3.たびだち
いよいよデミオリクスの旅立ちです。
どのような運命が待っているのでしょうか?
・・・・次の瞬間ふと目が覚めた。
凄まじい爆発の嵐が過ぎ去っていた。
部屋の壁は殆ど残っていない。
上層階まで天井が吹き飛び上空が見える。
デミオリクスはなぜ自分が無事だったのか理解できなかった。
服は消し飛び。
焼け焦げて半分になったパンツがかろうじて残っているだけだ。
胸から粉々になったネックレスが滑り落ちた。
デミオリクスは自分が致命的な失敗を犯したことに瞬時に気づいた。
幸い体に異常はない。
少し頭がくらくらするが、何をすべきか判っている。
今は直感に従うべきだ。
回廊を半周してウロボロスの鏡に向かうのだ。
オルソロスはいつでも鏡を使えるように魔力を供給していたはずだ。
ウロボロスの鏡を使って人間界に逃げるしかない。
ふらふらと千鳥足で部屋を出て回廊を進む。
幸い回廊は崩れることなく健在だ。
ようやく目的の鏡が見えてくる。
奥には大図書館への入口があるが、鏡があるのはその手前のつきあたりだ。
図書館まで行けば有効な本を何冊か持ち出せるかもしれない。
が今はそんな時間はないだろう。
鏡の手前に上級魔獣のケルベロスがいる。
血走った目を怒らせてふうふうと大きな息をしている。
3つの頭のうち右の口元から涎が流れ落ちていた。
恐るべき魔獣であるケルベロスは3つの頭が独立して判断を行う。
不審と判断されたら一撃で即死だろう。
以前この鏡を見たときはオルソロスが付いていてくれた。
今は一人だ。
ケルベロスは以前の記憶を留めているだろうか?
しかし、ここを抜けるしか鏡への道はない。
デミオリクスはできるだけ堂々と目の前を進む。
ケルベロスはちょっとこっちを見ていたが直ぐに前を向いた。
どうやら通してくれるようだ。
鏡はどこに繋がっているか判らない。
以前オルソロスがしてくれた説明では、次元軸がどうのこうのと言っていた。
が自分には難しいことは判らない。
悪ければ即死かもしれない。
しかしこのままここに留まれば確実な死だ。
鏡に飛び込むしかないのだ。
より生存確率の高い方に賭ける。
今はそれしかない。
迷わず飛び込んだ。
鏡の中は真っ暗な渦。
ナイトビジョンでも周りの様子がまったくわからなかった。
高粘度の見えない渦が、体にまとわりついている。
まるで泥の中のように身動きが取れない。
泥のワタに包まれてぐるぐると回される感覚だ。
流れに身を任すしか方法が無かった。
どれほどたったのだろうか。
数分なのか、それとも数日か。
時間の感覚が無い。
やがて光が見えてきた。
フォレス6世は玉座で頭を悩ませていた。
デミオリクスをどうするかだ。
殺してしまうのは簡単だ。
がここまで手をかけたものを無駄にするようで少しはばかれる。
かといって有効な使い道があるだろうか?
警備ならどうだ?
空が飛べないのだったな、では門番か?
そもそも低級悪魔以下の戦闘能力で何を守るのだ。
お使いすらできないということか?
うーむ使えん、実に使えんぞ。
その時凄まじい衝撃が突上げ玉座が粉々に砕け散る。
爆発の瞬間、フォレス6世はすばやく暗黒闘法を開放。
一気に7重強化で身体能力は128倍に上昇。
加速された反射神経が衝撃に対する防御を行う。
傍に立てかけられたアスタリオスハンマーを掴む。
床が粉々になるが、爆風の中でも空中で見事なバランスを維持したままだ。
やがて何事も無かったように静かに着地した。
10メートルもあるハンマーを片手で保持する。
尺度がおかしい気がするが、不思議と自然に見えた。
アスタリオスハンマーはアスタロト族の王が代々引き継ぐ秘宝のひとつである。
アスタロト族はその驚異的な身体能力で大抵の武器は使用すると壊れてしまう。
アスタリオスハンマーはアダマンタイト製で特別な術式を施してある。
魔界においても最強クラスの武器の一つだ。
また天使に対してさえも、攻撃可能な数少ない武器なのである。
フォレス6世は即位後、これを離したことが無かった。
「エイジス!!」
轟音の中でもフォレス6世の超能力で発した言葉ははっきりと聞えた。
「は!ここにいます」
同じくエイジスの超能力が応える。
目下エイジスは警備担当のカラカミと敵の姿を確認しようと飛び回っている最中である。
バンパイアロードのカラカミは、配下のバンパイア達を伴い。
インプやバンパイアバットを数百匹も操って城の外周を警戒している。
その超音波の警戒網は何十キロにも及ぶ。
どんな不審者も見逃さない。
天界の進攻か?
いや敵対貴族の秘密兵器だろうか?
カラカミは直前までの警戒情報を思い出してみた。
がやはり不審点は発見できなかった。
爆発は城の中から発生している。
自分たちの警戒網を潜り抜け城に入ることはできない。
これは敵襲ではないと判断した。
「敵の姿は見えませんおそらく敵襲ではないでしょう」
「なんだと!ではいったい?」
オルソロスが応える。
「魔力の特定ができました。」
「大王様の魔力に近いように感じます」
アーガスの壷、フォレス6世は突然悟った。
しかしアーガスの壷はアスタロト族にしか使えない。
「デミオリクス~~~~!!」
超能力の嵐がゴゥンゴゥンと吹き荒れる。
フォレス6世の周りの雪が蒸発して煙を上げている。
上級悪魔達はフォレス6世に指示されなくても自分の役割を十分に理解していた。
的確に情報伝達が行われる。
ほどなくしてオルソロスが大王の前に姿を見せた。
「城内隈なく探しましたが。デミオリクスの姿は見えません」
フォレス6世の目をちらりと見た。
怒りがくすぶっている。
「爆発はアーガスの壷と思われます」
「城内の中級悪魔の約半数が死滅しました」
「城の魔法障壁は失われましたが、警備体制には問題ありません」
ここでフォレス6世を再び見つめる。
フォレス6世は「ではデミオリクスは爆発で消滅したということか?」
「はいその可能性があります。しかし・・・」
「何者かがウロボロスの鏡を使った形跡があります」
フォレス6世の目がつりあがる。
「直ぐに討伐部隊を送り込みましょう」
フォレス6世は少し考える様を示したが直ぐにニヤリと笑った。
「いやその必要はない」
「城の修復が先だ」
人間界は広い。
どこに繋がったか不明なものを探すのは手間だ。
そもそもデミオリクスの能力は低級悪魔程度。
彼の地でどうやって生き延びることができるだろうか?
あの凶悪な天使と、しつこい人間に追い回されてせいぜい地獄をみるがいい。
これ以上あんなものに付き合ってられるものか?
丁度いい厄介払いだ。
それよりこれから失った資産をどうやって取り戻すかだ。
オルソロスが様子を伺うように続けた。
「それと一点問題が」
「爆発の影響でアーガスの壷にヒビがはいってます」
フォレス6世は頭がくらくらしてきた。
アーガスの壷の修理はあの強欲な地獄の鍛冶屋にしかできない。
いったいどれほどの魂を要求されるだろう。
力なく「わかった。下がっていい」
と言うと、天井にぽっかりと開いた穴を見つめるのだった。
フォレス6世の身体強化シーンを変更しました。
倍々で強化される仕様に変更です。




