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第17話 NISA始動!新婚生活と未来への第一歩

「ニー……ニート!? いや待て、俺が無職になってどうする!!」


西暦2014年1月。

寒風が吹き抜ける都郊外のUR団地、陽当たりの良い2LDKのリビング。

俺――佐藤拓也(33歳・社会人12年目)は、こたつに入って広げた朝刊の経済面を二度見しながら、自分の頭を抱えて一人で突っ込んでいた。

新聞の紙面に躍っていたのは、太く誇らしげな文字。

『本日より少額投資非課税制度「NISA(ニーサ)」スタート! 個人マネーを「貯蓄から投資へ」』


「……そうだ、ニーサだ!! ニートじゃなくてNISAだよ!!」


膝をガバッと叩いた俺の脳裏に、令和の記憶が一気に駆け巡った。

2008年のリーマン・ショックのどん底で「非課税で勝手にお金が増える神制度……ニー……ニート!?」と頭にモヤがかかって思い出せなかったあの単語!

2014年1月、ついに歴史の時計が追いつき、この平成の世に『NISA』が正式に誕生したのだ!



【説明しよう!】

2014年1月創設!『旧NISA(少額投資非課税制度)』の登場!

年間100万円(のちに120万円)までの投資枠から得られる売却益や配当金が、最長5年間にわたって非課税となる画期的な制度!

当時はまだ「投資は金持ちやギャンブラーがやるもの」という偏見も根強く、一般庶民の認知度は決して高くなかった。

だが、アベノミクスによる「貯蓄から投資へ」という国の巨大な方針転換の第一歩であり、のちの2018年『つみたてNISA』、そして令和の『新NISA』へと続く、日本人の資産形成史における超・重要ポイントだったのである!



(モロに来たぞ……! 2013年のアベノミクスと黒田バズーカで株価が跳ね上がって、ついに国が本格的に「貯蓄から投資へ」舵を切り始めたんだ……!!)


「拓也ー? 朝から一人で『ニート』とか叫んでどうしたの?」


キッチンから温かいほうじ茶を持ってきた妻の美咲が、可笑しそうにクスッと笑った。

2011年に正式に婚姻届を提出し、このURの部屋で暮らし始めて3年近く。

美咲の『激安トライアングル作戦(100均・ドラッグストア・業スー)』による徹底した生活防衛と、UR賃貸の「更新料ナシ・礼金ナシ」のおかげで、我が家の家計はどんな不況の嵐にも倒れない強固な城となっていた。


「あ、いやね! 美咲! これだよ、これ! 今日の新聞に出てる『NISA』!」


「ニーサ……? イギリスのISA(アイサ)をモデルにした、投資の利益が非課税になる制度でしょ? 信金でも最近ポスター貼られ始めたよ」


さすが現役の信用金庫職員、美咲の反応は早い。


「そう! これまでは投資で得た利益には約20%の税金がかかってたけど、このNISA口座を使えば年間100万円までの投資枠なら、利益がまるまる非課税になるんだよ! デフレの時は現金を守って固定費を削るのが強かったけど、これからはインフレも意識しなきゃいけない時代……! 城ヶ崎先輩が言ってた『守った種銭を活かす第二段階』が、まさに今なんだよ!」


熱弁する俺を、美咲は温かいほうじ茶を一口含みながら、静かに見つめた。


「……うん。拓也の言いたいことは分かるよ。時代がデフレから変わろうとしてるのも、アベノミクスで世の中の空気が明るくなってきてるのもね。……でもね、拓也?」


美咲は湯呑みを置くと、少し真面目な顔になって俺の目をまっすぐに見つめた。


「いくら非課税だからって、うろ覚えの知識でいきなり投資に全額突っ込むのは絶対にダメだからね? 翔太くんが昔ネット株で全財産失って泣いてたこと、忘れてないでしょ?」


「うぐっ……! も、もちろんです……!」


「私たちは氷河期を泥臭く生き抜いてきたの。手元に残したキャッシュ(防衛資金)は絶対に死守。その上で、毎月生活に支障が出ない少額から、慎重に勉強しながら始めるの。分かった?」


「はい! 仰る通りでございます……!」


美咲の地に足の着いた堅実さに、俺は深々と頭を下げた。

相変わらず隙がない。だけど、この圧倒的な安心感があるからこそ、我が家は絶対に倒れないのだ。


◆

その日の夜。下町の大衆居酒屋の座敷。

アベノミクスの恩恵で少し明るさを取り戻した店内で、俺たちは城ヶ崎先輩、健太、翔太と集まっていた。


「……ふむ、NISAか。ついに始まったな」


ホッピーのグラスを傾けながら、城ヶ崎先輩が静かに頷いた。


「城ヶ崎先輩もご存知でしたか!」


「当たり前だ。俺たちの若い頃は『固定費削減』と『現金の死守』が絶対の正義だった。だが、デフレからインフレへ向かう流れが生まれた以上、現金の価値が目減りする可能性も意識しなきゃならん。これからは『守り』の固定費削減と、『攻め』の資産形成を両立させることも大切になる」


