21.戴冠式
王都に着いたビクセンはそのまま城に向かう。
堂々とした態度と風格はまるで王の様だった。
ギーグスは苦虫をつぶした顔で見送る。
エンドールのやつ失敗しよって、折角のお膳立てが水の泡だ。
エンドールの話ではビクセンとメイス持ちの男の戦闘力は人間離れしている。
倒せる可能性のあった魔法部隊も不可思議な攻撃で機先を取られ機能しなかった。
たった3人で盗賊団と接近戦を行ったのも自分達の戦闘力に自信が有ったのであろうとの分析だ。
エンドールは何もせずにビクセン達を見送ったとの報告だった。
結果からすると最悪の事態を回避したと言える。
もしビクセンと一戦を交えた後で、エンドールの部隊が敗退すると確かに言い訳ができない。
今の状態なら、たまたま居合わせたと言い逃れできるだろう。
機先を制し、盗賊団の壊滅を王に報告する。
さすれば盗賊団の壊滅の手柄は私のものだ。
ずるいと言われようがこれが貴族のやり方。
ビクセンが文句を言ってきたら、我が隊が相手する予定だった。
なのに余計な邪魔をしたと言ってやるのだ。
3日後、ビクセンの戴冠式だ。
自分もビクセンに会うことになる。
20年ぶりだが嫌味の一つでも言ってやるつもりだった。
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ビクセンは城で王に謁見し、都城の口上を述べると。
自分の屋敷に戻った。
予想に反しデミオは動いていない。
尾行に気づかれたか?
しかしそれなら町から逃げ出すはずだ。
なぜ動かん?
ビクセンには訳が分からなかった。
動かないとなるとそれはそれで困る。
まさか怪しいというだけで問答無用で切るわけにはいかんだろう。
どうしたものか?
ひとまずは無事に戴冠式を終えてエイブルに帰ることだ。
後のことは後で考えるとしよう。
実はビクセンは盗賊団の襲撃などなんとも思っていなかった。
マリーシアが炸裂トラップ魔法を仕込んだ矢はまだある。
帰りに暗殺団に襲撃されても十分に撃退できる。
漆喰の土台に黒い鉄柵、白い大理石製の大きな門、エイブル候の屋敷だ。
大貴族達の屋敷より幾分こじんまりとしている。
がこれは必要以上に他の貴族を刺激しないために配慮した結果だ。
しかし中を覗くとゆっくりと左にカーブした石畳、様々な植物や木で飾られた庭。
要所に植えられたバラの強い香りがあたりに漂っている。
ホールにも珍しい調度品や絵画が飾られているが決して華美すぎることはなく上品だ。
建物の設計から調度品までエマが考えたものだ。
ビクセンはさすがだと感心していた。
こういうことをやらせたら右に出るものは居ないだろう。
機能性とデザインの融合はエルフ族の特殊能力なのかもしれない。
しかし金が掛かりすぎるのが珠に瑕。
と苦笑いをした。
明日からは忙しい日になる。
屋敷の飾りつけとパーティの指示を行う。
主な貴族に挨拶回りをしなければならない。
実のところ貴族との付き合いは面倒で仕方ない。
エマが替わってくれると助かるが、ハンター協会から動かないだろう。
代わりに後続部隊で議員を3人ほど呼んである。
挨拶周りの半数は肩代わりしてもらおう。
自分は式典の準備だ。
今回同行したガイエンには屋敷の警備隊をやって貰うつもりだ。
エイブルの議員はエマを除けば皆、猛者ばかり。
実のところ警備なんか必要ない。
だが警備を置かないのは貴族としてどうかと言われた。
言うならば見栄えの問題だ。
だからガイエンを選出した。
恵まれた体格、明るい性格、親分肌でなかなかのイケメン。
実力はエイブルでは並、それでも王都の近衛兵に引けはとらないと踏んでいる。
エイブルの表の顔役だ本人も本望だろう。
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式典の当日、国王は珍しく朝早く目が覚めた。
式典の礼装は世話係が滞りなく準備してある。
準備も万端だ。
爵位が増えるのは100年ぶりだろうか?
