傷つく覚悟
孤児院の前庭。
騎士達が慌ただしく動いていた。
縄で縛られていく男達。
保護される子供達。
事情を聞き取る文官達。
泣き出す子供。
安堵する騎士。
長く張り詰めていた空気が、
少しずつ解けていく。
その光景を。
ミレイユは少し離れた場所から見ていた。
風が吹く。
赤く染めた髪が揺れた。
隣には、
アルフレッドとセシル。
しばらく沈黙が続いた後。
アルフレッドが、
ぽつりと口を開く。
「……レオン様一人の功績にするんですか?」
ミレイユは振り返らない。
アルフレッドは続ける。
「殿下のお名前を出せば」
「国民人気なんて、
また跳ね上がりますよ」
事実だった。
孤児院の闇を暴き。
子供達を救った。
そんな話が広まれば、
民は間違いなく熱狂する。
だが。
ミレイユは静かに首を横へ振った。
「必要ありません」
小さな声だった。
「今回は」
「レオン様の功績です」
アルフレッドが眉を寄せる。
「どう考えても違うでしょう」
「最初に気付いたのは殿下です」
「地下へ降りたのも」
「子供達を見つけたのも」
「全部」
だが。
ミレイユは笑わなかった。
ただ静かに言う。
「わたくしは」
「近衛騎士を危険に晒しました」
風が止む。
アルフレッドも。
セシルも。
何も言わなかった。
ミレイユは続ける。
「わたくしが勝手に動かなければ」
「レオン様は捕まりませんでした」
「殴られもしませんでした」
「血を流すこともありませんでした」
声は静かだった。
だからこそ。
重かった。
「これくらいの功績で」
「許されるとは思っていません」
沈黙。
遠くで子供の泣き声が聞こえる。
セシルが、
小さく息を吐いた。
「……後悔ですか?」
ミレイユは、
少しだけ目を伏せた。
そして。
かすかに笑う。
寂しそうに。
「えぇ」
「傷付くのは」
「わたくしだけで十分です」
その瞬間。
アルフレッドが顔を覆った。
セシルは頭を抱えた。
「殿下」
「はい?」
「それ」
セシルが真顔で言う。
「レオン様には絶対言わないでください」
「……?」
ミレイユが首を傾げる。
セシルは即答した。
「傷付きます」
「ものすごく」
アルフレッドも頷く。
「下手したら今夜寝込みます」
「そこまでですか?」
「そこまでです」
即答だった。
ミレイユは、
不思議そうな顔をする。
理解できないらしい。
だが。
二人には分かっていた。
レオンは。
命令だから守ったわけじゃない。
義務だから助けたわけじゃない。
自分で選んで。
自分の意志で。
ミレイユの隣に立っている。
だから。
もし今ここで。
「貴方は傷付くべきではありませんでした」
「わたくしのせいです」
なんて言われたら。
レオンはきっと怒る。
珍しく本気で。
そして。
こう言うだろう。
――殿下。
――勝手に私の覚悟を軽くしないでください。




