12.3人だけの凱旋
翌朝アインとマイクは目を覚ました。
もう10時頃だろう。
アインは体の節々が痛む。
昨日の戦闘で全身がずたぼろだ。
マイクはさっそくデミオの様子を見ているようだ。
マイクが振り返りアインに言う。
「デミオはまだ目を覚まさないよ」
「僕はお湯をもらってくるよ」
と言って下に降りていった。
アインもマイクも昨日は疲労困憊でベッドに崩れ落ちた。
少ししたら風呂で返り血を流すべきだろう。
程なくするとマイクが戻ってくる。
桶にたっぷりとお湯を張ってある。
タオルを絞るとデミオを綺麗に拭いていった。
デミオの傷はまだ生々しい様子で、両腕も骨折している。
マイク「ディレイ・ミドルヒール」
徐々に傷が消えていく。
やがて腕の骨折が直ったのを確認した。
骨折はミドルヒール以上でないと直せない。
重傷ならラージヒール以上だ。
しかしマイクはミドルヒールまでしか使えなかった。
回復量だけならディレイ系の古典魔法の方が大きい。
ゆっくり治療するなら断然こちらが有利だ。
しかし現在ではこの古典魔法は殆ど廃れていて使うものがいない。
皆が即効性のある回復魔法を好むからだ。
マイクはデミオの傷の状態を確認した。
「ディレイ・スモールヒール」
ほぼこれで完全回復のはずだ。
しかしデミオは目を覚まさない。
マイクは振り向き、アインの方に歩きながら。
「僕にはこれ以上どうして良いかわからないよ」
「でも君の傷も心配だ。少しみせて」
アインの傷を見ている。
思ったより傷は負っていない。
無理な戦闘による筋肉疲労が大きい。
「スモールヒールで回復できるけどどうする」
アインは首を振りながら
「いやこのまま自然回復にするよ」
「ヒールで直すとトレーニング効果を失う」
マイクは頷いて
「僕は下で朝食を何かもらってくるよ」
「風呂にも入っておきたいしね」
と言って下に降りていった。
アインは重い体を起こして、自分も下に行くことに決めた。
今からなら合流できるだろう。
デミオが1人になるが問題ないはずだ。
ゆっくりと起き出すとドアに向かって降りていった。
デミオは深い眠りから目を覚ました。
どこにいるか一瞬判らなかったが、見慣れた天井とフカフカのベッドで宿にいることが判った。
隣を見るとアインもマイクもいない。
テーブルには桶が置いてある。
自分の体の状態を確認する。
骨折していたはずの腕は綺麗に直っている。
叩きつけられた背中も問題ないようだ。
どうやら自己治癒で魔力を全部消費して気絶したようだ。
おそらく24時間経って魔力の回復が始まったのだろう。
殆ど魔力は残っていないが、ここにいる限り危険は無い。
アイン達は無事だろうか。
誰かに状況を聞くしかない。
すこしふらつくがベッドから起き上がると下に降りることにした。
デミオが階段を降りていくと、アインとマイクがテーブルに座って食事をしているところが見えた。
デミオと目が合う。
マイクが勢い良く立ち上がった。
「デミオ!」
デミオがマイクのそばに歩いていく。
「良かった無事だったんだね」
マイク「もう目を覚まさないかと思ったよ」
デミオ「戦闘中に気絶してしまってすまなかった」
「魔力を使い切ってしまったんだ」
アイン「いずれにしろ、皆無事だった」
「幸運に感謝しよう」
と言ってにっこりと笑った。
デミオもテーブルについて一番大きな肉にかぶりついていく。
徐々に魔力が回復していくのを感じる。
夢中で食事をしていると目の前に1人の影がやってきた。
全員が一斉に顔を上げる。
キースが1人で肩を落として立っていた。
「どう謝罪していいかわからない」
「申し訳なかった・・・」
と消えるような声で話す。
アインがじっとキースを見つめる。
やがて袋から20個ほどの角を取り出すと。
「君の取り分だ」
「コボルトキングの角はこちらでもらうよ」
と言ってテーブルに置く。
キースは驚いた顔で
「まさか倒したのか」
「不可能なはずだ」
アインは肩をすくめて
「あいにく逃げ遅れてね。倒すしかなかったんだ」
キースは信じられない顔だ。
キースはテーブルの角を見ながら
「これは受け取れないよ」
アイン「君は役割をこなしたさ。正当な取り分だよ」
キースは悩んでいるようだったが
「ありがとう。いつかこの恩は返すよ」
と言って立ち去っていった。
部屋に戻るとデミオは
「いろいろと迷惑をかけたみたいだね」
「今度はもっとうまく立ち回るよ」
アイン「いや今回は君が突破口を開いてくれたんだよ」
「十分助かったよ。それにキースもね」
デミオ「僕にはキースが悪いやつには見えないけど」
アイン「そうだね。僕達も噂に惑わされているかもしれない」
「まあ、彼の態度も問題だと思うけどね」
