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第14話:Gathering of the Sins(罪人集結)

「……ここが、音響更生センター主任のプライベート・ラボか。あまりに静かすぎて、逆に落ち着かないな。」


沢江は、タケルの後ろを歩きながら眼鏡のブリッジを押し上げた。

JASAのエリート奏者である彼にとって、ここは「規律を外れた者」が送られる場所だ。だが、自動ドアが開いた先に待っていたのは、白装束の看守ではなく、時代を丸ごと踏み外したような「ノイズ」の塊だった。


「よう。遅かったじゃねえか、タケル。そして久しぶりだな。」


腕を組みながらソファに堂々と座る男――佐々原 鉄心。

そう、彼こそが50年の眠りから目覚めた旧時代の遺物にして、この時代の異端児。

そしてその隣には、80年代のメタラーを彷彿とさせる金髪ロングヘアの若者、ノアが立っていた。


「鉄心さん、来てたんですね!お久しぶりです!あ……こちらは楽団の方で、コントラバス担当の沢江さんです!」


タケルの紹介に、鉄心は鋭い視線を沢江に向けた。

「……国立のベース弾きか。いい指をしてやがるが、顔色が白すぎるぜ。俺から放たれるカリスマオーラの刺激が強すぎるか?」


「初めまして。……驚きました。まさか、あなたがあの50年の眠りから覚めた人だったとは...。まさに眠れる獅子が目覚めたような感じですね。」

沢江は冷静を装ったが、内面の動揺は隠せなかった。そして、その様子をモニター越しに見ていた紗江が、静かに口を開いた。


「沢江さん。あなたの経歴、少し調べさせてもらったわ。……幼少期、JASAの英才教育の一環で、『不浄な音楽のサンプル』として旧時代のロックやメタルを聴かされているわね?」


沢江の眉が微かに動いた。

脳内の奥底に封印していた記憶。

『これが人類を狂わせた悪魔の音だ』と教官に諭されながら聴いた、歪んだギターと叫び。

周囲の子供たちが耳を塞ぐ中、幼い沢江だけは、その激しい鼓動に胸の高鳴りを抑えられなかった。

(……本当は、知っていたんだ。あの音が、どんな規律よりも「自由」だったことを。)


「……えぇ、その通りです。だからこそ私は今、JASAの忠実な楽団員として生きることができているんですよ。」


「確かにそうね。でも、あなたの指先は嘘をつけない。タケル君のリズムに共鳴した時点で、あなたはもうこちら側よ。歓迎したいのは山々なんだけど……ここにきて大きな問題があるわ。」


紗江がホログラムで沢江の脳内チップの構造を展開した。


「国立マーチング・フィルハーモニーの主要メンバーであるあなたのチップは、一般市民とは違う『高密度監視仕様』。楽団のIDと完全に紐付けられていて、無理に書き換えれば即座に本部へ警報が飛ぶ。……つまり、あなたはタケル君のように『偽装』してメタルを演奏することはできない。表舞台に立ち続ける限りね。」


部屋に重苦しい沈黙が流れた。

タケル、鉄心、ノア。自由な翼を得ようとする者たちの中で、沢江だけが「規律」という名の鎖に繋がれたままだった。


「……皮肉なものですね。私は、あなたたちの音楽を一番近くで聴くことができる可能性がある。

けれど、その輪に加わることは、私の存在そのものを抹消することを意味する。」


沢江は自嘲気味に笑った。

だが、その瞳には諦めではない、別の光が宿っていた。


「……私は楽団に残り続けます。情報の提供、練習場所の確保、そして石田さんの目を逸らすための盾。……演奏はできなくても、このままタケル君のサポーターとして、あなたたちの活動を支えてみせます。」


「ハハハ! 気に入ったぜ、沢江。」

鉄心が立ち上がり、沢江の肩を叩いた。


「弾けねえのは残念だが、お前みたいな『冷静な狂人』が裏にいてくれりゃあ、俺たちは思い切り暴れられる。……おい、ノア! 新しい仲間に、景気づけの一発を聞かせてやれ!」


「オーライ、テッシン!」

ノアが大きく息を吸い込む。


「アーーーライッ!! 」


ラボの防音壁が震えるほどのハイトーン。

電子補正一切なし、2076年の世界では「死滅」したはずの野生の咆哮。

その音を至近距離で浴びた沢江は、全身の産毛が逆立つのを感じた。

チップが警告を発する。だが、沢江の魂は、かつて幼い頃に感じたあの「格好良さ」に、今度こそ完全に降伏していた。


音響更生センターというJASAの核を担う施設の最深部で、

メタル再興という名の下に集った罪人達が、ついに集結した。

読んでいただきありがとうございます。

ノアが叫んだ「アーーーライッ!」。分かる人は分かりますね。

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