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第21話:The Proof of Life(命の証明)

更生センター最下層。厚さ30センチの強化合金で仕切られた独房の前で、真は足を止めた。

「ここで待て。……誰も入れるな。」

背後に控える二人の護衛に短く命じると、真は一人で重厚な扉を開け、中へと入った。


無機質なライティングが照らす狭い部屋、鉄心はベッドに腰掛けていた。入ってきた真の顔を見るなり、鉄心は不敵に笑った。

「……前よりもいい面構えになったな。会長さんよ。」


真は腫れの引かない右頬を指先でなぞり、苦笑いしながら向かいのパイプ椅子に座った。

「……誰のせいだよ...。父さんの拳がこれほど重いなんて、50年前は気づかなかった。……そういえば、俺が中学生の頃、勝手に父さんのレスポールを弾いて遊んでたんだ。」


「そうだったのか?」


「時々、弦が切れてたことあったと思うけど、あれ、俺なんだ。」


鉄心は天井を仰ぎ、声をあげて笑った。

「なんであんなに弦が早く切れるのか不思議だったが、お前だったとはな!」


「あの時に、俺にはギターの才能がないなって思ったんだ...。」


「は、最初から上手く弾ける奴なんていねぇし、俺だって何本切ったか分からねぇよ。」


二人の間に、穏やかな笑い声が流れる。50年の空白が、音楽を通して埋められていくように感じた。

だが、鉄心の目がふと鋭くなった。

「……で。本当は何の話をしにきたんだ、真。昔話を語るために、わざわざ護衛を外に立たせてるわけじゃないだろ?」


真の顔から笑みが消えた。彼は膝の上で拳を握り、神妙な面持ちで父である鉄心を見据えた。

「……現在、父さんが俺に暴行を加えた事実は、JASAの上層部のみが把握している。だが、システムは既に動いていて『最高責任者への反逆』としてデータベースに記録がされている。通常なら、終身刑か、あるいは死ぬまで感覚を遮断される最高懲役刑が下される。」


鉄心は黙って話を聞いている。真の声が、一段と低くなった。

「……本当は、父さんを救いたい。だが、JASAの責任者として、父さんを無罪にはできない。だから、父さんの『被検体としての価値』を取引に使った。……新型脳内信号チップ、その改良のための実験体になることで刑は免れる。」


鉄心の眉がわずかに動いた。

「実験体、か」

「稀に現れる、拒絶反応が強い個体、父さんが処置を取り消せと言った少女がまさにそれだ。JASAの統治下において、現段階では不完全な制御システムを完全なものにするための実験だ。それには強靭な精神力を持つサンプルが必要になる。実験の影響で、脳に致命的な負荷がかかる可能性も、廃人になるリスクも否定できない。……だが、これが、父さんを刑から免れさせ、この施設の中で『生かしておく』ための、唯一の道なんだ」


真の瞳には、かつての冷徹な独裁者の仮面ではなく、親を地獄へ送る決断をしなければならない「息子」の悲痛な覚悟が宿っていた。


鉄心は短く鼻で笑い、立ち上がった。

「……今回の件、俺はすべてを受け入れる覚悟でお前を殴った。だが、お前は俺を庇おうとしてくれている。お前の責任者としての覚悟、受け取った。実験体でも何でも、存分に使え。……その代わり、一つ頼みがある。」


鉄心は真の目を見つめ、静かに、だが力強く付け加えた。

「紗江に、挨拶をさせてくれ。……あいつにも迷惑かけたからな。」


真は小さく頷くと、独房から鉄心を出し、護衛と共に紗江の元へ連れていった。


更生センターの特別治療室。

そこには、紗江と、意識を取り戻したばかりの少女がいた。

真に付き添われ、鉄心が部屋に足を踏み入れる。


「……父さん!」

紗江が鉄心に駆け寄る。

「すまねぇな、紗江。お前の忠告を無視しちまった。」


「別にいいの。あんな風になった父さんは、どんな事があっても譲らないって知ってたから。それに...。」


紗江は、視線をベッドに横たわる少女へと移した。


少女は、虚ろな目で天井を見つめていたが、鉄心の姿を目にしたじた瞬間、その小さな肩が大きく震えた。


(……あの時の!……)


彼女の脳裏に、ショッピングモールで交わした会話や、革ジャンを着た鉄心の記憶が蘇る。

作られた自由という檻の中で、本当の自由を唯一知る男の背中。


「……おじ、さん……?」


少女の乾いた唇から、掠れた声が漏れる。


鉄心は優しい眼差しを彼女に向けた。


「嬢ちゃん、久しぶりだな。名前は?」


「私は織江おりえ あん...です。」


「織江 杏っていうのか。60年以上前に、マイケルジャクソンのサポートギタリスト務めた、オリアンティという名前にそっくりだ。これが50年前の世界ならギタリストとして活動できてたかもな。」


「オリアンティ?...ギタリスト?」


「あぁ、50年前はロックやメタルっていう音楽が沢山あってな。まぁ、下火ではあったが...。」


真が会話に割って入る。


「父さん、これ以上はだめだ。一般市民に余計な情報を伝えないでほしい。」


「...そうだったな。つい熱が入っちまってよ。」


鉄心はそういうと、杏と紗江にさりげなくメロイックサインを送り、別れを告げ去っていった。

ーーーーー


治療室で、紗江は、杏にこれまでのいきさつを簡潔に伝えた。


鉄心が杏の最終処置を取り下げるよう頼んだこと。

そして、自分を被検体としてJASAに差し出したこと。


話を聞きながら、杏は繋ぎとめられた希望と命、そして引き換えになる鉄心の存在を胸に刻み込んだ。

杏の瞳が、これまでと違う輝きを放つのを側で見ていた紗江は、杏に告げた。


「杏ちゃん、父さんの思いを...継いでみない?」


杏は、驚いた表情で紗江を見つめる。


「鉄心さんの意志を...?」


「そう。去り際にあなたに言ってたロックやメタルの再興を、父さんは密かに画策していたの。

でも、父さんはこのままいなくなってしまうかもしれない。最後に私たちに託してくれたメロイックサイン...。きっとあれは、あなたの素質に気付いていたからだと思う。」


紗江は周りを気にしつつも、杏にだけは伝わるように続けた。

「この時代に生まれた”オリアンティ”として、あなたは本当の自分を生きて。」


杏は鼓動が少しづつ早くなっていくのを感じていた。

閉ざされていた世界に一筋の陽光がさす。杏は無言のまま力強く頷いた。



読んでいただきありがとうございます。

今回はオリアンティというギタリストをモチーフに書きました。

少しでも面白いと思っていただけたら、高評価やブックマークをお願いします。

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