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16.モンク修行

アインが突然モンクの修行を決断します。

アインがモンクになろうとする理由とは・・・

アインは宿を出ていなかった。

1階のロビーだ。

目当ての人がいた。

アイン「エドガーさん。お願いがあるのです」

アインが真っ直ぐ宿の主人を見つめる。

エドガーは戸惑っていた。

今までこんなことを言われたことがない。

なにか不都合があったのだろうか?


エドガー「私に何の用です?」

アイン「僕にモンクの修行を付けて下さい」

エドガーがびっくりする。

エドガー「ちょっとまってくれ。何で私なんだ」

    「確かにモンクだったが。教えるほどのものではないぞ」

アイン「私の知る限りあなたが最強のモンクですよ」

エドガーが肩をすくめる。

    「わたしの力は良くても中程度だよ」

    「どうせならちゃんとした師匠がいいだろう」

アインは食い下がる。

    「それなら師匠を紹介してください」

エドガーが肩を落とす。


エドガーの師匠は既に他界していない。

周りに自分が紹介できる者はいなかった。

北のはずれにモンクの修行場があると聞いたことはある。

しかし自分もそこに行ったことはない。

エドガー「どうしてモンクなんだい」

アインが応える。

    「ファイターとして極めたとは言えないです」

    「でも壁にぶつかっていて何とかしたいのです」

    「強化系の魔法か何かが今後は必要なんです」

エドガーがなるほどと考えた。

    「モンクの技は直ぐにものになるものはないよ」

    「チームに魔法使いを入れた方が手っ取り早いと思うけどね」

アイン「そうかもしれません」

   「でも自分でできることは何でもやってみたいんです」

   「才能がなければあきらめます」

エドガーがやれやれという感じで

   「しかたない。さわり程度なら教えよう」

   「午後来なさい」

と言って去っていった。


アインはほっとした顔で姿の見えないエドガーに礼をするとトレーニングに向かった。

体力をもっとつけなくてはならない。

1人で危険度Bクラスを相手できる。

これが目標だった。

もちろん倒せなくてもいい。

自分が正面から相手して、デミオが背後から攻撃する。

これが理想なのだ。

前回のコボルトキングでデミオが倒されたのは自分の力量不足だ。

コボルトキングはデミオの方が驚異だと感じ取った。

だから真っ先にデミオを倒した。

つまり自分の攻撃力が足りないのだ。

デミオ以上の攻撃力を身につける。

速さと攻撃力の両方を伸ばさないといけない。

困難なのはわかっている。

しかし体力をアップさせてからでないと意味がない。

遠回りかもしれないが、今はやれることをやるんだ。

そう決心していた。


エマはデミオについて考えていた。

ウッドハンマーの傷つき状態からスケルトンを倒したのは間違いない。

すると恐怖オーラに耐えることのできる戦士と言うことになる。

確かに熟練のハンターなら可能だ。

彼はその域に達していると言うことだろうか?

