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6.出会い

デミオはハンター協会をでると『夜の帳屋』に向かっていた。

別に疲れていない。

眠りの必要もない。

しかし普通の冒険者ならそうするだろう。

なるべく目立たないようにしなければならない。

と考えただけだ。

おそらく護符で自分は入れないだろう。

町をうろつくのも有かも知れない。


夕暮れの通りを進むと直ぐに『夜の帳屋』が見えてきた。

古い建物でパッとしない。

周りの建物がカラフルなのに比べると、少し地味だ。

入口はやはり障壁があるようで入ることはできない。

しかたなく前を通り過ぎた。

湖沿いに並ぶ市場に向かう。

活気に満ちた市場は大勢の人でごった返している。

ぶつからずに歩くのは困難だ。

様々な店が軒を連ねている。


果物、肉、野菜、燻製、香辛料、陶器、武器、防具、薬、嗜好品。

あらゆる品がここで手に入れることができる。

お菓子のやける甘い匂いも漂っていた。

ふと見ると狭い路地の先に2~3人の男。

なにやら声を荒げながら言い争っているようだ。

つい気になって近づいてみた。


「・・・だからそういうことじゃないんだ」

「誠意を見せろって言ってんだろうがよ」

3人の男が、1人の若い男を囲んでいる。

真ん中の品の無い大男が若い男の胸倉を掴んでいる。

右手の男は短いチョッキを着てポケットに手を突っ込んでいる。

何かを握り締めているようだ。

不意にデミオに気づくと

「何を見てんだ。あっちに行け」

と言い放った。


デミオは右手の男はたいした事無いと判断した。

しかし真ん中の男は少々分が悪い。

余計なトラブルはまずい。

このまま立ち去るべきだろうか?

その時後ろから2人の兵士が走ってきた。

3人のごろつきはあわてて走り去る。

兵士達はそのまま男達を追って路地に走り去っていった。

路地にはデミオと若い男だけが取り残された。


若い男がデミオの前に進んできて告げた。

「助けてくれてありがとう」

「僕はマイク、クレリックです」


デミオは真っ青になった。

クレリックだと?

悪魔の自分にとって最悪の相手だ。

いずれは出会うとは思っていた。

がまさかこのタイミング何という不運。

見破られる前に一刻も速く逃げなければならない。


「いや。僕は何もしてないよ。助けたのは兵士だろ?」

マイクは一気にまくし立てる。

「いやいや。結果はそうかもしれない」

「けど、僕は君が来てくれて助かったのさ」

「町を歩いていたら。さっきのやつらにぶつかって」

「骨が折れたから治療したいって言うんだ」

「ヒール掛けるよって言ったんだけど」

「気に入らなかったみたいなんだよね」

「これでもヒールは得意なんだ」

「骨折の治療だって何度もやったし」

「信用してなかったのかな?」

事情はわかった。

がそんなことはどうでもいい。

今は何とかして話を切るべきだ。


「怪我がなくて何よりだよ。」

「すまないがもう宿に戻ろうと思うんだ」

マイクは一瞬戸惑った顔をしたが、直ぐに

「あ、君もハンターか」

「そうだね、もう夕暮れだから宿に戻るべきかもしれない」

「どこの宿?」

いい流れだ。


「『夜の帳屋』」

マイクはニコリとして言った。

「なんだ同じじゃないか。行こう」

最悪だ。

なんてことだ。

他の宿の名前など知らない。

つい言ってしまったが完全に裏目だ。

マイクはさっさと前に進む。


仕方なく後ろについていく。

走って逃げるべきか?

