鎖の先にある希望
頭に、
鈍い痛みが走った。
「……っ」
重い。
身体が動かない。
瞼を開ける。
薄暗い石壁。
鉄格子。
湿った空気。
そして。
じゃらり――
手首から、
金属音が響いた。
鎖だった。
ミレイユは、
ゆっくり瞬きをする。
「……いたた」
頭を押さえる。
どうやら殴られたらしい。
だが。
服は乱れていない。
怪我もない。
周囲に見張りもいなかった。
代わりに。
鉄格子の奥から、
いくつもの視線がこちらを見ていた。
怯え。
諦め。
絶望。
子供達だった。
六人。
ミレイユは、
小さく息を吐いた。
そして。
少し離れた場所に座る少年へ、
声をかける。
「ねぇ」
少年は反応しない。
「そこの少年」
ようやく、
目だけが動いた。
死んだような瞳だった。
「さっきは教えてくれてありがとうございます
もしかして……」
ミレイユは静かに尋ねる。
「あなた達って、商品なのですか?」
少年の眉が動く。
そして。
鼻で笑った。
「そんなのも知らねぇで、
入ってきたのかよ」
掠れた声だった。
「ここはそういう場所だ」
「俺たちは売られる」
「金になる奴から順番に」
ミレイユは、
何も言えなかった。
売られる。
子供が。
人としてではなく。
物として。
この国で。
自分の国で。
王女である自分が知らない場所で。
静かに視線を落とす。
人身売買。
王国法で禁じられている。
発覚すれば重罪。
それなのに。
孤児院が。
子供を守る場所が。
その巣窟になっていた。
ミレイユは、
ゆっくり目を閉じる。
食糧支援。
教育改革。
冬季備蓄。
数字は見た。
資料も読んだ。
会議もした。
だけど。
知らなかった。
本当に苦しんでいる人達を。
本当に助けを求めている子供達を。
何も。
知らなかった。
「あぁ……」
掠れた声が零れる。
「わたくしは」
小さく笑う。
自嘲するように。
「なにも知らなかったのですね」
少年が、
不思議そうに顔を上げた。
泣くと思った。
怯えると思った。
なのに。
少女は立ち上がる。
じゃらり。
鎖を鳴らしながら。
そして。
子供達を見回した。
一人ずつ。
まっすぐ。
逃げずに。
その瞳を見た。
「ごめんなさい」
静かな声だった。
子供達が、
目を見開く。
「もっと早く、
気付くべきでした」
そして。
ミレイユは笑った。
泣きそうなくらい優しく。
だけど。
どこまでも強く。
「必ず」
金色の瞳が、
静かに輝く。
「必ず、
あなた達を自由にします」
その言葉に。
少年は初めて思った。
この女は。
もしかすると――
本当に来てくれたのかもしれない。




