逆鱗
男達が、
一斉に飛びかかる。
怒号。
足音。
振り下ろされる棍棒。
だが。
ミレイユは止まらなかった。
――バンッ!!
木板が男の顔面へ直撃。
悲鳴。
崩れ落ちる身体。
その隙に、
身を翻した。
一直線。
レオンの元へ駆ける。
「大丈夫ですか?」
男を蹴り飛ばしながら聞く。
レオンは、
縄で縛られたまま答えた。
「大丈夫に見えますか?」
「見えませんね」
即答だった。
ミレイユは剣を振るう。
縄が切れる。
じゃらり。
レオンの身体から拘束が落ちた。
その瞬間。
空気が変わる。
男達の顔色が変わった。
男が解放された。
それが何を意味するか。
全員理解した。
だが。
ミレイユは、
男達から目を逸らさない。
「ボスはどこですか?」
静かな声。
「元締めは誰です?」
男が笑った。
下卑た笑い。
「言うわけねぇだろ」
「ばーか」
ミレイユは小さく息を吐く。
「今のうちに話した方が楽ですよ」
「後で騎士に捕まれば」
「貴方達の想像より、
ずっと辛いことになります」
男達が笑う。
その時だった。
一人の男が叫ぶ。
「捕まらなきゃいいんだよ!」
そして。
入口付近の男へ向かって怒鳴った。
「おい!!」
「ガキを人質にしろ!!」
その瞬間。
空気が凍った。
男が走る。
だが。
「レオン様」
静かな声。
一瞬だった。
風が吹いたように見えた。
次の瞬間。
男は床へ叩き伏せられていた。
レオンだった。
腕を捻り上げられ。
男が悲鳴を上げる。
そして。
その光景を見た瞬間。
ミレイユの中で、
何かが切れた。
ゆっくり歩く。
静かに。
あまりにも静かに。
男達が後ずさる。
嫌な予感がした。
本能が告げる。
この女は危険だと。
ミレイユは周りの男達を一瞬で倒し、
先ほど指示を出した男の前へ立つ。
そして。
剣先を持ち上げた。
男の口へ。
無理やり押し込む。
「――っ!?」
男の顔から血の気が引く。
ミレイユは笑っていた。
だが。
その笑顔を、
優しいとは思わなかった。
「弱い者を人質?」
静かな声。
「子供を?」
さらに剣が押し込まれる。
男の身体が震えた。
「その口で」
「今まで何人を泣かせました?」
「何人を脅しました?」
「何人の子供を売りました?」
金色の瞳が、
怒りで燃えていた。
「今ここで」
「わたくしが剣を押せば」
「貴方は死にます」
男は動けない。
声も出ない。
静まり返る。
ミレイユは続けた。
「ねぇ」
「恐ろしいですか?」
「怖いですか?」
「助けてほしいですか?」
男が頷く。
その瞬間。
冷たく。
どこまでも冷たく。
「だったら」
「最初からするな」
あと少し。
あと少しで。
剣が押し込まれる。
その時だった。
「ミレイユ様!!!」
レオンの声が響く。
はっとする。
金色の瞳が揺れた。
数秒。
沈黙。
やがて。
ミレイユは目を閉じた。
そして。
小さく舌打ちする。
「……ちっ」
次の瞬間。
――ゴッ!!
剣の峰が男の首へ落ちた。
男は白目を剥いて倒れる。
静寂。
ミレイユは、
ゆっくり息を吐いた。
その背中を見ながら。
レオンだけが理解していた。
今のは。
本当に危なかった。
あと一秒遅ければ。
ミレイユは、
その男を殺していた。