いやそれでは余計怪しいだろう。

直ぐに『夜の帳屋』に着いた。

マイクは先に入口に入る。

当然デミオには入ることはできない。

マイクはデミオを見て。

「どうしたの入りなよ」

障壁が消えるのを感じた。


デミオは

「実はまだ部屋を予約してないんだ」

と言った。

マイクはニコリと笑って

「なんだ問題ないさ」

と言って中に入っていく。

デミオもため息を付きながら中に入ることにした。


エドガー・ランスは『夜の帳屋』の主人で、190センチ近い無骨な初老の男。

無愛想で無口、鋭い眼光、逞しい腕、傷のある頬、とても商人には見えない。


マイクは宿の主人エドガーと話している。

「僕の仲間だよ。」

「部屋は同室でいいからチェックインね」

「名前は~」

と言いながらデミオを見る。

勝手に話が進んでいく。

しかたなく「デミオ」


終わった。

はるばる人間界まで逃げてきた。

があっけない最後だ。

1階のフロアーには10人以上の屈強なハンターがテーブルに座っている。

全員の視線がデミオに絡みつくのが感じられた。

今から走って逃げることは不可能だ。


クレリック恐ろしいやつだ。

言葉巧みにあっという間に捉えられてしまったようだ。

エドガーはデミオをつま先から頭まで回し。

「宿代は1日銅貨5枚、前払いだ」

「朝食と風呂がサービスで付いている」

「ベッドに入る前に風呂に入ってくれ」

というと掌を差し出した。


デミオは巾着から銅貨を5枚取り出すと掌にのせた。

マイクが階段を昇っていく。

デミオは後ろから付いていく。

まるで死刑台に昇る階段のように感じる。

1歩1歩が重い。

ドアを開けるとこじんまりとしているが掃除の行き届いた部屋に入る。

剣を脇に立てかけた大柄の男が椅子に腰掛けていた。


マイクは振り返って

「アイン。こちらはデミオ君」

アインと呼ばれた男はデミオをじっと見つめる。

やがて「アイン・ドレアーです。ファイターよろしく」

マイク「町で不良に絡まれてデミオ君に助けてもらったんだ」

マイクは早口で一方的に話しまくる。


やがて1通りの話を聞き終えたアインが

「デミオ君でよかったかな?」

「マイクが迷惑を掛けたみたいで、すまなかった」

「決して悪気があるわけではないのだが、夢中になると周りが見えない悪い癖があってね」

「でもヒーラとしての腕は大した物だよ」

「明日コボルト狩りに出ようと思う。君もどうかな?」

デミオはマイクとアインを交互に見た。

どうやら自分が悪魔だとはばれていない様だと気付いた。

首の皮一枚で命が繋がったようだ。


どうやらクレリックと言えども悪魔を見破れるわけではなさそうだ。

いやもっと上級のクレリックにはできるのかもしれない。

がひとまずここは誘いに乗るしかないだろう。

「デミオ、モンクです。」

「今日登録したハンターだから詳しい話をお願いします」


アインは一呼吸おくと説明を始める。

「コボルトは1メートルくらいの小柄な魔物」

「1匹1匹はそれほど強くないが群れをなしていることが多い」

「町の南の森に大量発生したようで今月はボーナスモンスターだ」

「弓を使ってくる赤コボルトや、魔法の使える黒コボルト等の亜種もいる」

「明日の標的は通常のコボルトで武器は棍棒や槍のやつだ」

「もし赤や黒が出たら直ぐに撤退」

「戦闘は僕がやるから君はマイクを守ってほしい」

「倒したら、頭の角を持ち帰る」

「後でハンター協会で換金だ」

「報酬は3等分、割り切れない分はリーダの僕がもらう」

「マイクはヒール、祝福、エンチャントウェポンが使える」

「出発は明日の朝、なにか質問は?」

デミオは少し考えやがて

「報酬に問題がある」


「僕の報酬は僕が倒した分だけでいい」

アインとマイクは顔を見合わせた。

わざわざ不利な条件を言うやつがいるだろうか?

こいつ馬鹿なのか?

それとも自分の役割が理解できなかった?

