8.運命の夜
『夜の帳屋』に着くとまだ夕刻前だったが。
ロビーには数組のパーティが夕食をとっている。
デミオ達と目を合わせるとさっと目を背ける。
デミオは気にせず風呂で汗を流すことにした。
少し熱めのお湯が心地いい。
デミオがホールを抜けようとした。
そのとき1人の端正な顔立ちの男が立ち上がった。
青い皮手袋が印象的だ。
急ぎ足でこちらに向かってくる。
デミオは真っ直ぐ彼を見ている。
「いい話があるんだ」
「明後日皆でコボルト狩りをしようと思うんだ」
「君もどうだい?」
デミオはエマの話を思い出していた。
デミオが切り返す。
「コボルトキングだろ?」
「リーダはアインだよ」
ファイターはデミオをみつめ黙ってしまった。
デミオは振り返り階段を上る。
男はそのまま首を振りながら元の席に戻る。
デミオはホールを後にした。
よほどアイン達と関わりたくないようだ。
どういうことだろう?
部屋のドアをあけると・・・
アインとマイクが神妙な顔で椅子に座りながらこちらを見ている。
アインがデミオに椅子を勧める。
デミオが座ると。
アインがゆっくりと話し始めた。
「大事な話があるんだ」
「冒険者は過去の詮索をしないが不文律だけど」
「マイクと相談してここでハッキリさせるべきだと結論した」
「実はマイクのことなんだ」
アインはマイクをもう一度見て何かを確認する。
「マイクの実力はわかってくれたと思う」
「それから他のハンターの反応もね」
「マイクは優秀なヒーラーだ」
「将来司祭にすらなれると有望視されていたんだ」
「でも中央教会から破門された」
「理由は人間も人間以外も等しく救うべきだと言って実践したからだ」
「師事していた司祭が神への冒涜だと騒いでね」
「大変な騒ぎになったよ」
マイクが黙っていられないと話す。
「ドワーフやボピット、リザードマンだって少し姿が違うだけなんだ」
「神が人間だけを助けるなんて一言も言ってないよ」
アインはやれやれと首を振りながらマイクを静止する。
「そういう訳で、マイクと一緒にいると中央教会からにらまれる」
「皆そう考えているわけさ」
「実際には機会があれば嫌がらせくらいはあるかもしれない」
「でも今のところ実害は無いよ」
デミオはこのパーティがなぜ今まで2人だったのか。
理解できた。
デミオにとって中央教会なんてどうでもいい。
そんな場所に行きたくないし。
神の怒りなら最初から受けている身だ。
アインはデミオに動揺が無いのを確認する。
アインの目つきが鋭くなる。
「次にデミオ、君の事だ」
「人間じゃないよね!」
デミオの背中につめたい汗が流れた。
一気に気温が下がった気がする。
どうしてばれた?
食事が不自然だったのだろうか?
「イビルアイ」を見破られた?
いや最初から判っていた可能性もある。
いつの間にかアインもマイクも武器を手元に置いてある。
喉がカラカラに渇いた気がする。
やがてデミオは
「僕は悪魔なんだ」
アインとマイクに緊張が走る。
デミオは首を振りながら「抵抗する気はないよ」
アインがかすれた声で話す。
「目的はなんだい?」
「僕は人間界を見てみたかったんだ」
真っ直ぐアインを見つめる。
「魂が欲しいのかい?」
デミオはきょとんとする。
「悪魔が魂を欲しがるのは本当だよ」
「でも僕は要らない」
「そもそも出来損ないの悪魔なんだ」
「もらい方も知らないし、使い方も知らない」
今度はマイクがきょとんとする。
「君は悪魔だと言うけど。」
「悪魔は夜しか活動できないだろう?」
「ここには悪魔よけの札もあるんだよ」
「そうだね。言い方を変えよう」
「僕は悪魔としての能力が極端に低い悪魔だ」
「だから悪魔的弱点も弱いのかもしれない」
「強い光には弱いけど、ゴーグルなどを使えば問題ない」
「悪魔よけの札は有効だけど」
「君が招き入れてくれたんだよ」
マイクはびっくりした。
「すると僕が君を招いた・・・?」
確かに思い返すとそうだったかもしれない。
「それと重大な問題があるんだ」
「僕は悪魔に追われている」
「一緒にいると襲われるかもしれない」
「もちろん悪魔よけの札は有効だからここにいれば問題ない」
突然アインが大声で笑い出した。
「これは傑作だ」
「僕とマイクは君といると悪魔に睨まれる」
「君は僕とマイクといると神に睨まれる」
「それで何か今までと変わったかい?」
「これからパーティとして活動するには君の本当の能力が知りたい」
デミオはびっくりした。
「僕は悪魔だよ。しかも強くないんだ」
「人間でもっと強い人と組んだほうが得だよ」
アインはマイクと少し見てからデミオに話し始めた。
「僕はマイクの直感を重視しているんだ」
「実は今までも何人かパーティに入りたいと言ってきた人が居るんだ」
「けどマイクが縦に首を振った人はいない」
「デミオ、君は純粋だよ」
「僕達だけではないよ、あのエマも認めているんだ」
なんだって?