エマの勘は直ぐにそれを否定した。

強者には強者のオーラと言うものがある。

しかし彼にそれは感じられない。

確かに格段に強くなっているが、彼がその域に達するのはまだまだ先のことだろう。

すると持って生まれた才能か。

恐怖に対する耐性。それは1歩間違うと死につながる。

確かに彼が最初に持ち込んだのはデザートタイガーだ。

あの猛獣の恐怖に打ち勝ったから生き残れたとも言える。

彼の特性はおそらく彼の最大の強みだろう。

が同じく弱点かもしれない。


エマは報告書を作成することにした。

デミオについて記述する。

併せて改善提案も作成しておくことにした。


『アイアンハンマーの改善提案について』

戦闘中に手が滑ってハンマーを落とす危険防止のため、

柄尻に落下防止策を施したい。

提案者 デミオ 

                 エマ・グリーン


『ハードレザーアーマーの改善提案について』

武器の振り上げに支障が無いよう肩パッドの改善をしたい。

提案者 デミオ 

                 エマ・グリーン

エマが大声で命令する。

「だれか議会に報告書を持っていって頂戴」

「ハンマーのグリップの加工と穴を開けて皮ひも付けて」

と言うと物思いにふけった。


デミオが宿に戻るとマイクは修行中だった。

立ったり座ったりしながらひたすら呪文を唱える。

変わった方法だなとデミオは感じた。

自分がオルソロスから教わったのはひたすら自分の中の魔力を感じて

それを少しずつ大きくする修行だった。

結果は芳しくなかったが、自分はそれしか知らない。

大きくすると言ってもどうやれば大きくなるか分からなかったのだ。


午後になるとアインは風呂を浴びてエドガーのところに行った。

エドガーがいつもと違う白い服を着て立っていた。

アイン「よろしくお願いします」

エドガーがうなずく。

エドガー「最初に言っておくがこれはできないやつには一生かかってもできない」

    「それでもいいか」

アインがうなずく。

エドガーが少し間を空けて話し始める。

    「モンクの基本は体内の気を操ることだ」

    「まずは体内に気を溜めなければならない」

    「まずはこの修行を行う」

    「ここに座って」

と言って地面を指差す。

アインが座るとエドガーも座る。

    「その前に私が師匠だ」

    「君が弟子となる」

    「まずは挨拶だ」

    「頭を地面につけて私を30回拝みなさい」

    「以後修行の前に必ずこれを行うことが条件だ」

アインが言われたとおりにする。

エドガーが満足げにうなずく。


ゆっくりと話し始める。

まず目を閉じて呼吸を整える。

ゆっくりはいて・・・3秒とめて8割吸う。

ゆっくりはいて・・・3秒とめて8割吸う。

ゆっくりはいて・・・3秒とめて8割吸う。

繰り返しながら吸い込んだ力が自分のかなで回っていくイメージを持つ。

背中を通り、お尻まで達するとお腹を昇って頭の上まで行く

そこから首を通ってまた下にお尻まで下ろす。

やがて渦が感じられたらその渦を臍の下辺りに溜め込んでいくのだ。

呼吸のリズムを乱してはいけない。

やがて大きな塊となったら準備終了だ。

これを練気という。


エドガー「どうだできるか?」

アインはやってみたがうまくできている自信が無い。

エドガー「直ぐにはできないだろう少し練習してできるようになったらまた来なさい」

と言って立ち上がった。


アインはそのまま今のやり方をもう一度練習してみた。

やはり良く分からない。

しかしやり方はマイクの方法と似ているようだ。

マイクならなにかヒントがあるかもしれない。

部屋に戻ってみよう。


部屋に戻るとマイクはまだ修行中だった。

アインはクレリックの修行も結構大変だなと感じていた。

アインは部屋で錬気の修行をやってみた。

デミオはアインの様子を見て、アインが何か新しい事を始めたらしいと感じた。

アインの様子をじっと観察する。

夕方になるとマイクはやっと修行を終えた。

マイクは汗びっしょりだ。

マイクが床で寝ている。

マイク「久しぶりだからきついな~」

   「明日はもう少し軽めにしよう」

   「アインもデミオも帰っていたんだね」

デミオは驚いた。今まで気づいていなかったのか。

凄まじい集中力だ。


アイン「実はこの宿の主人は有名なモンクなんだ」

   「宿内で騒ぎを起こさないのは彼のお陰さ」

   「とてつもなく強いよ。素手で剣をへし折ったこともある」

   「今日彼に弟子入りしてきた僕の師匠ってわけだ」

デミオもマイクもビックリだ。


マイク「ちょっとまってよ」

   「なんでモンクなんだい?」

   「ファイターやめるの?」

アイン「いやモンクの技を使うファイターを目指す」

「もう一つはデミオの役に立つかもしれない」

   「デミオがモンクの師匠を持つのは難しいだろうからね」

   「まあこちらは余り期待しないでほしい」

マイクはやれやれという感じだ。


アイン「ここからが問題なんだ」

   「今日錬気を習ってきたが今ひとつなんだ」

   「やり方はマイクの浄化法に似ている」

   「だからなにかヒントが無いかと思ってね」

と言って今日の方法を説明し始めた。


マイクはじっと聴いていたが

   「僕にはいい答えが見つからないね」

   「僕の神聖魔法だと」

   「根源は霊力なんだ」

   「修行は霊的な力を強化していくんだよ」

   「確かに浄化法と似てるけど」

   「あれは言わば導入なんだ」

   「力を吸い込むじゃなくて吐き出す。まるで逆だよ」

   「修行はその先で自分の中の力の純度をあげていくのさ」

   「モンクの力は生命力だって聞いたことはあるよ」

アインはじっと考えている。


魔力、霊力、生命力違う力が根源だと言うことか。

デミオは魔力しか知らない。

人間界では色々な力があるものだと思った。

自分の中の魔力を少しずつ大きくする・・・自分の中の

!!!

ちょっとまったそれってアインが言った方法と同じでないのか?

