だから変えるんです
王城・謁見の間。
空気は、張り詰めていた。
豪奢なシャンデリア。
赤い絨毯。
静まり返る広間。
その中心で。
国王の怒声が響き渡る。
「何を考えている!!」
重たい怒鳴り声に、
空気そのものが震えた。
並んでいた使用人たちが、
びくりと肩を揺らす。
ミレイユは、
ただ真っ直ぐ前を見ていた。
「貴族が口にする食材を侍女へ回しただと!?」
王妃も険しい顔をしている。
「しかも厨房へ立ったと聞きました」
「王族自らが料理など……前代未聞です!」
ミレイユは、
ぎゅっと拳を握る。
けれど、
逸らさなかった。
「廃棄予定の食材でした」
静かな声だった。
その言葉に、
広間がざわつく。
ミレイユは続けた。
「食材には、名前など書かれていませんでした」
国王の眉が歪む。
「アレンジしただけです」
「それに」
ミレイユは、
一歩前へ出た。
「厨房の皆さんは、私が無理やり従わせただけです」
料理長たちが、
青ざめた顔で目を見開く。
庇ったのだ。
王女が。
自分たちを。
だが。
国王の怒りは収まらない。
「問題はそこではない!!」
怒声が広間へ響く。
「王族と使用人には、明確な線引きがある!」
「秩序があるから国は回るのだ!」
その瞬間。
ミレイユの中で、
何かが切れた。
「そんな食べない食材など、いりません」
空気が凍る。
誰も息をしなかった。
国王の目が、
ゆっくり見開かれる。
「……なんだと?」
ミレイユは止まらない。
「捨てるくらいなら、食べてもらった方がいいです」
脳裏に浮かぶ。
痩せた子供。
焼けた村。
色のついただけのスープ。
「無駄な食品ロスは、作り手の苦労を水の泡にします」
震える声だった。
でも、
止まらなかった。
「それなら、その無駄な食品を少しでも庶民の方達へ回してもいいんじゃないですか!?」
ざわっ――
広間中が揺れる。
騎士たちの顔色が変わる。
使用人たちが、
青ざめながら俯いた。
誰もが理解していた。
この言葉は、
この国の“常識”そのものを否定している。
国王の顔が、
怒りで歪む。
「村を一つ見ただけで、知った風な口を叩くな!!」
怒鳴り声が、
広間を震わせた。
だが。
ミレイユは、
一歩も引かなかった。
「知った風をします」
空気が止まる。
王妃が息を呑む。
ミレイユの瞳は、
真っ直ぐ国王を見据えていた。
「私は、何も知りませんでした」
喉が震える。
「だから、知ろうとしています」
脳裏に蘇る。
血。
膿。
呻き声。
「飢えている人がいるのに」
拳が震える。
「どうして食べ物を捨てるんですか」
国王の額に、
青筋が浮かぶ。
「黙れ」
低い声。
けれど。
ミレイユは止まらなかった。
「暴力では、何も解決しません」
国王の目が、
鋭く細められる。
「力で押さえつけても、人は救われません」
そして。
「あなた達は、この国の上に立つべき人間でしょう!!」
その瞬間。
パァンッ――!!
乾いた音が、
広間に響き渡った。
ミレイユの身体が、
小さく揺れる。
頬が熱い。
叩かれた。
王妃が、
息を呑む。
使用人たちは、
顔を真っ青にして震えていた。
ミレイユは、
ゆっくり頬へ触れる。
じんじんと痛む。
でも。
それ以上に。
胸の方が、
ずっと痛かった。
国王は、
怒りに震える声で吐き捨てる。
「お前はまだ子供だ」
「綺麗事だけで国が回ると思うな」
静寂。
ミレイユは、
ゆっくり顔を上げた。
金色の髪が、
揺れる。
そして。
頬を赤く腫らしたまま、
真っ直ぐ国王を見つめ返した。
「……だから変えるんです」
震える声だった。
けれど。
その瞳だけは、
決して折れていなかった。




