頭を押さえる。


 


「なぜそんな知識を持っているんですか」


 


ミレイユは、

きょとんと瞬きをした。


 


「ひ み つ!」


 


元気いっぱいだった。


 


意味がわからない。


 


ジークは、

真顔になる。


 


ミレイユは、

穴の中へ飛び降りた。


 


「まぁ問題は、

冬に取り出す時重労働なのよね」


 


「だからここに小屋も建てたいの」


 


ぶつぶつ言いながら、

地面のサイズを測り始める。


 


完全に、

頭の中で設計図が出来ていた。


 


ジークは、

呆然とその姿を見る。


 


この王女。


 


最近ずっとこんな感じだ。


 


泣いたと思ったら、冬支度を始める。


 


しかも。


 


やってることが、

本格的すぎる。


 


その時だった。


 


ミレイユが、

ぴっとジークを指差した。


 


「だからあなたも、

ぼーっとしていないで手伝って」


 


「……何故僕が」


 


即答だった。


 


ミレイユは、

当然のような顔をする。


 


「そこにいるからです!」


 


理不尽だった。


 


ジークが、

眉を寄せる。


 


「お父様に叱られます」


 


すると。


 


ミレイユの表情が、

すっと真面目になる。


 


風が吹いた。


 


金色の髪が、

静かに揺れる。


 


「叱られるのと」


 


小さな声。


 


けれど、

真っ直ぐだった。


 


「命が失われるの、

どちらがいいの?」


 


ジークの呼吸が、

止まる。


 


ミレイユは、

スコップを握り締める。


 


「冬は待ってくれません」


 


「お腹を空かせた牛さんも」


 


「凍える子供も」


 


「春まで待ってくれないんです」


 


その瞳には、

迷いがなかった。


 


桜子を失った日から。


 


この王女は、

さらに前へ進み始めていた。


 


ジークは、

しばらく黙っていた。


 


やがて。


 


深く、

ため息を吐く。


 


そして。


 


無言で、

スコップを手に取った。


 


ミレイユの顔が、

ぱあっと明るくなる。


 


「ありがとうございます!」


 


「まだ手伝うとは言ってません」


 


「手伝っていますよ?」


 


「…………」


 


ジークは、

黙って地面へスコップを突き刺した。


 


冷たい秋風の中。


 


辺境の冬へ向けた準備が、

静かに始まっていた。

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