デミオは突然ひらめいた。

   「アイン、錬気の方法をもう一度詳しく教えてほしい」

突然のデミオの発言にアインはびっくりした。

デミオがじっと見つめている。

アインが目の前に来て座ってドレアーが教えた方法を再現する。

デミオが目を瞑ってアインの指示に従う。

やがてデミオの中に気が渦を巻くのを感じた。

自分の魔力の場所を臍の下とイメージしてやってみる。

少しずつ渦が大きくなってくるイメージがある。

デミオは理解した。


デミオ「アイン、分かった」

   「それは僕が使っている魔力だよ」

   「今まで漠然としていたが、臍の下にあったんだ」

   「いいかい今度は僕が説明するよ」

アインがびっくりする。

まず魔力を感じる練習だ。

同じく目を瞑って、

ひたすら自分の中に潜っていくんだ。

やがて光が見える。

それが魔力だ。

アインがやってみる。

よくわからない。

デミオ「直ぐあきらめてはだめだ」

   「もっともっと深く潜るんだ」

   「一度見つけたら次はもっと簡単になる」

   「魔力を見つけたらそれを渦の中心にするんだよ」

アインは力いっぱい目を瞑っている。

デミオ「そうじゃない。もっとリラックスだ」

   「そうだ錬気をやりながら潜って行ったらどうだろう」

アインはなるほどと納得した。

今度はリラックスして呼吸を整える。

夜が更けてきた。

いつの間にか3人で錬気をやっている。


アインは突然魔力を感じた。

確かに光が見える。

気の渦が取り巻いている。

だんだん大きくしていく。

やがて高速で回る力の渦となった。

全身に力が湧き出る。

すごく不思議な気分だ。

いつの間にか夜が明けていた。


エマはハンター協会を閉めると、市場のはずれにある路地を南に入っていった。

人通りは少ない。

この路地は職人が軒を並べているのだ。

やがて大きな古い一軒屋の前にたどり着く。

中からカンカンと甲高い音が聞える。

煙突から白い煙が上がってた。

ドアをあけるとがらんとしたホールになっており奥に煌々と燃える炎が見える。

たくましい男が奥でハンマーを振るっている。

腰高の台の上に1人の男が皮をしごいていた。

険しい顔に、脈打つ筋肉、髪は流れる汗で皮膚に張り付いている。

硬く閉ざされた唇がその意思の強さと無言の威圧を周りに放っていた。

ジドウ・クラフト。鍛冶屋の棟梁だ。

エイブル随一の鍛冶屋であり、その腕は王国指折りと言われている。

彼こそエイブルのハンター協会専属鍛冶屋であり、エイブルの兵士の装備全てを扱っているのだ。

このエイブルで彼の傘下にいない職人は潜りである。

エマ「ジドウ。アイアンハンマーの改善は終わってる?」

ジドウが作業を止めて入口を見る。

  「姉さん。できているからみてくれ」

と言って奥に眼を飛ばすとあわてて1人の若い男がハンマーを持ってくる。


ジドウ「言われたとおり。柄に穴を開けて柄尻に突起を作ったよ」

エマは少し眺めていたが

   「だめだめ。突起じゃないのよ」

   「こうやって左手をぎりぎりに持つとすっぽ抜けるでしょ」

   「要は左手が抜けないようにするの」

   「突起では振るときに違和感があるでしょ」

