20.議長暗殺計画
ギーグス・エソリエントスはエイブルを含む3つの町を支配していた男爵だ。
20年前、彼は財政難で困窮していた。
当時のエイブルはオアシスがあるだけで大して作物が取れるわけでもない小さな町だった。
当時から王国の中心に位置するため交通の要所として商人が出入りしていた。
がその数は今ほどのものではなかった。
とは言え町であるからにはある程度の市政を行わなければならず。
さしたる収入の無い住民から高い税収は見込められなかったため、通行する商人から通行税を徴収していた。
しかし、収支状況は良くなく言わばお荷物状態である。
その時、当時一介の冒険者であったビクセン・ドレアーが提案してきた。
内容はこうだ。
自分達の自治権を認めてほしい。
都市の代金として金貨1000枚を払う。
ただし頭金では500枚。
残りは1年後としてほしい。
もし残りの500枚を払えなければこの契約は無効とする。
以後都市の運営及び領土権についてはエイブルの議会が担うため口出し無用。
と言うことでエイブルを金貨1000枚で売った。
契約書を交わすとビクセンは町に帰っていった。
それから彼らは驚くべきことをやった。
議会を発足させ、ハンター協会を立ち上げると周辺のモンスターを殲滅。
街道を整備すると、さらに商人の通行税を殆ど無料にした。
どうやったのか、南のスムリト共和国の食料をイーラ帝国に運ぶ大商団を組織してイーラ帝国の鉄製品を大量に流通させ始めたのだ。
エイブルの取引量は莫大となり、町は急速に発展し始めた。
気が付くと王国最大の貿易都市なって莫大な利益を生んでいる。
ギーグスにとっては金の成る木を横からさらわれた形だ。
契約書無効としてビクセンに散々抗議したが、頑として受け付けない。
ゴロツキや冒険者を雇ってビクセンに脅しをかけようとしたが、返り討ちにあう始末。
気が付くとエイブルの自衛用兵団を組織して自分の兵団より強大になってしまった。
仕方なく親書をしたためて利益の分配を求め、年に金貨100枚を貰うという構図になっている。
ギーグスも幾分の資産ができたので以前の様に困窮することなく羽振りはいい。
しかし、元々ギーグスの所有だった都市だ。
今でも諦めるつもりは無かった。
そこにビクセンが男爵位を受けるとの知らせを受けた。
寝耳に水の知らせだ。
自分と同じ男爵では今後色々とまずい。
なんとしても阻止したいが、重鎮たる大貴族の殆どを買収したビクセンに正面から挑むのは愚か者だ。
しかし、貴族のやり方は力だけではない。
裏の方法もいくらでもあるのだ。
いくら強いと言っても、所詮は20年前の男だ。
当時より強いわけは無い。
取り巻きに優秀な者をはべらせていたとしても旅行中なら手薄なはず。
王都に向かっている途中で盗賊に襲撃されるなどはよくある話だ。
貴族にはお抱えの情報屋がいる。
彼らは裏の情報に長けており、場合によってはそのようなやからを動かすことすら可能なのだ。
今回情報屋にエイブルの議長が戴冠式のため王都に向かっている。
そのため金貨数千枚を運んでいると噂を流してもらった。
さらに盗賊団に大量の武器を横流しし、自分の配下を紛れ込ませてある。
盗賊団の団長スナートは今回の襲撃に大いに乗り気だとの知らせを受けていた。
盗賊団は50人の規模だ。
いくらエイブルの衛兵が優秀でもこの数には対抗できないだろう。
スナート盗賊団は最近王都周辺にて活動する凶悪な盗賊団で、王都でも持て余していた。
実はギーグスはこの盗賊団の討伐を買って出ている。
ギーグスは盗賊団にビクセンを襲わせ双方が疲弊したところを盗賊団ごとビクセンの部隊も叩くつもりだ。
お宝をわざわざ盗賊ごときに渡すつもりはないし、盗賊討伐のお手柄ももらえる一石二鳥どころか、三鳥のおいしい作戦だ。
うまくビクセンのやつを殺したら、あのエイブルの町を占領して自分の下に取り戻す。
問題があるとすればビクセンがあっという間に盗賊団にやられると自分達が盗賊団と闘わないければならなくなることだ。
