1.魔界の王子
閲覧ありがとうございます。
なるべく簡潔な表現をしていきたいと思ってますが、わかりにくい部分があるかと思います。
ご指摘等がありましたらよろしくお願いします。
暗闇の中に明かりが一筋さしている。
向かい合った初老に見える男が厳かに講義を行っている。
講義を聴いてるものは精悍な若者1人だ。
初老の男は静かに男を見つめている。
若者はなにかの呪文を唱えているが何も変化はない。
しばらくした後、
「そのように力んで呪文を唱えることに意味はありません」
「呪文はあくまで魔法陣を呼びさますきっかけにしか過ぎないのです」
「重要なのは魔方陣です」
しかし若者は不思議なものをみているような顔をして理解できていないようだ。
講義はさらに進んでいく、
「・・・これらの起動における鉄則は次元軸が安定している場合に限るということです」
初老の男はため息をつきながら「以上理解できましたか」と語った。
初老の男の目には強い魔力の光が見え、強大な鬼気を発しているが向かいの男に怯えはない。
なんとも貧乏クジを引いたものよ・・・これほど教えても進展を感じられないとは、
アスタロト様も大変なご子息を設けられたものだ。
アスタロト・デミオリクス13世それが若者の名前だ。
7大貴族の中でもその身体能力と強大な魔力で最強と名高い、
現アスタロト・フォレス6世は、身の丈3メートルの偉丈夫。
立派な2本の角と真っ赤な髪は魔力のほとばしりで火柱を立てるほどだ。
それに比べて、目の前の若者は160センチ程度の小柄な体躯に、
魔力をほとばしりをまったく感じない黒い目、
淡い褐色の肌に栗色の髪はフォレス6世の血を引いていると見えなくもない。
がいかにも貧弱だ。
しかも角もなければ鋭い爪牙もない。
もちろん上級悪魔なら体の大きさなど魔力の限界までいくらでも大きくできる。
姿も幻影でいくらでも変えれる。
しかしデミオリクスには姿を変えることも大きさを変えることもできない。
もっとも上級悪魔は必要も無いのにそのようなことはやらない。
上級魔族ほど合理的であり、見栄や虚栄心とは無縁なのだ。
アスタロト族の寿命は約150年で生まれてから死ぬまでその姿に変化はない。
が年齢に応じて身体能力や魔力が増大する。
しかし未だ巨大化すらできない、デミオリクス様は次の大王になることはないだろう。
この10年、魔法、呪法、幻術、死法、秘術を教えてきた。
結果は何の才能もないことがわかっただけだった。
始めから判っていたが、仮にも大王のご子息。
もしや隠れた才能がと思ったものの全てが徒労に終わった。
魔族は魔力が尽きるまで眠りの必要はないのだが、王子の魔力は極めて少ない。
午後の暗黒闘法の前に昏倒されては困る。
慎重に講義を進めたいが、遅々と進まない講義にさすがに疲れを感じてきた。
この城に居る5人の上級悪魔の1人である自分が、
このような無駄に付き合っていることに苛立ちを覚える。
しかし、魔族における契約は絶対だ。
大王との契約がある限り、自分からやめたいとは口が裂けても言えない。
ジレンマに際なまれる日々を送っていた。
目の前にキイキイと鳴くインプが飛んでいる。
すばやくつかむと鳥かごに放り込み王子の前に差し出した。
上の空だった王子はやっと興味を引いたのかインプを見ている。
インプは低級悪魔ですらない下等魔で知能は低いし役に立たない。
が事あるごとにオルソロスはインプを捕まえてやった。
王子の遊び相手には丁度いいのだろう。
突然、「オルソロス殿、大王がお呼びである」大音声が響き渡る。
奥のドアが開いて青い長髪をたなびかせた、偉丈夫が入ってきた。
エイジス様・・・大王アスタロト・フォレス6世の兄であった。
しかし30年前のベルゼ族との戦いで前王がなくなった後、
フォレス6世が大王に即位すると配下となった。
とは言え、フォレス6世に勝るとも劣らないアスタロト族特有の脅威の身体能力は健在で、
あらゆる属性攻撃に対する防御、即死無効、瞬間治癒能力、鋼鉄も引き裂く爪、
何10トンもある岩でも軽々と投げ飛ばす腕力、
ほぼ魔力が尽きるまで不死身といっていい。
おまけに暗黒闘法で身体能力は何十倍にも強化可能だ。
上級悪魔中の上級悪魔で大王以外では無敵だろう。
