↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/24

第16話 アベノミクス始動!デフレ脱却と未来への誓い

「……おい拓也、見ろ……! 見ろよこれえぇぇーーっ!!」


2013年の4月。都内下町にある『東洋物流資材』の営業部フロア。

かつて節電要請で薄暗かったオフィスも少しずつ明るさを取り戻す中、隣の席でノートPCの画面を凝視していた谷口先輩が、椅子をガタッと鳴らして叫んだ。


「ドル円が……ついに90円を超えたぞぉぉ! 75円で会社が潰れるかと思ってた悪夢が、嘘みたいだ……っ!」


画面に踊っていたのは、急激な円安の進行を告げるニュース速報だった。

ほんの少し前まで「1ドル=75円台」という歴史的な超円高に喘ぎ、海外取引や物流の現場で谷口先輩と頭を抱えていたのが幻だったかのように、為替相場は猛烈な勢いで円安へと跳ね上がっていた。


「本当に……一気に風向きが変わりましたね、谷口先輩」


画面を見つめながら、俺――佐藤拓也(中身は2000年生まれのZ世代)は、深く息を吐き出した。



【説明しよう!】

一体何が起こったのか!?

2012年末の政権交代を経て、2013年春に日銀総裁へ就任した黒田東彦(はるひこ)氏が放った、前代未聞の超ド級金融政策――通称『黒田バズーカ(異次元の金融緩和)』である!

その内容はまさに「バズーカ」の名にふさわしいダイナミックなものだった。

「2年でマネタリーベース(世の中に出回るお金の量)を2倍にする!」という明確な目標を掲げ、日銀が市場から国債などを爆買い! 世の中にお金をジャブジャブに溢れさせることで、長年日本を苦しめてきた「デフレ(物価の下落)」からの脱却を目指し、「年2%のインフレ(物価上昇)」を起こそうという大博打に出たのだ!

市場はこの規格外のバズーカに猛反応!

「1ドル=75円台の超円高」から「一気に急速な円安」へと振れ、輸出企業の業績回復期待から日経平均株価は連日爆上げ!

長らく氷のように凍りついていた日本経済に、久々の猛烈な熱気が吹き荒れ始めた瞬間であった……!



「助かった……これでなんとか今期の数字も作れる……! よっしゃ拓也、俺この追い風に乗って速攻で客先回って受注確定させてくるわ!!」


「あ、先輩! まだ午前中ですよ!?」


「商機は一瞬だ! 鉄は熱いうちに打てぇぇーっ!」


缶コーヒーを一気に飲み干した谷口先輩は、カバンを引ったくるように持ち上げると、スキップでもしそうな勢いで営業部のフロアを飛び出していった。

2000年代初頭のITバブル崩壊に始まり、ライブドアショック、リーマン・ショック、そして東日本大震災後の超円高地獄……。

俺たちが社会に出た時からずっと、この国には「凍てつくような長い冬」が続いていた。

『デフレ』という名の冷たい風が吹き荒れ、企業は人件費を削り、俺たち若者は「手取りの少なさ」と「将来の不安」に怯えながら、1円単位の節約に必死になって生きてきたのだ。


◆

昼休み――

スマホ画面に着信表示が光った。

かつて新卒就活の時から数々の修羅場で生き残りの術を教えてくれた、頼れる兄貴分・城ヶ崎先輩からだった。


「久しぶりだな、ニュース見たか?」


「城ヶ崎先輩! 見ました……!? ドル円が一気に90円台になって、株価も爆上げしてますよ!」


受話器の向こうで、相変わらず冷静な城ヶ崎先輩の低い声が響く。


『フッ……浮かれるなよ、拓也。アベノミクスだか何だか知らんが、時代が変わるということは「生き残りのルール」が変わるということだ』


「ルールが変わる……ですか?」


『そうだ。これまでのデフレ時代は、「現金を握りしめて固定費を削る」のが最強の防衛策だった。だが、インフレ……物価が上がっていく時代になれば、「現金の価値」は放っておくだけで目減りしていく。これからは、節約で守った種銭をどう活かすかという、第二段階の戦いが始まるんだ』


「第二段階……!」


『まあ、お前は美咲ちゃんと一緒にURでしっかり固定費の防衛陣形を組んでる。手元のキャッシュフローを死守できているなら、お前の足元は簡単には揺らがん。……周りが騒いでいる時こそ、自分たちの足元を見失うなよ』


「はい……っ! ありがとうございます、城ヶ崎先輩!」


電話を切った後、俺はあらためて胸の奥が熱くなるのを感じていた。

デフレの暗黒期を「UR賃貸」と「節約ハック」という堅牢な城で守り抜いてくれた城ヶ崎先輩。その言葉があるからこそ、俺は新しいインフレの時代にも恐れず向かっていけるのだ。

だが、これからは時代のルールが変わる。


(デフレの時代は『現金を握りしめて固定費を削る』のが最強だった。だけど、インフレ……物価が上がっていく時代になれば現金の価値は目減りしていく。節約で守った種銭をどう活かすかという『資産防衛・資産形成』の時代か!?)


俺の頭の奥で、令和の記憶がぼんやりと浮かんでくる……まだはっきりとはしないが....



【説明しよう!】

そう! ここから日本は『貯蓄から投資へ』という歴史的な大転換期を迎えるのである!

デフレ下では「現金を持っていること」自体が安全資産だったが、インフレ下では物価の上昇に伴い、現金の購買力が実質的に下がってしまう!

