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第18話:Mouth for War(父の拳)

午前4時。夜明け前の更生センターは、死を待つ墓標のように静まり返っていた。

紗江は徹夜で不適合者のバイタルを見守り、安定を確認すると、職員に「目を離さないで」と言い残し、重い足取りでプライベート・ラボへと戻った。


ラボの扉が開くと、そこには一人、ソファでギターの弦を交換している鉄心の姿があった。他のメンバーを数時間前に帰した後、鉄心は娘の帰りを待っていたのだ。


「……酷いツラだな。悩んでる時の顔は、50年前のままだぜ、紗江。」


鉄心のその一言に、紗江の張り詰めていた糸が切れた。

本来、収容者の情報は秘匿事項だ。だが、18歳で父を失い、孤独にシステムの中で戦ってきた彼女にとって、50年後に目の前に現れた「変わらない父」の存在は、あまりに大きかった。紗江は、不適合者に下された非常な命令、そして自分の無力さを、絞り出すように打ち明けた。


鉄心は黙って話を聞いていたが、その手の中で、手入れをしていた弦がパチンと弾け飛んだ。胸の奥で、50年分の沈黙を焼き尽くすような怒りが燃え上がっていた。


「……その嬢ちゃんに会わせてくれ。」


二人は沈黙の中で処置室へ向かった。

ベッドに横たわる不適合者の顔を見た瞬間、鉄心の表情が凍り付いた。

「いつか革ジャンを着てみたい」と言っていたあの娘だったのだ。


「……あの時の嬢ちゃんだ。……そうか、俺と会っちまったせいで、脳内の『火』が燃え上がっちまったんだな。」


鉄心は自分の責任を悟った。同時に、もう引き返せないことも。

まことに繋げ。……親子の話し合いの時間だ。」


ーーーーーー


JASA最高責任者、真の執務室。

15分という時間を与えられ、鉄心は足を踏み入れた。紗江からの「無茶はしないで」という脳内信号を無視し、鉄心はデスクに座る息子を睨み据えた。


「真。……あの娘の処遇を取り消せ。いいか、これは『お願い』じゃねえ。父親としての『教育』だ。」


真は視線すら上げず、淡々と答えた。

「……無意味な要求だ。彼女はJASAの掟に照らし、既に人間としての機能を維持する資格を失っている。それよりも、私の貴重な時間をそんなしょうもない『教育』とやらで消費させないでほしい……。」


「真、本気で言ってるのか?」


「本気ですよ、私はJASA最高責任者だ。責任者たるもの規律と秩序は守らねばならない。もはやJASAは世界基準であり、各国でも完全調律による統制によって世界の秩序が保たれている。

たかが一人の不適合者の尊厳に価値はない。世界の秩序に比べたら。」


「...そうかい、どうやら....俺が眠ってる間にお前は自分の尊厳すらも無くしちまったみてぇだな。

 もう一度聞くぞ。真、お前は...本気であの娘の処遇は取消さないんだな?」


「くどい!処遇の取消はしない!さっさと帰っ...」


――ドゴォッ!!


重厚なデスクが揺れ、真の顔面が弾け飛んだ。

鉄心の、怒りの拳が真の頬を捉えた。システムや規律など微塵も介さない、剥き出しの衝撃。


「……50年の空白があったとはいえ、俺はお前をそんな風に育てた覚えはねえぞ、真ッ!」


床に崩れた真の襟髪を掴み、鉄心は咆哮した。

「お前と過ごした21年は、JASAの薄っぺらい掟に負けるほど、安っぽいもんだったのか!? 自分の妹に、人を人形に変えるボタンを押させるのが……お前の望んだ未来なのか!?」


真の口端から鮮血が滴る。その目は驚愕に揺れていた。2076年の世界で、これほど理不尽で、熱く、痛い「感情」をぶつけられたのは初めてだったからだ。


だが、直後に警報が鳴り響く。

「侵入者確保! 繰り返す、侵入者確保!」


武装した警備ドローンと兵士たちが真の執務室にかけこみ、鉄心を取り押さえる。

鉄心は組み伏せられながらも、最後まで真の目を逸らさなかった。


「……目を覚ませ、真。JASAの責任者だかなんだか知らねぇが、俺の息子ってことを忘れんな。」


次の瞬間、鉄心は首筋の鋭い衝撃を受け意識を失った。

読んでいただきありがとうございます。

タイトル「Mouth for War」はPANTERAの曲です。

最高に痺れるメタルなので是非聴いてみてください。

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