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22.諮問

エドガーはやっとエイブルに戻って来た。

この1ヶ月ビクセンの依頼で王都まで同行したが、実にくだらない旅だった。

昔は貴族達の優雅な生活をうらやましいと思っていたが。

貴族なぞどこがいいか分からなくなっていた。


スリルと緊張感。

技術とセンスの戦い。

ゆえに今日を生き、命を身近に感じるそんな単純な世界。

冒険者の方がわしには合っている。

この年になってまた冒険者に魅力を感じるとは。

可笑しさが込み上げてくる。


アインがホールで掃除を行っていた。

   「アイン、デミオを議長の執務室に出頭させろ」

アインが鋭い目を向ける。

   「デミオになんのようです。危害を加えないと約束してください」

エドガーが首を振りながら。

   「それは私が決めることではない」

アインがじっと見つめながら。

   「では私も一緒に行きます」

エドガーが諦めたように。

   「かまわんだろう。しかし部屋には入れんぞ」

アインが頷き、モップを立てかけると2階に戻っていく。


-----------------------------------------------

部屋に戻るとデミオだけでマイクは外出中のようだった。

出来ればマイクにも相談したかったが仕方が無い。

アインはデミオに開口一番。

   「デミオ。まずいことになっている」

   「議長が君を探している。行けば死ぬかもしれない」

デミオがじっとアインを見つめる。


アイン「逃げることも出来る。僕が隙を作るから窓から逃げろ」

とは行ったもののエドガー相手に十分な隙を作る自信は無かった。


デミオ「それは後から君が困るだろう」


アインが首を振りながら。

   「僕は議長の息子だ。殺されはしないさ」


デミオ「君に迷惑を掛けられない。それに逃げても行く場所は無いよ」


アイン「身を隠す場所なら後でなんとかするよ」


デミオ「殺されると決まったわけではないのだろう。僕は行っても良いよ」

デミオはアインの提案とリスクを考えた。

自分が議長に殺される理由は、自分が悪魔と言う一点だろう。

そうであるなら逃げても無駄だろう。

アインが安心するようワザと希望のある表現にした。


アインがデミオをじっと見つめる。

アイン「分かった僕もできるだけのことはする」

武器はいらないだろう。

どうせあっても役には立たない。


----------------------------------------------


しばらくするとアインはデミオと一緒に降りてきた。

手ぶらだ。

エドガーは姿を見ると何も言わず先導した。

会話はない。重い沈黙が流れる。

やがて議会の執務室に到着する。

エドガーが執務室の扉に手を掛け。

   「議長入るぞ」

デミオを中に入るように促す。

アインを扉の外に残したままだ。


-----------------------------------------------------

議長の部屋は6畳程度でそんなに広くない。

丁度品は最小限で、真ん中に重厚な机が設えてある。

掃除が行き届いており。

清潔感がある。

机の右手奥に扉があるので奥にも部屋があるのだろう。


デミオ部屋に入るとビクセンは重厚な机に座ったままこちらを真っ直ぐ見ていた。

エドガーがデミオの直ぐ後ろに居る。


やがて低いが良く通る声で話し始める。

    「アインからなにか聞いているか」

デミオが少し考えてから。

    「命に関わるかもしれないと言われた」

ビクセンが決心したように。

    「単刀直入に聞く。聞かれたことに応えろ」

    「まず名前は」


デミオ 「デミオ」

なんで名前なんか聞くのだろう?


ビクセン「本当の名前だ」


デミオは少し考えながら

    「以前の名前はもう無い。今はデミオだ」


ビクセン「なら以前の名前は」


デミオ「アスタロト・デミオリクス13世」


ビクセンの顔がすこし引きつる。

まるで貴族のような名前だ。

ビクセン「どこから来た」


デミオ 「アスタロト城」


ビクセンはそんな場所を聞いたことが無い。

やはり貴族の出なのだろうか?

