辺境送りの王女
「――もうお前は話にならん」
国王の声は、
先ほどまでより低かった。
怒鳴り声ではない。
だからこそ、
広間にいた全員の背筋が凍った。
「その行き過ぎた思想――」
ゆっくり。
重く。
王の言葉が落ちる。
「辺境の地で反省してこい」
ざわっ――
空気が揺れた。
騎士たちが顔を上げる。
使用人たちの間に、
動揺が走った。
辺境送り。
それは、
実質的な追放宣告に等しい。
王妃が、
はっと立ち上がる。
「お待ちください!!」
震える声だった。
「この子は、まだ六歳です……!」
広間の視線が、
一斉に王妃へ向く。
だが。
国王は、
一切揺るがなかった。
「だからこそだ」
静かだった。
あまりにも静かで。
逆に、
誰も口を挟めなかった。
「幼いうちから、この思想は危険すぎる」
王の瞳が、
真っ直ぐミレイユを射抜く。
「十年だ」
空気が止まる。
「十年間、辺境の地で反省しろ」
息を呑む音が、
あちこちで聞こえた。
十年。
六歳の子供にとって、
あまりにも長すぎる時間。
王妃の顔が、
さっと青ざめる。
「陛下、それは――」
「決定だ」
その一言で、
全てが閉ざされた。
誰も、
逆らえない。
重たい沈黙。
広間には、
呼吸音ひとつ落とせない空気が流れていた。
その中心で。
ミレイユだけが、
静かに立っていた。
頬を赤く腫らしたまま。
小さな拳を握りしめながら。
そして――
「……わかりました」
あまりにも静かな声だった。
その場にいた誰もが、
思わず目を見開く。
泣き叫ぶと思った。
謝ると思った。
怯えると思った。
だが、
違った。
ミレイユは、
ゆっくり顔を上げる。
金色の瞳が、
まっすぐ国王を見据えた。
「ですが」
その瞬間。
空気が、
張り詰める。
幼い王女は、
震える声で――
けれど、
はっきりと言い切った。
「私は、決して変わりません」
ぞくり――
誰かの背筋が、
震えた。
使用人の一人が、
思わず息を呑む。
騎士たちの顔色が変わる。
六歳の子供とは思えなかった。
まるで。
何百人もの命を背負って立つ、
革命家のようだった。
国王の額に、
青筋が浮かぶ。
だが。
ミレイユは、
もう視線を逸らさなかった。
ぎろり――
真っ直ぐ、
王を睨み返す。
広間の空気が、
凍りつく。
誰も、
動けない。
王を。
国王を。
真正面から睨み返した王族など、
見たことがなかった。
そしてミレイユは、
くるりと背を向ける。
赤い絨毯の上を、
小さな靴音だけが響いた。
コツ。
コツ。
コツ――
その背中は、
あまりにも小さい。
なのに。
誰よりも、
大きく見えた。