城ヶ崎先輩の相変わらずの先見性に、健太が感心したように唸った。


「すげぇな……。俺なんてメーカーの営業で、最近やっと『受注が増えて残業代がちゃんと出るようになった!』って喜んでたレベルなのに……」


「健太、残業代が出るようになっただけでも大進歩だろ!」


翔太が笑う。


Webエンジニアとして地道にスキルを磨いてきた翔太も、今や案件が次々と舞い込み、表情にはかつての暗いクマではなく、生き生きとした自信が戻っていた。


「翔太はどうなんだ? また株やるのか?」健太が尋ねると、翔太は首を振った。


「ううん。一発逆転の個別にハイレバ全ツッパなんて二度とやらないよ。ライブドアとリーマンで学んだからね。これからは毎月コツコツ、積立でNISAを使ってインデックス投資を勉強してみるつもりだよ。拓也や美咲ちゃんに教わった『泥臭い継続』が一番強いって知ったからさ」


翔太の晴れやかな笑顔に、俺は胸が熱くなった。

かつてネット株の暴落で涙を流し、畳に額を擦り付けていた男が、激動の時代を乗り越えて「真のタフさ」を身につけていた。


「よし! じゃあ俺たちの新しいスタートと、NISA始動に乾杯だ!」


「乾杯ーーー!!」

居酒屋の座敷に、5人のグラスがカチンと心地よい音を立てて重なった。


◆

深夜、居酒屋からの帰り道。

少し冷たい冬の夜風が、火照った頬を撫でる。

URの部屋へ戻ると、美咲がリビングで静かに家計簿をつけていた。


「お帰り、拓也。少し飲みすぎちゃった?」


「ただいま、美咲。いや、全然大丈夫。みんなとこれからの話をしててさ……」


俺は上着を脱ぎ、美咲の隣に腰掛けた。


「美咲。俺さ……やっぱり、あの氷河期を美咲やみんなと生き抜けて、本当によかったよ」


「急にどうしたの?」美咲が不思議そうに首をかしげる。


「2000年のあの暗闇の中で、手書きのES書いて、1食80円のパスタ食って、URで固定費削って……。泥臭いことばかりだったけど、あの経験があるから、俺たちはこれからどんな時代が来ても怖くないんだって思えたんだ」


美咲は家計簿を閉じると、優しく微笑んで俺の手の上に自分の手を重ねた。


「うん。……ねぇ、拓也? 実はね……私から、拓也に大切なお知らせがあるの」


「え? お知らせ……? 業務スーパーの新商品でも出た?」


「もう、違うよ!」美咲は可笑しそうに笑うと、少し照れくさそうに、でも愛おしそうにお腹に手を当てた。


「私ね……赤ちゃんができたの」


「………………え?」


思考がピタリと止まった。


「あ……赤ちゃん……!? 俺と……美咲の……!?」


「うん。お医者さんに行って確認してきたの。今年の秋には……パパとママになるよ」


「……っ!!!!」


じわっと、目頭が熱くなった。

溢れ出しそうな涙を止められず、俺は美咲の手を強く、強く握りしめた。


「美咲……っ! ありがとう……ありがとう……っ!」


「ふふっ、拓也ったら泣きすぎ。……これからは、二人のNISAだけじゃなくて、生まれてくる子どもの未来のための準備も始めなきゃね♪」


「ああ……っ! 俺、絶対に二人を幸せにする! 泥臭く働いて、固定費守って、しっかり未来を作っていくから……っ!!」


満天の星空が広がる2014年の冬の夜。

デフレの氷河期を生き抜いた俺たちの元へ、家族という「新しい命の光」が舞い降りたのだ。


(見てろよ……! どんな未来が来ようと、俺はこの手で、新しい家族の未来を絶対に守り抜いてみせる……!!)


【次回予告!】

新しい命の宿りを知り、父としての覚悟を固めた拓也!

西暦2014年秋、ついに第一子となる長女が誕生する!

しかし、感動も束の間! 拓也と美咲の前に立ち塞がるのは「学資保険 vs 投資信託」という子育てお金のリアルな壁!

さらに、紙おむつと粉ミルクの怒涛の消費に、美咲の『ベビーデフレハック』が爆発する!

次回、第18話『長女誕生!学資保険vs投資信託と子育てのリアル』!


――新たな命がまた一つ...

(つづく)

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