このアベノミクス・黒田バズーカをきっかけに、日本でも「投資・資産形成」の重要性が急速に叫ばれるようになり、のちの『NISA(少額投資非課税制度)』の創設(2014年〜)や、令和の『新NISA』空前の投資ブームへと繋がる巨大なうねりが、まさにこの瞬間から始まったのだ!



夕方近くになり、商談をまとめて上機嫌で社内に戻ってきた谷口先輩に声をかける。


「谷口先輩、浮かれてる場合じゃないですよ。これからはインフレと投資の時代です!」


「おお、なんかよく分からんが拓也が言うなら頼もしいな! よし、今日の夜はパーッと飲みに行くぞ!」


「あはは、先輩のおごりなら喜んで!」


◆

その週末、俺と美咲が暮らすUR団地の部屋には、久しぶりに懐かしい顔ぶれが集まっていた。


「うおー! ひさしぶり! 相変わらず仲良くやってるみたいだな、拓也、美咲ちゃん!」


ビール缶を掲げて叫んだのは、2000年の冬からITの可能性に目を輝かせ、数々の暴落や案件凍結の嵐に揉まれながらも地道にスキルを磨いてWeb業界で踏ん張ってきた翔太だ。


「これ、みんなで食おうと思ってさ!」


そう言って、大学時代から不器用に手書きESと格闘し、卒業後はメーカーの営業職として泥臭く現場を駆け回ってきた健太が、ドカンと高級そうな寿司の桶をテーブルに置いた。


「うわあ、健太くんすごい! 奮発してくれたんだね!」


美咲が目を輝かせる。

狭い団地の部屋に、缶ビールを開けるプシュッという心地よい音と、賑やかな笑い声が響き渡る。


「……なぁ拓也。俺たち、本当によく生き残ったよな」


寿司をつまみながら、翔太がどこか照れくさそうに、でもしみじみと呟いた。


「社会人になって早々ITバブルが弾けてさ……給料遅配で飯も食えなくなって、ライブドアショックで貯金全部吹き飛ばして、リーマンショックで会社の案件まで飛んで……。あの頃はマジで、未来なんて1ミリも見えなかったよ」


「ああ。手取り16万で頭抱えて、1食80円の激安パスタで食いつないでさ……。メーカーの営業やってても『代わりはいくらでもいる』って言われる時代だったし、ほんと、泥臭いことばっかりだったよな」


健太も笑いながら、遠い目をする。

ITバブル崩壊、給料遅配、ライブドアショック、リーマン・ショック、超円高、そしてデフレの嵐。

世間からは「貧乏くじを引いた氷河期世代」なんて呼ばれることもあった。

だけど、泥水をすするような思いで現場を踏ん張り、知恵を絞り合って助け合ってきたからこそ、今の俺たちには「どんな不況が来ても生きていける」という、しぶとしさと自信が備わっていた。


「でもさ、黒田バズーカだかアベノミクスだか知らんけど、これからは少しずつ、明るい時代になるのかな」


翔太が窓の外、少しずつ暖かくなってきた春の夜空を見上げる。


「ああ、時代は変わるよ。だけど俺たちの根っこは変わらない。どん底で学んだ『知恵』と『絆』があるからこそ、これからの新しい波にも、胸を張って飛び込めるんだ」


俺がそう言うと、健太も翔太も力強く頷いた。

宴が終わり、翔太と健太を駅まで見送った後。

静かになった部屋のベランダで、俺と美咲は並んで夜風に当たっていた。


「拓也」


美咲が、そっと俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「ようやく……世の中、明るくなるのかな……」


「……ああ。きっと、そうだよ」


「私ね、拓也と出会えて、一緒に100均やドラッグストアを巡って、工夫しながら暮らしてきた毎日、すごく楽しかったよ? 時代は厳しかったかもしれないけど、ちっとも不幸じゃなかった」


愛おしそうに微笑む美咲の横顔を見て、俺は胸が締め付けられるような温かい愛おしさに満たされた。

令和の記憶を持ったまま、最悪の不況期にタイムスリップした時は、絶望しかなかった。

だけど、泥臭い現場で汗を流し、頼れる城ヶ崎先輩や谷口先輩、仲間たちと励まし合い、そして美咲という生涯のパートナーと出会えた。

「氷河期」という厳しい冬があったからこそ、俺は「本当に大切なもの」を手に入れることができたのだ。


「美咲。これから時代がどう変わっても……インフレになろうが、新しい波が来ようが、俺が絶対に美咲を幸せにするからね」


「うん! 私も、拓也を全力で支えるよ♪ ……あ、でもね拓也?」


「ん?」


美咲は悪戯っぽくクスッと笑った。

「時代が豊かになっても、我が家の『業務スーパー&100均ハック』は永久に不滅だからね! 節約して浮いたお金で、今度は未来のための投資、一緒に勉強して始めようね!」


「あはは! さすが美咲ちゃん、隙がないな!」


満開の桜の香りを運んでくる春の風が、ふたりの頬を優しく撫でていく。

長い、長い冬が、ようやく終わった。

俺たちは手をつなぎ直し、光へと向かい始めた新しい時代へ、力強く一歩を踏み出した。

(第2部・完)


【次回予告!】

長い冬を越え、アベノミクスの光とともに、物語はついに最終章へと突入する!

2014年、ついに制度が始動する『NISA』の衝撃!

拓也の脳裏を駆け巡る「ニー……ニート!?」のデジャブ!

そして訪れる、新しい命の誕生と子育てのリアリティ!

デフレハックで守り抜いた種銭が、家族の未来を照らす確かな光となる!

次回、第3部開幕! 第17話『NISA始動!新婚生活と未来への第一歩』!


君は、未来の光を見る――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。