↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

2.アーガスの壷

とうとうこの日が来た。

オルソロスは自分の責任ではないと叫びたかった。

この無敵の大王の唯一の汚点がデミオリクスであることは間違いない。

低級悪魔の方がずっとましだ。

いや自分なら低級悪魔でも10年あればそこそこ使えるようにできる自信がある。

でも才能がないものはどうしようもないのだ。

「魔力は以前の2倍、あらゆる方面の魔術を教えましたが効果はありません」

沈黙が流れる・・・

2倍って以前とはいつだ?

フォレス6世は言葉に出そうとしたがオルソロスを見て悟った。

生まれたときからに決まっている。


重い気分に陰鬱になりながら「うむご苦労だった。エイジスは?」

「は!暗黒闘法の初歩を教えましたが。何分魔力が足らず強化は2倍程度です」

こっちもか。

エイジスの目に俺のせいではない。

まだやるのかと書いてある。

「2人ともご苦労だった。引き続きと言いたいが、魂を集めるほうが早急と思われる。」

「エイジスもオルソロスに協力してくれ」

2人の表情に変化はないが、フォレス6世の超感覚が2人に安堵感があることを告げていた。

もっと早く開放してやればよかった。

フォレス6世は心の中でそっと2人に侘びを入れるのだった。


デミオリクスはオルソロスからやっと開放されたことでほっと一息ついていた。

だいたい次元軸などいわれても何のことかさっぱりだ。

きっと上級悪魔なら感じられるのだろう。

自分に才能がないのは良くわかっている。

それでも自分の相手をしてくれるのは大王の息子だからだ。

この城に居る悪魔ならその気になれば一瞬で自分を消滅できることは良く知っている。

大王がなぜ今まで自分を生かしてくれたのか?

