革命は食卓から始まった
王城地下――巨大な食糧庫。
冷たい石造りの空間には、
山のように食材が積み上げられていた。
小麦。
干し肉。
果物。
野菜。
樽に入ったワイン。
塩漬け肉。
高級香辛料。
それは、
一つの街なら数週間は生きられるほどの量だった。
ミレイユは、
ゆっくりと辺りを見渡す。
鼻をくすぐる、
新鮮な果物の香り。
けれど同時に。
その奥から、
どこか腐りかけた臭いも漂っていた。
「……この食材は、どのくらいで消費するのですか?」
隣に立つ料理長へ、
ミレイユは静かに問いかける。
料理長は少し考えるように答えた。
「三日ほどかと」
ミレイユの眉が、
ぴくりと動く。
「三日……?」
視線が、
山積みの食材へ向く。
どう見ても、
食べ切れる量ではない。
脳裏に浮かぶ。
痩せ細った村人。
骨の浮き出た子供。
乾いた畑。
ミレイユは、
ゆっくり口を開いた。
「……余ったものは、どうなるのですか?」
料理長は、
当たり前のように答えた。
「その日の献立は選択制になりますので」
「選ばれなかった食材は破棄されます」
沈黙。
ミレイユの呼吸が、
止まった。
――破棄。
その一言が、
胸の奥へ重く落ちる。
床に落ちたパンを、
あの女は見つめていた。
なのに。
ここでは。
“選ばれなかった”だけで、
捨てられる。
ミレイユの指先が、
小さく震えた。
「……あなた方は、食べないのですか?」
料理長が、
一瞬きょとんとした顔をする。
「我々が、ですか?」
「はい」
料理長は困ったように笑った。
「まさか。貴族様と同じ食材など……」
その瞬間。
ミレイユは、
目を見開いた。
……同じ?
食べ物に?
階級があるの?
前世の記憶が蘇る。
『いただきます』
土だらけの手。
汗を流しながら、
野菜を育てていた人たち。
命を繋ぐために、
必死で働いていた人たち。
その命に。
“貴族用”も。
“庶民用”もあるというの?
ミレイユは、
掠れるように呟いた。
「……勿体無いですね」
料理長が瞬きをする。
ミレイユは、
山積みの食材を見つめたまま続けた。
「食べ物には、階級も何もないのに」
その瞬間。
料理長の目が、
大きく見開かれた。
言葉を失ったように、
ただミレイユを見る。
王女が。
第一王位継承者が。
“食べ物に階級はない”と言った。
それは、
この国で決して口にされない言葉だった。
静まり返る食糧庫。
遠くで、
水滴が落ちる音だけが響く。
ミレイユは、
ぎゅっと拳を握った。
……ここからだ。
飢えも。
格差も。
無駄も。
全部。
ここから変えなければならない。




