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24.誘拐

夕暮れの街角に7人の異相の人影がある。

皆一様に白いガウンに大きな赤い十字架を描いていた。

身なりは小奇麗で装備も上等なようだが、このあたりの者ではない。

先頭の男は黒い仮面をしており口元しか見えない。

真近にて見ないとはっきりと分からないが仮面には奇怪な黒い文様が施して有る。

恐ろしげな雰囲気を醸し出しているのは仮面の所為だけではないだろう。

夜の帳屋の前でしばらく様子を確かめていたがやがて路地裏に消えた。


やがて寂れた宿屋を見つけると黒仮面の男が合図をする。

古く見た目も悪いしわざわざこんな宿に泊まらなくても他にいい宿がある。

だが迷わず入口を開けると中に入っていった。

宿には主人以外いないことを確認する。

黒仮面の男がニタリと笑う。


「この宿は我々が貸切にする。他の客を取るな」

「言うとおりにするなら危害は加えない。分かったな?」

主人が顔色を伺いながら「貸切でも構いませんが。お代は如何ほどいただけるのでしょう?」

脇の男が何か言おうとしたが、黒仮面の男が制止し、金貨を1枚放り投げた。

「夕食はたっぷりと準備してくれ。熱い風呂もだ」

主人は破顔して素早く金貨を拾うと奥に行った。


部屋で冷たい水をすすりながら、黒仮面の男は懐の似顔絵を見つめていた。

男の名はスザリンという。

腰には愛剣のフランジュベルを提げていた。

今まで幾人もの血を吸ってきた恐るべき剣だ。

炎を思わせる波打った刀身はピカピカに磨かれ、錆び一つ無い。

この剣を振るって敗れたことは一度も無かった。

彼が負けたのは御前試合での模擬刀によるものだけだ。

フランジュベルなら相手の剣を弾き飛ばすはずだった。

しかし受け流されて寸止めを受けた。

屈辱だった。

思い切り打ち込んでくれればまだいい。

剣に生き剣に死ぬ覚悟を汚された。

今でも黒い炎が我が身に渦巻いている。

以後この黒仮面を被っている。

いつしか周りの者から黒のスザリン言われと恐れられる様になっていた。


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朝、マイクは珍しく朝から外出する。

部屋にはデミオとアインだけだ。


デミオ「この前の錬気で体を作れって意味が分かったよ」


アインがびっくりして「どういうことだい?」


デミオ「上級悪魔が巨大化できるのはこの前話したよね」

   「僕は魔力が足りないから出来ないけどね」


アイン「いずれ出来るようになるんだね」


デミオが首を振りながら「やれても意味が無いよ。巨大化は非効率的だからね」


アイン「どうしてだい?大きいほうが強いだろ?」


デミオ「そうだね。例えばコボルトキングは通常のコボルトの3倍の大きさ」

   「僕達は苦戦したけど。理由は何だった?」


アイン「力が強いし、体力もある。おまけに急所に当てにくい」


デミオ「力を2倍にする。防御力を2倍にする。体を2倍にする。どれが一番強い?」


アインは考え込む。

状況によるだろう。

攻撃だけなら力を2倍だ。

継戦能力なら防御力だ。

体を2倍なら両方手に入るからやはり体を2倍だろう。「体を2倍」


デミオ「それは力が体に応じて強くなった場合だね。体だけなら意味が無いだろう?」


アインが目をぱちくりしている。


マイク「巨大化って文字通り体が大きいだけ?張りぼてじゃないか」


デミオが頷く「ほらね意味が無いだろう?」


アイン「確かに張りぼてでは意味が無いね」

   「でも大きければ踏みつけるだけでも強いよ」


デミオ「そこなんだ。身長が2倍なら体重は4倍くらいになる」

   「だから実際にそれを再現するには質量が4倍だ」

   「消費量が大きすぎる。それなら最初から力2倍の方が効率的ってことになる」


デミオ「でもエドガーはそれをしろってことではない」

   「質量を伴わない。可視化すらしなくていい。巨大化さ」


アインが目を白黒させている。

   「意味が分からないよ。どこが巨大化なんだい?」


デミオ「巨大化とは言えないね。イメージ的に巨大化なんだ」


デミオ「見えなくても感じとれる。実体でないから怪我もしない。究極の防御だ」

   「しかも実態がないから魔力消費が少なくていい。これが最大の利点さ」


アインはそんなものなのかと必死に考えているようだ。


デミオ「薄い感知領域を広い範囲をなるべく広げる。これで杭の位置を把握するんだ」


アインが言われたとおりにイメージを行っている。


デミオ「錬気をやりながら広げてみよう」


アインとデミオは集中して錬気とイメージの両立を試みる。


その時ドアが勢い良い開く。

汗だくのキースが立っていた。

「大変だ。マイクがさらわれた!」


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マイクは部屋を出ると、ユリーシカの家に向かっていた。

色々と考えたが、やはりユリーシカの好意にすがることにしたのだ。

ユリーシカほどの魔道士なら、自分の特性にあった方法を教えてくれるに違いない。

と漠然とした期待もあったのだ。

自分は攻撃的な性格ではないから攻撃魔法は使えなくていい。

サポートに撤すると決めていた。


路地裏を通り抜け。もう直ぐで魔法ギルド前だ。

ユリーシカはその先の議長の家にいるはずだ。


突然目の前に3人の見慣れない戦士が立ちふさがった。

3人とも鮮やかな赤い十字架が描かれた白いガウンに身を包んでいる。

真ん中のフルフェイスの男が「マイク・スチワートだな。一緒に来てもらおう」

と言うとマイクの右腕を掴んだ。

マイクが逃げようと振り返ると後ろにも3人の同じ身なりの男が立ちふさがっている。

「僕に何のようだ!」と抵抗するが、強靭な男から逃れることが出来そうもない。

「おとなしくしないとこの場で殺す」と凄みを効かす。


マイクは噂に聞く神聖教会を思い出していた。

異端審問官だ。

しかし神聖教会の活動範囲はここよりもっと南のスムリト共和国だ。

ここエイブルで活動していないはず。なぜここにいるのだろう?