    「それはどこにある?ここからどうやっていく?」


デミオ 「いく方法は知らない」


ビクセン「教えられないということか?」


デミオ 「帰り道を知らない」


ビクセン「では帰り道を探しているというのか?」


デミオ 「帰るつもりは無い。逃げてきた」

最近戦争があったとは聞いていない。

がデミオが嘘をついている気配は無い。


ビクセン「君の目的はなんだ」


デミオ 「世界を見て回ること」


白々しいことを言うやつだ。

質問の内容を変えよう。

ビクセン「お前の正体はなんだ」


デミオ 「悪魔だ」


ビクセンは内心がっかりした。

こやつ狂信者か狂人の類だったか。

このような心理状態になるとはどのような過去があったか分からない。

しかし、戦争というより追い出されたと考えるほうが自然かもしれない。

だが万が一がある。

ここでハッキリさせるべきだろう。


ビクセンが強烈な殺気を放った。

   「いい加減なことを言うな」

エドガーからも闘気が発せられる。

しかしデミオは何事も無いようビクセンを見つめている。

ビクセンは内心驚いていた。

わしの殺気を正面から受けても平気だとは尋常ではない。

ビクセンは殺気のコントロールで幾千の戦いを制してきたのだ。

自分の技術には絶対の自信があった。


だが質問の確信部分に入る頃合だろう。

ビクセン「わしを殺しに来たのだろう?」


デミオが驚いたように。

    「そんなことをする理由がない、考えたことも無い」


ビクセン「ではなぜエイブルに来た」


デミオ 「たどり着いたのがエイブルだった」


ビクセン「では偶然エイブルに来ただけで。目的があるわけではないのだな」


デミオ 「さっき言ったとおり世界を見て回る以外の目的は無い」


ビクセンが殺気を消した。

    「最後にお前に仲間は何人いる?」


デミオ 「アインとマイクだけです」


ビクセンが驚いた。

    「そういう意味ではない。エイブルに来る前の仲間だ」


デミオ 「僕1人」


ビクセン「身内も協力者もいないのか?」


デミオ 「いない」


ビクセンはこれ以上は時間の無駄だと判断した。

    「分かった帰っていい」


デミオ 「悪魔でもここにいていいのか?」


ビクセン「勝手にしろ」


デミオが部屋から出て行く。

扉の前にアインが仁王立ちしていたが、デミオの姿を見るとホッとした顔をしていた。


ビクセン「エドガーどう思う」


エドガー「うそは無いだろう。しかし・・・彼の素性は分からん」


ビクセンも同じ意見だった。

彼の過去に何があったのか分からない。

彼の目的が世界を見て回るというのも本当だろう。

彼の様に自分を人間以外だと信じるものも少なからずいる。

冒険者時代、自分達を竜の化身だと信じる村もあった。

神だと言う宣教師、悪魔の化身とうそぶく冒険者などいくらでも居る。

事実がどうであれ彼らは本当にそう思っている。

デミオもそのような狂人の1人だろう。


ビクセンにとって個人の主義、主張などどうだっていい。

エイブルに危害がないのなら自由だ。

だがそのような狂人にもメリットとなるケースがある。

恐怖に対する耐久力がなぜか高いものが多いのだ。

ビクセンの殺気にもまったく動じていなかった。

   「あの状況でも顔色一つ変えんとは。たいしたものだと言うべきだろうな」

と呟いた。

スケルトンの恐怖オーラに耐えれる理由だ。

ビクセンは笑いながら

   「エドガー、余計な心配事だったようだな」

   「しかしお前が闘気をいっこうに治めんからこっちがぶるったぞ」


エドガーが驚いた様に。

   「最初はわしだが。後半はわしではない」


ビクセンの口が開いたままだ。

   「まさかアイン?」


エドガーが頷きながら。

   「いっぱしの闘気を放ちやがる。さすが虎の子だ」

   「この年になって最高の弟子が手に入るとは思わなんだ」


ビクセン「俺は虎でないと言っただろう」

    「お前そっくりの闘気だ。鬼の子だろう」

エドガーがやれやれという顔をした。


---------------------------------------------------


アインは議会を出るとにこやかにデミオに話しかける。

   「正直もうだめだと思ったよ」


正直何も無かったのは奇跡だ。

やり取りは僅かにアインにも聞えていた。

父がデミオに興味を失ったのはなぜだろうか?


デミオ「議長はなぜ僕を見過ごしたんだろう?」

   「僕の正体を見破ったから呼ばれたんじゃないのか?」


アイン「僕にも分からない。だが・・・」

   「君は強すぎた。だから余計な疑いを持たれた」

   「君は父を殺しに来たと思われたのさ」


デミオ「まさか僕がそんなことするはず無い」

   「第一やろうとしても不可能だ」


アイン「そうだね。でも事実はどうであれ父はそう思った」


デミオ「僕は強くない。この町には僕より強い人はいくらでもいるじゃないか」


アイン「強さは戦闘力だけじゃない。君は君が思っている以上に稀有な存在さ」


デミオは訳が分からなくなった。


--------------------------------------------------------


その頃マイクは町に出ていた。

なんとなく歩いているといつの間にかマジックギルドに着いていた。

アインとデミオが強いのは分かる。

しかし自分の戦闘力が0なのはこの先まずい。

アインはマイクの戦いはそこではないからいいのだという。

でも自分だっていざとなったときの切り札くらいほしい。

高価なマジックアイテムなら攻撃手段を持つものもある。

しかしそのようなものは王侯貴族や、一部の大金持ちしか持ち得ないものだ。


自分も魔法攻撃の一つもできるといいのに。

いつしかそんなことを考えるようになった。

先日の錬気の訓練でどうやら魔力の根源は1つのようだ。

運用の問題だけなら。

自分にだって魔法が使える可能性はある。

しかし昔からマジックギルドは閉鎖的だ。

純粋に魔道の追求を研究するのが目的だからだ。

魔法を使える戦士とか、夢のような英雄を考える輩も多い。

だから魔法の乱用に走りがちな冒険者や脳筋ファイターに貴重な時間を割くようなことはしない。

魔法の習得には長い時間が掛かるし、1人前の魔法使いを育てるのは大変なのだ。


だから魔法使いは代々の系譜を大切にしている。

その家独自の方法での研究が進むことになり、必然閉鎖的だ。

そのような魔法使い達の貴重なコミュニティがマジックギルド。

当然顔見知りのものだけだからマイクが行っても入れてくれないだろう。


そんなことを考えながら、マジックギルドの前を行ったり来たりしていた。

やがて扉から一人の女性が出てくる。

ユリーシカ・ドレアーだ。

マイクの姿を見てユリーシカは。

    「こんなところに何のよう?」


マイクがしどろもどろになりながら。

    「い・いえ。あの・・なかに。なんでもないです」

と言って走っていってしまう。


ユリーシカは後姿を見ながら。

たしかアインと一緒だったマイクと言ったかしら。

治癒の天才だと聞いているけど。

まさか私に会いに来たのかしら?

私のことは知らないと思うけどアインに聞いたのかもしれない。

そういうユリーシカもマイクのことはアインと歩いているところを見かけただけだ。

話をしたことは今まで無かった。


マイクの姿はとうに見えなくなっている。

アインが家に寄り付かなくなり1年が過ぎ去った。

すこし話をしたかったのだが残念だ。

たしか夜の帳屋に居るはず、そろそろ自分から会いに行ってもいいだろう。

ビクセンが怒るかしら?

目立たないようにすれば問題ないはず。

ひっそりと微笑むユリーシカだった。


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