せいぜい余の為、頑張ってくれよと願わんばかりだ。
と笑いがこみ上げてくる。
盗賊団の構成は判明している。
魔法使いが3名、弓矢が10名、残りは接近戦員だ。
骨がありそうなのは重プレートメイルを着た男。
イーラ帝国製らしいがどうせ猪突猛進の脳筋野郎だろう。
ビクセンとの戦闘で双方魔法使いは魔法を使い切るだろうからゴミだ。
討伐隊は自分の自慢の息子エンドールが率いる。
魔法使い10名、弓隊を20名に騎士20名の精鋭だ。
万が一にも負けは無い。
盗賊団の襲撃場所も判明している。
帝国から1日程度の峡谷。
ビクセンが帝国に入るにはこの峡谷を通るしかない。
事前にギーグスはこの渓谷を調査済みだ。
本来なら警備を買って出た自分が警備すべき土地である。
が自分も多忙で手が回らなかったと言えばすむだろう。
ちゃんと盗賊団も殲滅するし誰も文句を言うまい。
ビクセンは行方不明。
彼の意思は私が引継ぎ、替わって私がエイブルを統治することにする。
と王に進言するつもりだ。
後は速度が命だ。
すばやくエイブルを統治下におくこと、そのため商人に偽装した部隊を密かにエイブルに送る。
内と外から攻め立てれば簡単に落とせると踏んでいる。
ギーグスがエンドールに檄を飛ばす。
「失敗はゆるさん。必ず討ち取るのだ」
「高台から戦況を見極めろ」
「戦況が膠着したら、一気に魔法と弓で殲滅しろ」
エンドールがゆっくりとうなずく。
「必ずご期待に添います」
と言うと踵を返して出発した。
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ビクセンはエイブルの町を出て王都に向かっていた。
連れているのは、モンクのエドガーと、ファイターのガイエン。
それに弓の使いのレンジャー7人の9人だ。
本当はカリム達を連れて行きたかったがカリムにはデミオを監視してもらっている。
町を出て3日だがカリムから知らせがないと言うことはデミオは動いていないと言うことだ。
ターゲットは自分ではないのか?
疑問はあるが彼の監視を辞めるつもりは無かった。
小さなオアシスでキャンプを張る。
エドガーが焚き火を起こしながら言った。
「ビクセン、少しは認めてやっていいのではないか?虎の子は虎だぞ」
ビクセンはエドガーを見つめる。
「俺がエイブルの虎だったのは20年前だ」
エドガーは首を振りながら
「今でもお前さんは怖いよ」
ビクセンがにやりと笑いながら
「鬼人エドガーが怖い訳無いだろう」
エドガーが照れながら
「その名前を出すな。俺はそんな強面じゃない」
エドガーにピッタリな称号だ。
がエドガーはその称号を言われるといつも否定していた。
ビクセンは、かつてエドガーとマリーシア、カリムのチームで冒険者だった。
「あの頃は楽しかったな」
エドガーがうなずく。
エドガーがアインのことを言っているのはビクセンにも分かっている。
ビクセン「あやつは、未熟なくせに、賢ぶってかっこつける」
「多少使えるようになったかも知れんが、所詮殿様剣法よ」
「ちょっと厄介な敵には通用せんだろう」
ガイエンを顎で夜警中のガイエンを指し、
「あのガイエンの方がまだ見所があるぞ」
「細かいことは気にしないで勢いがある。若いやつはそれでいい」
ガイエンは圧倒的なタフネスと豪快な技が取り柄だ。
恵まれた体格とその性格がうまくマッチしていた。
ビクセンがこの旅にガイエンをメンバーに指定したときはエドガーも驚いた。
何分彼は警備兵になってまだ日が浅い新参者だ。
しかし戦闘ではまず死なないことが大切だ。
彼なら重量のあるプレートメイルを装備していても遅れをとることがない。
ビクセンとエドガーが装備しているのは、レザーアーマーにプレートを被せて急所を守るタイプのレザープレートだ。
当然プレートメイルほどの防御力はない。
しかし動き易く軽い、防御を補うのは経験と技術だ。
今回の主役はレンジャーだ。