その間没落した貴族は多い。
この100年で貴族の数も半数近くになった。
跡取りが道楽で身代を食いつぶす。
抗争の末、取り潰しとなった家もある。
繁栄と淘汰は世界の原則だ。
この200年周辺諸国とは戦争も起きていない。
王国が砂漠に位置し、他国から余り魅力に見えないというのも1つの原因だろう。
温暖な南の穀倉地帯は裕福なスムリト共和国と接しており、100年の不可侵条約を交わしている。
来年に期限切れではあるが、また100年条約を結べばいい。
国内の景気はいい。
中心はエイブルの繁栄だ。
王自身としても今回ビクセンに爵位を授けるのに抵抗は無い。
今回、王の気持ちとしては男爵といわず、子爵でも良かった。
が他の貴族の手前元冒険者をいきなり子爵には出来なかった。
国を安定させるには彼のような優秀な人材が是非とも必要だ。
古参の貴族達は立ち回りはうまいが、どれもこれも凡人ばかり。
権力闘争ばかりやりよって、ろくな奴がいない。
平和ボケだが、このままでは国の危機が必ずやってくる。
国王として、他国に隙を見せることは出来ない。
ライトハルト3世の肩には王国国民の命と責任が圧し掛かっていた。
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ビクセンは豪奢な白いガウンと赤いパンツを履き。
ライトハルト3世の前に跪いていた。
ライトハルト3世の左にいる執政官が長い口上を述べている。
左右を古参の貴族達が整列してじっと式を見守る。
この世界に口上を述べる執政官以外の音は無かった。
やがてライトハルト3世が右手に掲げた柄杓をビクセンの左肩に沿え。
「汝ビクセン・ドレアーをエイブル議長と認め、ここに男爵位を授ける」
「以後エイブル議長となるものを男爵位とし、王国繁栄のためその命を捧げよ」
ビクセンが頭を垂れる。
やがて式も終わり、ライトハルト3世が退場すると、踵を返して堂々とビクセンが退場する。
これからパーティだ。
本日は王の広間で夕刻まで行い。
翌日からビクセンの邸宅で貴族達を迎える。
パーティはこれから1週間行われることになるだろう。
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カリムがデミオに張り付いてもう一ヶ月だ。
議長は式典を終えてパーティに勤しんでいる頃だろう。
デミオに動きはまったく無い。
そろそろ行動パターンが読めてきて飽きてきた。
信じがたいほど禁欲的な男だ。
普通のハンターは月に1~2回は羽目をはずす。
浮いた話のネタでもないとやってられない。
クレリック並の堅物。
修行僧かと突っ込みを入れたくなる。
アインはアインで留守中の宿主かわりに掃除なんかしているし、こいつら頭がおかしい。
宿主のエドガーが居なくても従業員がちゃんと仕事しているし、宿の運営に支障はない。
アインがエドガーに弟子入りしたとは聞いていたが、エドガーが仕事を押し付けるわけが無い。
アインが勝手にやっているだけだろう。
しかし一方でアイン達が実力を付けて来ているのは確かだ。
先日もトロールなんか狩りに行っている。
レベル2クラスのハンターが相手するモンスターではない。
いずれエイブルを代表する実力チームになることだろう。
いいチームだが、レンジャーいないのは致命的だ。
自身がレンジャーであるカリムはレンジャーの重要性を一番熟知していた。
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ギーグスはビクセンの屋敷でパーティに参加していた。
戴冠式の様子を思い出してる。
妙に回りくどい口上だった。
違和感を感じる。
ゆっくと考え、ビクセンの計略に気づいた。
なんと狡猾なやつだ。
エイブル議長が男爵なのだ。
ビクセンを殺しても男爵家がなくならない。
ドレアー候でない。
エイブル候だと!
これでは自分がエイブルを取り返すことは出来ない。
やられた。
ギーグスは右手から血が滴るほど握り締めていた。
ビクセンが目の前にいる。
にこやかに談笑しながら冗談と賞賛の言葉を自然に投げかけている。
所謂ほめごろしだ。
こやつ見かけ以上に狸だ。
鍛え抜かれた身のこなしを感じる。
がエンドールが言っていたように凄腕には見えない。
野獣のようだと言っていた。
上品なたたずまいを纏い、まるで古参の貴族のように振舞う。
どちらが本当のビクセンなのだろうか?
ビクセンがやってきて、にこやかに話す。
「これはこれはエソリエントス候、20年振りでありましょうか?」
「いつぞやは私目に便宜を図っていただきかたじけなく感じております」
「先日はご子息にもお会いできました」
「立派なご子息に恵まれうらやましい限りですな」
しらじらしい口上を述べよって。
「急ぎ旅の途中でありましたのでろくな挨拶も出来ませんでしたが」
「今度ご子息も一緒に遊びに来ていただけると恐悦ですな」
2度と来るわけないだろう。
「ご子息もこの度ご活躍して国王様からお褒めの言葉をいただいたとか」
「さぞ将来もご期待なさっていることでありましょう」
「私も微力ながらお手伝いできて幸いでありました」
「どうぞご子息に記念の品としてこれをお持ちください」
と言って見事な鷲の彫刻を模ったペンダントを差し出す。
エイブル卿の紋章だ。
震える手でギーグスは受け取った。
ギーグスはビクセンの屋敷を出る。
庭の茂みにペンダントを投げつけた。
「ふざけよって!」
怒りに顔を歪ませて門を荒々しく開けると出て行った。




