土へ還る
翌日――
辺境の空は、
静かに晴れていた。
風が、
草原をゆっくり揺らしている。
牛舎の裏手。
小高い丘のような場所で、
土が掘り返されていた。
そこへ、
桜子は眠っていた。
ミレイユは、
小さな手で土を被せる。
白い指先は、
泥だらけだった。
けれど。
もう昨日みたいに、
泣いてはいなかった。
静かだった。
風だけが、
柔らかく吹いている。
やがて。
ミレイユは、
抱えていた小さな籠を開いた。
中に入っていたのは、
花の苗だった。
しゃがみ込む。
そっと土へ穴を開ける。
そして、
丁寧に植えていく。
まるで。
宝物を扱うみたいに。
その後ろで。
ジークは、
黙ってその姿を見ていた。
昨日。
壊れてしまいそうなほど泣いていた少女。
なのに今日は、
もう前を向いている。
理解できなかった。
ジークは、
ぽつりと呟く。
「……泣き叫ぶと思っていました」
ミレイユの手が、
ぴたりと止まる。
ゆっくり振り返る。
「わたくしがですか?」
ジークは、
静かに頷いた。
ミレイユは、
少しだけ目を丸くした。
それから。
ふわりと笑う。
朝日を受けて、
金色の髪が揺れた。
「命は終わっても、
無くなるわけじゃないんです」
静かな声だった。
けれど。
不思議なくらい、
強かった。
ミレイユは、
植えた花へそっと土を被せる。
「桜子は土へ還ります」
風が吹く。
草が、
さわさわと揺れた。
「そしていつか、
ここへ牧草が生える」
ミレイユは、
空を見上げる。
どこまでも青い空だった。
「その牧草を食べて、
また次の牛が育つんです」
小さな手が、
ぎゅっと土へ触れる。
「命は、
循環しているんですよ」
ジークは、
言葉を失った。
死を見た翌日に。
こんな顔で、
前を向ける人間がいるのか。
ミレイユは、
桜子の眠る土を優しく撫でた。
「だから」
柔らかな声。
「桜子は、
ちゃんとここに残ります」
その瞬間。
後ろから、
低い鼻息が聞こえた。
「……ふんっ」
バルだった。
腕を組み、
ぶっきらぼうに立っている。
「わかってるじゃねぇか」
ミレイユが、
ぱっと振り返る。
するとバルは、
気まずそうに鼻を掻いた。
「農家ってのはな」
低い声。
「死んだ命も、
次へ繋げて生きてんだ」
ミレイユは、
静かに目を細める。
それから。
にこっと笑った。
涙の跡が残る顔だった。
それでも。
昨日より、
ずっと強い顔だった。
「さぁ!」
次の瞬間。
ぱんっと手を叩く。
「今日も働きますよー!!」
元気いっぱいだった。
ジークが、
思わず目を瞬かせる。
ミレイユは、
もう歩き出していた。
泥だらけの長靴。
小さな背中。
けれど。
その姿は、
誰よりも大きく見えた。
命の重さを知って。
それでも前へ進む。
その背中は、
まるで――
本物の王みたいだった。