そんな話があるはずがない。
大体エマには2回しか会ってない。
アインは真面目な顔つきになって。
「そうだね。では僕の秘密も言うよ」
「僕はこの都市エイブルの議長ビクセン・ドレアーの息子だ」
「半分勘当されいるけどね」
マイクが口を挟む。
「当たり前だよ」
「将来の議長の席を蹴って冒険者になるなんて言うからだ」
アインは照れたようにはみかみながら
「僕は世界を見てみたいんだよ」
「エイブルだけが世界じゃないだろ?」
マイクがまくしたてる。
「貴族だってエイブルの議会に入れないんだぞ、それを蹴るなんてどうかしているよ」
「そういうマイクだって司祭の座を蹴ったじゃないか」
マイクはグーの根も出ない。
「この宿のハンター達は僕の親父の影におびえているのさ」
マイクがデミオに言う。
「君の今までの話をしてくれないか?」
デミオがゆっくりと話し始める。
夜がゆっくりと更けていった。
やがてアインがデミオに告げる。
「これはもう普通の話ではないようだ」
「種明かしをするよ」
「まずこの町のルールについて」
「都市の役人、兵士は全て元ハンターだ」
「そしてエマやこの宿の主人エドガーは議会の議員だ」
「特にエマは最高議員の1人、給料は議長より上と言う話」
「最初に聞いたエマの情報で重要なのは2点」
「議会はハンター協会を使って人材確保するということ」
「人材育成のサポートをハンター協会がやると言うこと」
デミオは目を丸くした。
そんな話、していただろうか?
「実はハンターになると冒険者登録できない」
「ただしレベル5になると役人になるか冒険者になるか選択できる」
「逆に冒険者はハンターになれるが、ハンター協会のサポートを受けれない。」
「そして『夜の帳屋』はレベル1~2のハンター専用宿」
「安価なのに清潔な部屋と薬湯入りの風呂、栄養価の高い食事」
「おかしいと思わなかったかい?」
「そしてサポートを受けられるのはエマの情報をちゃんと聞いて判断できた者だけ」
「当たり前だろ。将来の役人候補だ」
「最初から振るいにかけるさ」
マイクもびっくりした顔をしている。
「全部秘密なんだ」
「役人は秘密を話すのを禁止されている」
「もちろん気に入った者にアドバイスくらいはOKだよ」
「デミオは殺されるはずが生き残り」
「死ぬはずの事故に死なずに」
「上級悪魔は人間界に行けないのに人間界に行けて」
「文字通り裸でデザートタイガーに襲われたのに運良く勝てて」
「本来通れないのに門番が通してくれ」
「おまけにこの町の秘密に関わるぎりぎりのアドバイスをもらった」
「ハンター協会のエマに気に入られて」
「手厚いサポートを受けた後」
「レベル1最強のパーティに入って」
「悪魔でも問題ないと考えている2人がいる」
「こんな話あると思うかい?」
「嘘ならもっとましな嘘があるだろう?」
「言葉が悪かったね」
「冒険者が生き残るには強さがいるよね」
「でもそれだけではだめなんだ」
「君にはその力があるということさ」
「あと、この町の議会の力とエマの能力を舐めないほうがいい」
「何気なく装備を売っているように見えるけど」
「こちらの懐さえも正確に見透かしている」
「ぎりぎりラインなのはわざとさ」
「あらゆる情報から総合して、その人物の評価をしているんだ」
「手の内を知っている僕みたいなのはやりにくいだろうね」
「でも密かにエマは僕達を応援しているんだよ」
「さあもう遅いから休むことにしよう」
「デミオ本当は武器を使ったこと無いんだろう?」
「明日コボルト狩りで僕の技を教えるよ」
デミオはベッドに潜り込むとアインの話を推敲していた。
確かに幸運と一言ではいえない。
どう受け止めればいいのだろうか?
窓から月の明かりが射している。
満月の夜だった。