それが不思議でならない。

以前は周りが怖くて仕方なかった。

が最近は慣れてきた。

いやある意味悟ってしまった。

どうあがいてもどうしようもないではないか。


この10年自分なりに努力してきた。

どうやって生き残るか必死に考えてきたのだ。

鳥かごの中のインプを見つめる。

集中して自分の中の魔力を感じる。

「スチールスキン」

右手の表面がわずかに黒味を帯びる。

無造作に鳥かごの中のインプを右手でつかんだ。

インプのかぎ爪が腕にめり込むと見えたときに

「アブソーブエナジー」

インプは見る見るしぼんで行き、皮と骨格だけを残していた。

かぎ爪が1本腕にめり込んだ状態で残されている。


フウと大きな息をついて、デミオリクスはベッドに腰をおろした。

インプは自分の魔力に変換されて、午前中の講義の疲れを癒してくれている。

スチールとはお笑いだな・・・自分でもつくづくそう思う。

暗黒闘法の基礎術で本来全身の防御術だ。

これと力を増す「パワーアシスト」。

速度を増加させる「クイックムーブ」。

の3つで1セットであり。

エイジスは同時に3つを行う。

鋼鉄の体に100倍のパワーと速度が実現されると、

どんな敵でも一撃で倒すことができるだろう。


しかしデミオリクスが可能なのは2倍の

「スチールスキン」と「パワーアシスト」だけだ。

全身だと魔力の消費が大きすぎるため試行錯誤の結果、

右手だけ「スチールスキン」をかけることができるようになった。

低級秘術である「アブソーブエナジー」は血と肉をその生死にかかわらず魔力に変換できる。

しかし、実際にこれを使う魔族はほとんどいない。

接触しなければ使えないしそもそも回復量が少ない。

魔力は時間経過で自動回復できる。

普通はステップアップ用の導入呪文でしかない。

生殖器官も消化器官も保持しない魔族は完成された種族なのだ。

デミオリクスも欲求があってこれを行っているわけではない。

全てはどうやって生き残るかを必死に考えた結果なのだ。


城にある大図書館にはあらゆる書物が貯蔵されている。

その中には人間界や天界の研究書もあった。

通常天界に悪魔を送ることはできない。

だから天界における研究はそんなに進んではいない。

しかし人間界の研究は結構そろっていて、言葉や風習などかなり詳細に解説してある。

この数年をかけて書いてある人間の文字も読めるようになってきた。

城以外の場所を知らないデミオリクスにとっては人間界の研究書は楽しい冒険書だった。


デミオリクスは城の外に出たことがない。

いや出れないと言っていい。

今は比較的穏やかな雪日和で-30度の吹雪だ。

しかし、荒れると-100度だってあるし逆に数百度の熱風もある。

即死はないにしてもデミオリクスの貧弱なレジストではダメージを受けてしまう。

胸の大きなルビーの「不死のネックレス」は1度だけ即死ダメージを身代わりしてくれる。

がそんなことに貴重なアイテムを使うわけには行かない。

城は星石の防御魔法で守られ、常に10度程度を保っている。

訓練以外の時間の殆どをデミオリクスは図書館の本と共にすごした。

デミオリクスは白いふさふさのチェニックに下側が膨らんだ黄色い皮パンツ。

お気に入りの豪華な赤マントを着ている。

寝台は星石できていて少し硬いし冷たい。

このマントが丁度いい感じで体を温めてくれた。

魔族のナイトビジョンは本来光を必要としない。

逆に強い光に弱い。

したがって城内に照明はない。

しかしデミオリクスの弱いナイトビジョンでは歩行には問題ないが、本を読むには暗すぎた。

だからデミオリクスの部屋にはランプが準備されている。

テーブルの上には人間界の英雄と書かれた本が開いてあった。

デミオリクスは右手のインプの抜け殻をゴミ箱に投げ入れると、寝台に寝転んだ。

そろそろ午後のエイジスの講義が始まる時間だと感じていた。


フォレス6世は、アーガスの壷に思いを馳せていた。

実のところこの壷は苦手なのだ。

まがまがしいこの壷に魔力を注ぐには飾りの竜の口に触るだけでいい。

ただし、手加減なしであるだけ吸い込んでしまう。

結果強烈な脱力感と眠気に苛まれ丸1日の睡眠を必要とする。

魔力は徐々に回復するが、全部回復するには7日は必要だ。

前回はベルゼとの協定のため、そう頻繁に魔力を注ぐわけには行かなかった。

ガス欠を悟られると足元を見られる。

そのかいあって前王が倒された後、外交で前王が獲得した土地の半分を返還することで、

100年の不可侵条約を結べたのは上出来だ。

ベルゼも疲弊していたし、これ以上の被害はお互い望んでいなかった。

もともとベルゼの起こした戦争だしベルゼ側の多少の譲歩は当然だ。

共倒れは愚者のやることであり、Win-Winで終わらせるのが上策というものである。

しばらくは周りの情勢は安定している。

壷の魔力は確実に前回を上回っているだろうが2度と失敗したくはない。

後1年頑張るかそれとも3年にすべきか。

上級悪魔の執事であるオーセンを呼ぶことにしよう。

いつものとおり壷の部屋の鍵を開けるように指示。

明日の夕刻まで絶対に誰も通してはならないと言わねばなるまい。


デミオリクスは戸惑っていた。

時間に正確なエイジスが今まで講義に遅れたことはない。

暗黒闘法の講義は通常中庭で行っている。

が時間になるとエイジスが迎えにくるのが恒例だ。

デミオリクスはしぶしぶこの訓練を行っている。

エイジスも好んでいるわけでない事は十分に知っている。

そもそも次元が違いすぎる。

素のままのエイジスに向かって全力の突きを放つ。

ガツンと衝撃が走るが鉄板のように硬い筋肉に微塵のダメージも無い。

しばらくやると爪が割れて血が噴出し、ジンジンと痛み、指先の感覚はなくなる。

エイジスは黙って腕の修復をやってくれる。

また全力で突くように指示される。

これの繰り返しだ。

耐え難い苦痛。


本来アスタロト族に備わる自己修復能力は、

軽微な怪我ならたちどころに治癒できる。

エイジスなら瞬間で治癒され傷跡すら見えないらしい。

もっともあの鋼鉄の肉体に傷を付けれればの話だ。

デミオリクスの自己修復能力では指先の怪我を修復するのに2日ほどかかる。

修復に魔力を使うと直ぐに枯渇してしまう。

だからエイジスが修復しているだ。

エイジスの注意はいつも同じだ。

「もっと強く。指先に魔力を集中して貫くイメージが大切です」

「頭はクールにスムーズに魔力を運用するのです」

暗黒闘法の基本攻撃技「ピアースネイル」だ。


しばらく練習を続けると魔力の枯渇を感じる。

様子を観察していたエイジスは、「それまでにしましょう。では正拳突きと前蹴りの練習」

これはせめて基礎体力だけでも向上しようと最近取り入れたもので暗黒闘法とはまったく無関係だ。

エイジスの苦肉の策と言っていい。


しかし今日に限ってはいくら待ってもエイジスが訪れる様子がない。

何かあったのか?

ベッドから起きるとエイジスを探しに行くことに決めた。

まずは中庭に行ってみるか?

中庭までいくらも距離はない。

短い通路を通ってゲートを潜ると開けた空間に出る。

天井の丸いドームに万華鏡のような光の色彩が見えた。

いつもの静かな空間だ。

エイジスの姿は見えない。


回廊を横切る中級悪魔のサッキュバスが2匹ひらひら飛んでいる。

さて次はどこに行こうか?

いつもは行くことのない宮殿に向かって歩き始めた。

地下回廊への螺旋階段を下りると、

両脇にアスタロト族の赤い紋章が掛かった回廊に出る。

ここに来たことは初めてだがぐるっと半周すれば、

いつも通っている大図書館が見えてくるはずだ。

ふと右手を見ると白い扉に大きくアスタロト族の紋章が描かれたドアがある。

わずかに奥から光がもれている。

光がなぜこんな場所に?

違和感を感じながら中を覗いてみると、

奥に大きな壷が置かれている

どうやらら壷から光が出ているようだ。


扉には鍵はかかってないが、大きさの割りにとても重い全身の力で引き開けた。

音もなくゆっくりと扉が開く。

自分の体を滑り込ませると部屋の中に入ることができた。

先ほどの壷と星石でできた寝台があるだけの簡素な部屋だ。

だれも居ない。

誰かの居室なのか?

それにしては扉の紋章があるのはおかしい気もする。


壷の前に行くとやはり光は壷の中から発している。

2匹の竜がとぐろを巻いて大きく口を開いて顔を向けてこちらをにらんでいる。

目には魔道石がはめ込まれているようだ。

上部には丸いもち手のついた蓋が設えてありしっかりと蓋がされている。

が淵から色々な色の光がもれている。

壷の大きさはデミオリクスの胸まであり、材質は何かわからない金属製。

とても重そうだ。

中はなにが入っているのだろう?

ふと興味が沸いたデミオリクスは、

上部の丸い取って持って開けてみることにした。

とても重い。

持ち上げるのは無理だと判断した。

思い切り押してみた。

ギギギと耳障りな音を立てながら蓋が床に落ちた。


突然、周りに強烈な光が満ちた。

強烈な爆風でデミオリクスの体は壁に吹き飛ばされた。

衝撃で体がひしゃげる間違いなく即死だ。

意識がなくなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。