謹慎中につき、婚約者襲来
翌日――
ミレイユは、
盛大に怒られていた。
本当に、盛大に。
役満だった。
結果。
二時間。
きっちり説教された。
⸻
「はぁ……」
長い廊下。
ミレイユは、
大きなため息を吐いた。
金色の髪が揺れる。
「二時間ですよ?」
心底不満そうだった。
「二時間もあれば、
王都に行けたのに」
後ろを歩く三人は黙った。
レオン。
アルフレッド。
セシル。
誰も何も言わない。
言ってはいけない気がした。
「殿下」
レオンが低く言う。
「反省は」
「しています」
即答だった。
「しておりますとも」
「とても」
「ものすごく」
「びっくりするほど」
レオンが眉を寄せる。
嫌な予感しかしない。
そして。
案の定だった。
「次回は見つからないようにします」
「反省していませんね」
即答だった。
アルフレッドが吹き出す。
セシルは顔を覆った。
やがて。
ミレイユの部屋の前へ到着する。
すると。
ミレイユは、
くるりと振り返った。
「レオン様」
「はい」
「本日は休暇を取ってください」
沈黙。
レオンが目を細める。
「……理由を伺っても?」
「わたくし」
胸を張る。
「本日は謹慎です」
堂々としていた。
「部屋から一歩も出ません」
さらに胸を張る。
「絶対にです」
レオンの目が細くなる。
「本当です」
「信じてください」
「本当に出ません」
「絶対に一歩も出ません」
言えば言うほど怪しい。
レオンは無言だった。
ものすごく疑っていた。
「そんな目で見ないでください。
傷付きます。」
「信用がありませんので」
即答だった。
ミレイユが頬を膨らませる。
すると。
アルフレッドも言った。
「休んでください」
セシルも頷く。
「副団長が倒れられる方が困ります」
珍しく。
二人とも真面目だった。
レオンは小さく息を吐く。
そして。
ミレイユを見る。
「本当に出ませんね?」
「出ません」
「本当に?」
「本当にです」
「絶対?」
「絶対です」
レオンはしばらく考えた。
そして。
観念したようにため息を吐く。
「……わかりました」
「休暇を取ります」
ぱぁっと。
ミレイユの顔が明るくなった。
「はい!」
その笑顔に。
レオンの不安だけが増した。
数時間後――
ミレイユの部屋。
静かだった。
珍しく。
本当に珍しく。
外へ出ていない。
ソファへ寝転ぶ。
本を開く。
閉じる。
窓を見る。
時計を見る。
天井を見る。
「……暇ですね」
ぽつり。
そして三十分後。
「暇です」
さらに十分後。
「これは拷問では?」
真顔だった。
その時。
――コンコン。
扉が叩かれる。
ミレイユが顔を上げる。
「どうぞ」
入ってきた侍女は、
どこか言いづらそうな顔をしていた。
その瞬間。
ミレイユは察する。
良い知らせではない。
「殿下」
「はい」
「お客様です」
ミレイユが首を傾げる。
謹慎中。
来客。
この時点で珍しい。
そして。
侍女の表情。
嫌な予感がした。
「どなたです?」
侍女は一瞬迷う。
そして答えた。
「――ルシアン・エヴァルド様です」
沈黙。
ミレイユの瞳が細くなる。
数秒。
何も言わない。
侍女が不安そうになるほど。
静かだった。
やがて。
ミレイユは小さく息を吐く。
「なるほど」
理解した。
ほぼ確信する。
今回の件だ。
人身売買組織。
地下牢。
レオン。
全部繋がっている。
「殿下?」
ミレイユは立ち上がる。
そして。
乱れていた髪を整えた。
服の皺を伸ばす。
鏡を見る。
一度だけ深呼吸。
それから微笑んだ。
完璧な王女の笑みだった。
「お通ししてください」
侍女が目を丸くする。
先ほどまで暇だと騒いでいた人と同じとは思えない。
ミレイユは窓の外を見ながら呟く。
「さて」
小さな声。
「どこまで知られているのでしょうね」
その金色の瞳には。
警戒と。
ほんの少しの闘志が宿っていた。
そして数分後。
王国最高峰の頭脳を持つ婚約者との戦いが始まる。