いち早く敵を見つけて対応する。
常に1~2名の斥候を出しながらの旅程だ。
レンジャーの7名の負担は大きい。
だから夜間はビクセン達が夜警を多目に行っていた。
ビクセンがエドガーに尋ねる。
「お前から見てデミオはどう写る」
エドガーが少し考えながら答える。
正直分からない。
モンクと言うのは裾野が広い。
せめて流派が分かれば予想もできるが、何分情報が少なすぎる。
しかし前日の戦闘で気絶したと言う。
モンクとしての錬度が低い。
明らかに修行不足だ。
どこまで發が使えるか不明だが、基礎ができてないのに發を使うとそういうことになる。
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エンドールが渓谷の高台に陣地を形成して5日になる。
盗賊団の動きはしっかりと把握済みだ。
報告ではビクセン達が到着するのは間もなくのはず。
人数は僅か10人ほどだ。
強そうなのはプレートメイルを着ているやつ1人だ。
老いぼれ2人に弓矢隊7人は大した戦力ではない。
戦闘は一瞬で終わる可能性もあると踏んでいた。
タイミングが命だ。
最初のコンタクトで全滅させる。
このようなつまらない戦闘で貴重な部下を死なせるつもりは無かった。
武勲を立てて将来は将軍になる。
これがエンドールの夢だ。
その時、斥候が息を切らせて駆け込んできた。
「ビクセンです」
エンドールの眉間に深いしわが刻まれる。
「いくぞ!」
エンドールの部隊は整然と移動した。
静かだ。良く訓練されている。
エンドールが最初に見たのは盗賊団の弓隊の攻撃だった。
ビクセン達は装甲付きの砂亀に引かれた荷車にタワーシールドで簡易要塞を構築していた。
高台から弓隊が矢を射掛け、魔法部隊が呪文を放出しようとしている。
驚くことにビクセン達の弓矢隊も高台に居た。
矢が注がれる。
突然矢が炸裂し、魔法部隊は全滅した。
続いて弓や隊も炸裂する矢に攻撃され散り散りとなる。
しかしそうなると荷馬車を守るのは3人だけだ。
荷馬車からプレートメイルの男がうなり声を上げ盗賊団に突入する。
バトルアックスがうなりを上げ。
先頭の1人を吹き飛ばした。
盗賊団は恐れることなく突撃してくる。
いよいよ混戦だ。
いくら強くても30人以上もいる盗賊団に1人では対抗できないだろう。
両手にメイスを2本持ったロートルの男がのっそりと出てくる。
自然に歩きそのままの速度で集団に近づく。
盗賊団がロートルの男に近づく。
盗賊が吹き飛んだ。
ロートルの男は何事も無かったように歩いている。
そこだけまるで見えない壁があるようだ。
範囲に入った者は全員メイスの餌食だった。
エンドールには信じられなかった。
あの男化け物か。
とうとう盗賊の頭スナートの前まで来てしまった。
プレートメイルの大男がモーニングスターを振り回している。
流石にロートルの男も立ち止まった。
その瞬間だった。
後方から黒い影が走りこんできた。
次の瞬間エンドールが見たのは中に飛ぶフルフェイスのヘルメットと生首だ。
「ばかな剣など入る隙間は無かったはず」
盗賊の頭スナートの胸を串刺しにした刀。
恐ろしいほどの殺気を纏ったビクセンだ。
実はエンドールに見えなかっただけでビクセンは2檄加えていた。
最初の突きでプレートメイルの大男のヘルメットを弾き飛ばし。
開いた首をかき切った。
その横を走りぬけスナートの心臓を串刺しにしただけだ。
頭を失った盗賊団は蜘蛛の子の様に散り散りになった。
ビクセン達は何事も無かったようにエンドールの横を通り過ぎる。
エンドールに一瞥もくれなかった。
しかしエンドールはその殺気から動くことができなかった。
背中に冷たい汗が流れる。
冗談じゃない。
誰だロートルだなんて言ったやつは。
とんでもない化け物ぞろいだ。
エンドールがやっとの思いで一言だけ搾り出した。
「お怪我はありませんか」
風に乗って聞えて来たのはやはり一言。
「うむ。ご苦労」