   「そうね柄尻を滑らかに太くする」

   「穴はこれでいいわ。丈夫な皮ひもを左手に巻いてちょうどいい長さに輪にして」

ジドウは参ったという顔をする。

先日もガントレットを改善したいと言って、

皮手袋にプレートをつけてガントレット並みの強度を出せと言われた。

皮手袋の細い指にプレートなんかつけてもそんな強度は出せない。

しかも加工が細かすぎてコストが掛かりすぎる。

貴族の装備品ならわかるが実用的でないと言って突っぱねたのだ。

そうしたら、ミトンタイプの皮手袋作ったらいいでしょ。

ミトンタイプならそんなに華奢にならないわよね。

と反撃された。

唖然としてしまった。

確かにそれなら可能だ。

この人の要求はいつも高度だ。

要求に応えるのはかなりきつい。

しかし、弟子が見ているときはちょっとは手加減してほしいものだ。

などと思いながらも

   「分かった。やってみよう」と応えた。

ハードレザーアーマーを差出し、

   「これは肩パッドを可動式に変えた」

   「右は思い切って取り外してある」

   「左利きのやつには問題あるがテスト品なら問題ないだろう?」

エマは左のパッドの調子を見ている。

スムースに動く肩パッドが仕事の確かさを示している。

エマが納得の表情で「上出来よ。後で届けておいて」

と言って店を出て行った。


ジドウはエマのことを考えた。

協会の重要人物だ。

20歳くらいに見えるが、実は50歳くらいだと言う噂だ。

10年前につぶれかけの職人組合を救ってくれたのがエマだ。

当時ジドウは貧乏鍛冶屋の跡取りだった。

腕には自信があったが、旧来からの客を相手に細々とした家業でその日暮らしがやっとだった。

エマはジドウに帝国産の武器に負けないものが作れるかと言ってきた。

ジドウはいい材料と資金があればできると応えたのだ。


するとエマは莫大な資金と一流の材料を次の日から提供してくれるようになった。

今では20人以上の弟子を持つ、エイブルの大職人だ。

もちろん専属だから他の仕事は一切受けない。

がエマの要求は凄まじく膨大な量の防具と武器を作ってきた。

皮靴だけでも20センチから30センチまでの5ミリ間隔で作らされたし、

剣なら重心の位置をミリ単位でこだわる細かさだ。

しかし、時間があれば自分の創作意欲の湧く品物を自由に作ってもいい。

貴重な材料も使い放題だ。

夢のような待遇である。


10年前から変わらない美貌。

たしかエルフの血が入ったクオータだと聞いたことがある。

あの鋭い洞察力はエルフの血がなさせる業なのだろうか?

ジドウは頭を振りながらハンマーの加工を弟子に指示する。


エドガーは店の床にモップがけをしていた。

階段をアインが降りてくる。

アイン「師匠。できました」

エドガーの目が大きく開かれる。

確かに僅かであるがオーラを感じる。

こやつ天才かもしれない。

エドガー「合格だ。その修行を続けてろ。時期が来たら技を教えよう」

とぶっきらぼうに言ってモップがけに戻った。

アインは仕方なく部屋に戻ることにした。

エドガーは後ろ姿を見ながら微笑していた。



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