マイクもうなずく。
アインは角をテーブルの上に並べながら
「分け前を分配するよ」
「この大きな角は僕がもらうことにする」
「小さいのは全部で51個だ」
「デミオが26個でマイク25でいいね?」
デミオ「それはおかしい、逆だろう」
マイク「君は装備をもっと充実させないといけない。でないと僕の負担が大きいだろ」
「今回も僕達と同格の装備ならもっと怪我が軽かったかも知れない」
デミオは考え込む。
確かにそうかもしれない。
アインが口を開く。
「君はハンター協会から不利益を受ける」
デミオは意味がわからない。
「それはありえない僕は十分なサポートを受けているよ」
アインがうなずく。
「今まではそう見えるだろう」
「でもレベル2になるまで君の装備はグレードアップしない」
「これがルールなんだ。レベルに応じたバージョンアップが行われる」
デミオはますます判らない。
「それのどこが不利益なんだい。わけが判らないよ」
アインがゆっくりと話し始める。
「これは僕達も最近気づいたことなんだ」
「以前僕が父に反抗していると言ったよね」
「そして父はハンター協会に意見できる」
「でも父は非常に公正な人物なんだ。頭が固いけどね」
「だからルールを厳格に守らせるように指示したと思われる」
「おそらくこうだ」
1.規定の斡旋ルール以外での斡旋の禁止
2.要望されなければ最低ラインでの提供
「僕達以外はエマさんが適宜斡旋を行っている」
「この辺はエマさんの裁量の範囲なんだ」
デミオ「それなら自分から要求したらどうだい?」
アイン「その場合、レベルアップ時に斡旋すると言われるよ」
アインもマイクも経験済みだった。
デミオ「でも僕はチームに入ってからも斡旋してもらったよ」
アインがその通りだという顔で
「君がエマさんのお気に入りだって言った理由だよ」
「エマさんは君にルール内のぎりぎりの斡旋をしたんだ」
「僕達のチームに入ってからは身の回りの品を充実させているだろう」
「ぎりぎり装備ではないという理論さ」
デミオはなるほどと思った。
が気に入られていると言う点には疑問がある。
アイン「君もいずれレベルアップだと思うよ」
「だから斡旋の際には必ず『最強で』と言うんだ」
デミオはうなずきながら、
「そうするよ。でもやはり不利益とは思わないね」
「サポートを受けれない人もいるわけだし」
「僕達だけが特別なわけじゃない」
「きっと君のお父さんも嫌がらせでやっているわけじゃないと思うよ」
アインは少し考え込む。
マイクが元気な声で
「よし、皆でハンター協会まで凱旋だ」
アインはそんな大げさな・・・と肩をすくめる。
でも悪くない提案だ。
宿からハンター協会までいくらも無い。
3人で手を振りながら歩く。
傍から見たら馬鹿だろう。
マイク「デミオも手を振る」
デミオはこんなことに意味は無いと感じたが従った。
声援や応援があるわけではない。
でもなんとなく楽しく感じてきた。
不思議な感覚だ。
たまにはいいじゃないか。
ハンター協会に入るとエマさんがにっこり笑って出迎えてくれた。
さすが情報通だ既に知っているのだろう。
エマは3人に懸賞金を渡たす。
アインが長剣をエマに示し、
「すまないもう一度メンテナンスしてくれるかい」
エマが長剣を抜く。
酷い刃こぼれだ。
刀身も捻じれが見える。
エマは首を振りながら
「これはもうだめね」
「新しいのを渡すわ」
「料金は無料だから安心して」
と言って階段を降りていく。
しばらくすると長剣とガントレットを持ってきた。
「このガントレットは新しく開発したの」
皮手袋にプレートを貼り付けて、皮ひもで固定してある。
「プレートで強化するのに加工コストが掛かりすぎるから」
「ミトンタイプにしてみたわ」
「試してみて頂戴」
アインに差し出す。
ガントレットを交換して長剣を振ってみる。
柔らかい皮が程よいグリップ力を産みガントレットに違和感は感じられない。
軽さと強さを兼ね備えているようだ。
アイン「いい感じだと思う」
エマ 「では使ってみて今度感想を教えてね」
アイン達は目を見合わせながらどういうことか理解できない。
エマ 「この前、長剣がすべる件についての改善結果」
「提案者が当然受けるべき権利よ」
とウインクしている。
デミオは気に入られているのはきっとアインだよと思った。
デミオもウッドハンマーを差し出す。
「ヘッドに少しぐらつきがあるメンテナンスしてほしい」
エマはヘッドのぐらつき具合を確認している。
「料金は銅貨 5枚よ」
「1時間後に取りに来て」
デミオはうなずく。
デミオがハンター協会を出ようと思ったときふと壁表示に気づいた。
スケルトン・ゾンビ 銅貨 10枚