「それだと君の報酬は殆ど無くなるよ」


デミオはアインを見つめながら真面目な顔で言った。

「でも勉強になるし、僕は始めての狩だ」

「幸いまだ宿代には困らない」

アインは少し考え込んでいたが

「判った明日はその条件で行こう」

「今日はもう休むといいだろう」

「1階の奥に風呂場があるから体を洗ってくるといい」

「ああ見えて宿の主人エドガーさんは綺麗好きなんだ」

「怒らせると怖いよ」

とにやりと笑った。


デミオは1階に降りる。

1階では10数人のハンターが何かの肉を肴に酒を飲んでいる。

デミオが階段を降りるときから、あちこちから視線を感じる。

時折ささやくように話しているようだが、会話の内容は聞き取れない。

主人のエドガーはモップを片手にホールの様子を観察しているようだ。

デミオは風呂⇒と書かれた標識を横目にホールを後にした。


風呂場に着いた。

中央の大きな桶にたっぷりとお湯が張ってある。

縁に1メートルくらいの細かい葉っぱをつけた枝が何本も置いてある。

風呂場にはデミオ1人だ。

チョッキを脱ぐとお湯に手を浸してみた。

40度くらいのお湯だ。

水浴びくらいはやったことがあるが、風呂に入ったことは無い。

やり方はよくわからない。

がここ数日血と砂にまみれて体を洗いたいと思っていたところだ。

ひとまず、葉っぱでお湯をジャブジャブとかき回して体に掛ける。


なにかの清涼感のある香りが漂っている。

右手の傷を見てみるともうほとんどどふさがっている。

明日の狩には影響ないだろう。

綺麗に血と砂を洗い流すと気分がすっきりとしてきた。

外目にはパッとしない宿だが中は広く快適だ。

もっと外装をいい物にしたら高級旅館と比べてもそん色ないだろう。


部屋に戻るとマイクが

「風呂はどうだった」

「結構いいだろ」

「この宿の風呂と朝食は最高なんだ」

「あれで主人がもっと愛想よければな~」

「僕とアインは夕食に行くけど」

「君はどうする?」

デミオは少し迷ったが

「部屋で休んでいるよ」

と言った。


マイクはデミオをじっと見ていると

いきなり歩いてきた。

「右手怪我してるね」

「ディレイ・スモールヒール」

 !!!!

びっくりしてデミオは飛び上がった。

ヒールだと・・・

悪魔の自分が受けたらどうなるんだ?

右手にかすかな光が点り。

傷口が見る見る消えていく。

しばらくするとまったく傷がなくなった。

恐る恐る腕を動かしてみる。

なんとも無い。


神の力を悪魔が受けても問題ないのか?

これは予想外の出来事だった。

しかし、判った事実は大きい。

少なくともヒールは問題ないということだ。


マイクがびっくりした顔をしている。

「ごめんいきなりやったらびっくりするよね」

「でも傷なおっただろ?」

「通常のヒールより僕はディレイ系のヒールが好きなんだ」

「即効性が無いけど回復量が大きいのだよ」

「皆そんな呪文使えないって言うけど」

「用は使いようだよ」

マイクは相変わらす1人で喋りまくる。


アインがやれやれと言う顔で

「マイクそろそろ遅くなりそうだ」

「食事に行こう」

マイクは

「ごめんごめん」

「つい夢中になったようだね」

「明日のために食べるぞ~」

といいながら2人は部屋を出て行った。


デミオは部屋でベッドに寝転がった。

ふかふかで白いシーツがしっかりと張られている。

デミオは今まで冷たい硬いベッドしか知らない。

人間界はなんと驚異に満ちているのだろう。

暖かいベッドに包まれるような寝心地。

眠る必要なないが、きっとぐっすりと寝れるだろう。


明日の狩で自分は戦えるだろうか?

ウッドハンマーを振り回してみる。

重いヘッドがぶんぶんとうなりを立てる。

思ったよりバランスがいい。

自分の思ったコースにヘッドが走る。

デミオは武器を使ったことが無い。

周りの悪魔も武器を使っていなかった。

大王だけはアスタリオスハンマーを持っていた。

が使っているところを見たことがない。

使い方はよくわからない。

がヘッドを相手に当てればこの威力だ。

倒せなくても弾き飛ばすくらいはできるだろう。


ベッドにハンマーを立てかけると

今日1日遇ったことを思い出していた。

覚えた単語を1つづつ発音してみる。

意外と簡単な発音が多い。

もう少し練習すれば、いずれイビルアイに頼らなくても良くなるだろう。


マイクの話し声が聞える。

どうやら2人が帰ってきたようだ。

静かに夜が更けようとしていた。

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