弟のフォレス6世が大王になれたのは、その強大な魔力のお陰だ。
暗黒闘法は膨大な魔力を消費する。
いや消費した分だけ強くなれると言ったほうがいい。
エイジスは一言も言わずにアスタロトの名を捨てた。
このあたりが魔族の合理主義と言っていいだろう。
「以上で本日は終わりにします」
そう告げるとオルソロスはエイジスの元にするすると空中を滑っていく。
オルソロスには足がなかったが、不便を感じたことは今まで一度もない。
だいたい、歩いたり走ったりすることに意味などない
というのがオルソロスの持論である。
オルソロスがエイジスを見るとその目の奥に悩みと疲れが見えた。
やはりあなた様も・・・
今まであまり話す機会もなかったが、ふと共感を覚えるオルソロスだった。
エイジスとオルソロスは並んで回廊を進んでいく。
宙を飛ぶオルソロスはともかく、かなりの体重があると思われるエイジスの歩みに、
体重をまったく感じない。
身体能力だけでこれを自然に行っているエイジス恐るべしである。
突然巨大で荘厳な扉が出現した。
エイジスが扉に手をかけ、いくらも力を入れたように見えなかったが扉は音もなく開く。
黒曜石の様な深みある黒色に、輝く星が見えるこの地独特の星石で作られた壮大な大広間が見えた。
玉座にはアスタロト・フォレス6世が鎮座している。
そばに10メートルもありそうな巨大なハンマーが立て掛けられている。
2本の角と真っ赤な髪に金色のリングを付け、白い羽飾りを付けた金糸織のマントと、
黒く光り輝くパンツを身に付けているが、上半身は隆起した褐色の胸板が見えている。
「エイジス、オルソロスともに参上しました」
「うむご苦労、早速だが先月の状況はどうだった」
「はい。警備はカラカミが行っておりますが。今のところ周辺に動きはありません。」
とエイジスが応えた。
カラカミは上級悪魔のバンパイアロードで配下のバンパイア達と周辺警備にあたっている。
飛翔能力と超感覚を備えるバンパイア達は優秀な警備兵だ。
続いてオルソロスが応える。
「人間界にはガーゴイル3匹と夢魔を3匹送り、人間の魂を3個獲得しました」
「そうか。現在活動している夢魔は何匹だ」
「天使に3匹たおされ13匹です。」
いまいましい天使め、攻撃無効化能力でほとんど物理ダメージを与えられない上に、
倒されそうになると逃げてしまう。
厄介な相手だ。
ガーゴイルでは倒すことはできず、邪魔しかできない。
が天使の活動時間を消費させるのが目的だ。
人間の魂は来るべき天使との決戦に使える。
魂の砲弾は天使にダメージを与えることが可能な数少ない方法の1つだ。
しかし魂は進んで差し出されたものしか魔界に持ち帰られない。
150年前の天界の大侵攻の際に全て消費したため、魂はのどから手が出るほどほしい。
しかし、ウロボロスの鏡で送り出せる悪魔は魔力が高いほど膨大な魔力を必要とする。
目下送れるのは中級悪魔の夢魔までだ。
ウロボロスの鏡・・・秘宝の一つ。人間界へのゲートである。
魔力供給により人間界と魔界を行き来することができる。
繊細な魔力調整が必要で、目下オルソロスが管理している。
大王「やはり夢魔3匹が限界か」
オルソロス「大王様の魔力があればもっと送れると思いますが・・・しばらくは我慢かと」
アーガスの壷・・・ほぼ無尽蔵に魔力を貯蔵できる秘宝中の秘宝。
この10年フォレス6世の魔力は全てこの中にあった。
悪魔を作るには魔力があればよい。
悪魔は成熟した姿で生まれ、ごく一部の例外を除いてその種別に応じた能力を保持している。
しかし低級悪魔ならしも、上級悪魔を作るには個人が蓄積できる魔力では全然足りない。
桁違いの魔力を必要とする。
前回デミオリクスの出来損ないを作ったときは10年分の魔力をアーガスの壷にためた。
そして生まれたデミオリクスを見て呆然となってぼやいてしまった。
「なぜこうなった」
・・・オルソロスがつぶやく「魔力が足りなかったかと」
上級悪魔族は年齢で能力が向上する。
もしかしたら、配下として利用価値があるかもしれない。
そう考え、フォレス6世はオルソロスとエイジスに訓練を命じた。
それからデミオリクスには会っていない。
「デミオリクスはどうしている」
エイジスとオルソロスに緊張が走った。




