表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/28

第13話:Eagle Fly Free(遥かなる自由へ)

2076年、千葉県。かつて房総の「マッターホルン」と呼ばれた伊予ヶ岳の山頂。

JASAの監視ドローンが時折空を巡回する中、一人の男が軽快な足取りで岩場を登りきった。


「ふぅ……。やっぱり山頂の空気は、50年経っても変わらねえな。」


鉄心は、最新の超軽量ザックを下ろし、大きく背伸びをした。

手元のデバイスで調べた「令和の登山装備」に感動し、ノリノリでやってきたのだ。眼下に広がる景色を眺めながら、鉄心は無意識に、脳内に刻まれた黄金時代のリズムを口ずさみ始めた。


「♪In the sky, a mighty eagle~...」


それはジャーマン・メタルの至宝、Helloweenの不朽の名曲『Eagle Fly Free』。

鉄心の鼻歌は、次第にボリュームを上げ、サビに差し掛かったその時だった。


「――♪EAGLE FLY FREE! 」


突如として、背後から完璧な発音と、雷鳴のようなハイトーンが重なった。

鉄心が驚いて振り返ると、そこには80年代のメタラーを訪仏させる金髪のロングヘアーを靡かせた、体格の良い一人の外国人の若者が立っていた。


二人は視線を合わせたまま、どちらからともなく歌い続ける。

「♪Whoa-oh-oh! Ahaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


山頂に響き渡る、時代から取り残されたはずの禁断の旋律。

最後のロングトーンを二人で完璧に歌い切った瞬間、静寂が訪れた。


(なんだ、この若者は。声帯の強さが尋常じゃねえ。まるで全盛期のマイケルキスクじゃねぇか。)


(このオジサン、何者だ? 日本でこの曲をソラで歌える人がいるなんて。)


二人は数秒間、無言で見つめ合った。

そして、どちらからともなく、ゆっくりと右手を掲げた。人差し指と小指を立てる「メロイック・サイン(デビルホーン)」。

JASAのドローンが遠くでブーンと空虚な音を立てる中、岩場に立つ中年男と若者が、無言でツノを突き出し合う。シュール極まりない光景だが、その場の空気は1万度の熱を帯びていた。


「……アンタ、最高だぜ。今の時代にその歌を歌うなんてよ。」


鉄心が笑いながら声をかけると、若者は驚いたように目を見開いた。


「……アナタこそ。僕はノア。ノア・シュミットです。ドイツからの留学生。日本に来て3年、初めて出会いました。この『聖歌』を歌える日本人に。」


ノアの話によれば、世界中がJASAの「平準化」に飲み込まれた今も、ドイツではメタルは「文化的遺産」として、聴くことだけは細々と許されているのだという。


「ドイツ人にとって、メタルは日本でいう『エンカ』みたいなもの。誇りです。でも、演奏するのは禁止……歌う場所もない。だから、僕はこうして山に登って、農場の牛を追う時みたいに大声を出していた。時々ドローンに怒られたことある。ハハハ。」

ノアは屈託のない笑顔で笑った。


「農場、か。道理で良い喉してやがる。地声がデカいのはメタラーの基本だからな。」


鉄心は、ノアの真っ直ぐな瞳の奥に、かつての自分たちと同じ「飢え」を見た。

タケルが楽団でリズムを磨いている今、そのリズムに乗せるべき「声」が、向こうから歩いてやってきたのだ。


「ノア。お前のその声、山に放り投げるだけじゃもったいねえな。……もっとマシな『叫び方』、興味ねえか?」


鉄心の不敵な笑みに、ノアはごくりと唾を飲み込んだ。

運命の鷲は、再び空へと舞い上がろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

今回はHelloweenの名曲『Eagle Fly Free』をモチーフにストーリーを書きました。

自分の好きなように小説を書けることは凄く楽しいですね。

少しでも面白いと思っていただけたら、高評価やブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