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追放王女は、ずっと笑っていた

王城正門前。


 


重たい門が、

ゆっくりと開いていく。


 


冷たい朝の空気。


白い息。


 


その前には、

十人ほどの騎士たちが整列していた。


 


鎧が朝日を反射して光る。


誰一人、

私語はない。


 


その中心から、

一人の男が前へ出た。


 


隊長格の騎士だ。


 


「ミレイユ様」


 


胸へ拳を当て、

深く頭を下げる。


 


「ここから辺境までは、十日ほど移動に要します」


 


低く落ち着いた声。


 


「長旅になりますので、馬車内ではごゆっくりお過ごしください」


 


ミレイユは、

静かに頷いた。


 


「ありがとうございます」


 


風が、

金色の髪を揺らす。


 


そして次の瞬間。


 


「――ですが」


 


その場の空気が、

わずかに揺れた。


 


ミレイユは、

にこりと笑う。


 


「一人、話し相手が欲しいのです」


 


騎士たちが、

僅かに顔を見合わせる。


 


ミレイユは、

まるで雑談でもするような口調で続けた。


 


「ここで一番階級の低い方をお願いします」


 


沈黙。


 


空気が止まった。


 


騎士たちの視線が、

一斉に揺れる。


 


隊長格の男も、

一瞬だけ眉を寄せた。


 


――何故?


 


誰もが、

そう思った。


 


だが、

王女の命令は絶対だ。


 


やがて。


 


隊列の後方から、

一人の赤毛の少年が前へ出る。


 


まだ若い。


 


鎧も新品同然で、

身体つきも細い。


 


緊張しているのか、

喉が小さく動いた。


 


彼は困ったように、

ちらりと隊長を見る。


 


すると隊長は、

無言で頷いた。


 


「……失礼します」


 


赤毛の少年は、

ぎこちなく頭を下げた。


 


ミレイユは、

その姿を見てふわりと笑う。


 


「よろしくお願いします」


 


その笑顔に。


 


少年は、

なぜか少しだけ息を呑んだ。


 


――噂と違う。


 


そう思った。


 


もっと恐ろしい王女だと思っていた。


 


王に逆らい。


思想を叫び。


辺境送りになった危険人物。


 


けれど目の前にいるのは、

ただ小さく笑う少女だった。


 


やがて。


 


ミレイユは、

ゆっくり馬車へ乗り込む。


 


赤毛の少年も続いた。


 


向かい合わせの座席。


 


馬車の扉が閉まる。


 


ごとり、と車輪が動き出した。


 


王城が、

少しずつ遠ざかっていく。


 


その中で。


 


ミレイユは、

終始にこにこと笑っていた。


 


少年は落ち着かない。


 


……何を考えている?


 


追放されるのに。


 


十年も辺境へ送られるのに。


 


どうして、

そんな顔ができるんだ。


 


沈黙に耐えきれず、

少年が口を開こうとした瞬間。


 


「わたくしの名前は、ミレイユ・ヴェルディアと申します」


 


先に声をかけたのは、

ミレイユだった。


 


柔らかな声。


 


「貴方のお名前と、年齢を伺ってもよろしいですか?」


 


少年は、

一瞬言葉に詰まる。


 


まるで。


 


“普通の人間”として扱われたことに、

慣れていないみたいに。


 


「……レオンです」


 


少し遅れて、

低い声が返る。


 


「階級は最下級騎士見習い」


 


拳を握る。


 


「十五歳です。今年、騎士団へ入りました」


 


ミレイユは、

ぱちぱちと瞬きをした。


 


それから。


 


ふわりと笑う。


 


「まぁ」


 


嬉しそうな声だった。


 


「九歳も上なんですね」


 


レオンが、

思わず目を瞬かせる。


 


するとミレイユは、

楽しそうに続けた。


 


「今日から十日間、よろしくお願いしますね」


 


にこり。


 


その笑顔は、

あまりにも無邪気だった。


 


けれど。


 


レオンの背中には、

じわりと汗が滲んでいた。


 


この王女は、

何を考えているのかわからない。


 


怒っているのか。


 


悲しいのか。


 


本当は、

泣きたいのか。


 


それとも。


 


――何かを企んでいるのか。


 


窓の外では、

王城がどんどん遠ざかっていく。


 


その中で。


 


ミレイユだけが、

ずっと笑っていた。

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