「神聖教会だね?エイブルでの活動は認められていないだろう?」


「我々は正義のために活動している。だれの許可も必要ないのだ」

「我々の目的を邪魔するものは全て排除されるだろう」

「観念してついてこい」


「中央教会は君達の横行を許さないぞ」


「くっくっくく・・中央教会だと・・異端者が何を言う」

「お前は中央教会ではない。異端者には裁きが必要なのだ」

と言うとマイクの鳩尾に強烈な一撃を入れた。

マイクはぐったりと気絶したのを確認すると両脇を2名で支えて連れ去った。


しかし物陰からこのやり取りを見ていたものがいた。

キースだ。

ハンター協会で矢の補充をした帰りだった。

ふと見慣れない男達が路地裏にいる。

キースはレンジャースキルを発動して、気配を消し。

男達の様子を伺っていた。

やがてマイクが宿から出てくると男達が後を付け出す。

マイクが路地裏に入ると男達と揉めていた。

男達はマイクを連れて宿屋に入っていくのを確認すると急いでアイン達に知らせに来たのだ。


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キースの話を聞いたアインは硬く閉じた口を軋ませて

「キースありがとう。後は僕たちで何とかする」

キースが真剣な眼差しで

「神聖教会のやつらはクレリックじゃない。やつらは狂信者だ」

「交渉に応じないし。どんな犠牲も正義だと信じている」

「スムリト共和国では濡れ衣で何人も殺されているんだ。脅しじゃないぞ」

「僕は君達に借りがある。ここで返させてくれ」


「命の保障がないことは君が一番良く知っているようだね」

「ありがとう。恩に着るよ。君は後方支援をお願いする」

「デミオ来てくれるかい?」


「もちろんさ。早く行こう」


アインは剣を片手に宿を飛び出す。

そのまま走って目的の宿の前に着いた。


日ごろの錬気の修行のお陰かアインもデミオも息一つ切らせていなかった。

遅れてキースが到着する。

「僕が飛び込む相手は6人以上だが。狭い部屋の中では派手な魔法は使えないはず」

「キースはここで出てくるやつを倒してほしい」

「デミオ手加減なしでいくよ。確実に殺すんだ」


アインがドアを開けて中に入っていく。

ロビーには誰も居ない。

「デミオ入ってきて」

デミオも入ると2人で2階に上がっていく。

古い階段が軋む。

2階には6部屋だった。

ドアに耳を当てて中の様子を探ってみた。

どの部屋も反応は無い。

ゆっくりとドアを開けてみる。

誰も居なかった。

だが、部屋の椅子が揃っていない。

明らかに今までこの部屋に誰か居た。

するとどこかに行ったのかもしれない。

まずい町の外に出られるとマイクを見つけることは困難だ。


1階に戻るとカウンターの奥に宿の主人が縛られて転がされていた。

アインが縄を剣で切る。

「突然無法者達が来て宿を占拠したんだ。さっき皆出て行ったよ」


アインが真っ赤になりながら外に出た。

「キース。もぬけの殻だ。逃げられる追うぞ」


アインは勘で西門に向かう。

南のスムリト共和国への街道は西から行けるからだ。


走って西門に到着すると、西門の門番がのんびりと街道を眺めていた。

「赤い十字架のガウンを羽織ったやつらが来ませんでしたか?」


西の門番が面倒くさそうに「ああ。ガラの悪そうなやつらが荷馬車を引いていたね」

「6人くらいだったかな?南に向かったよ」


「ありがとう。助かりました」


アイン達は南の街道をひた走った。

遠くに荷馬車を引いた一団がいる。

アインはほっとしていた。

もうじきお昼時だ。

アインが立ち止まって。

「キース。あの一団の様子が分かるかい?」

キースが目を凝らす。

「6人か7人だね。マイクの姿は見えない」

「見通しが良すぎる。このまま襲撃は無謀だよ」

アインも頷く。

「ここからはゆっくり近づこう。やつらが神聖教会なら」

「マイクを直ぐには殺さない。妙に儀式ばったやつらだから儀式に則るだろう」

「襲撃しやすい地形もしくは夜戦が妥当だと思う」

「キースは夜戦はできる?」


「残念ながらやったことは無いよ」

「標的が見えないと流石に狙えないから自信ない」


「それは心配ない。多分焚き火で姿を確認できるはずだ」

「それにこちらは夜戦のプロがいるからね」

キースが驚く。「アイン。野戦が得意だったのか?」

アインが首を振る。「僕じゃないデミオさ」


気づかれないように距離を取りながら進む。

夕刻になり荷馬車の部隊はキャンプの準備を始めていた。

身を屈めて様子を伺う。

一団の人数は7人だ。

しかしマイクの姿は見えない。

荷馬車に大きな箱が載せられていた。

おそらくあそこにマイクが居る。

アインはそう確信した。



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