『六つの術と無人島の夜』
七技が持つ忍術。その力は、戦うための力…とは限らない。
旅日記 No.0679
滞在時間:約 1 日
新たな世界へ足を踏み出した瞬間、潮風が七技の頬を撫でた。
視線の先には、青い海と、木々が生い茂った無人島が広がっている。
「…… また、時間がかかるのか」
腕のタトゥーを見る。紋様はまだ薄く、次の世界への扉を開くには、丸一日ほどの時間を要するらしい。
探し人の気配は、風の忍術【暴風忍法】で探っても、海の彼方にも、島の奥深くにも、微かな手がかりさえない。
「仕方ない。一日だけ、この島で過ごすか…」
七技は波打ち際を歩きながら、島の様子を眺める。
広すぎず狭すぎず、木々は緑濃く生い茂り、岩場も砂浜も程よく続いている。
「ありがちな無人島だな。」
七技からすれば、これまで見てきた無数の世界の中で、どこにでもあるような、ありふれた無人島だ。
まずは火をおこす。瞳の色が赤く灰色の髪の毛の先端全ても赤く変わる。
七技は砂浜に腰を据え、手のひらをかざす。
「…… 火炎忍法」
ごう、と手の中で炎が生まれ、浜辺の近くにあった乾いた小枝へと移る。
砂の上では燃え広がりすぎることもなく、七技は砂を周囲に盛り、焚き火を囲むように整えた。
「これで、暖もとれるし、夜の闇にも備えられる」
次に水を探す。
七技は目を閉じ、風の流れを捉える。瞼の中では瞳が緑色になり髪の毛の先端も緑に変わる。
「…… 暴風忍法」
風が島の中を巡り、木々の間をすり抜け、湿った大地をそっとなびかせる。
その風の道しるべを辿り、七技は森の奥へと歩を進める。
「こっちか」
木々の隙間から、せせらぎの音が聞こえてきた。
清らかな湧き水が岩間から溢れ、小さな滝となっている。
七技は水筒に水を汲み、その冷たさを確かめる。
「水のありかが分かれば、一日くらいは容易に過ごせる」
続いて、住まいを整える。瞳の色が茶色になり灰色の髪の毛の先端も茶色になる。
七技は木の根が張り、地面の固い場所を選び、地面に手を添える。
「…… 砂土忍法」
地面がゆっくりと変化していき、平らで水はけの良い土台となる。
「必要な時になったら、風を遮るように低い壁を作るか。」
不安定な岩場とは違い、これなら夜も安心して休める。
「大地を味方につければ、風雨も凌げる」
そして、飢えをしのぐ。
七技は瞳の色は桃色に、髪の先は黒に変わり、そっと大地に手を触れさせる。
「…… 森林忍法」
すると、足元から芽が顔を出し、あっという間につるが伸び、みずみずしい葉を広げ、甘い香りの実をつけた。
青く、丸く、一口食べれば空腹も渇きも癒してくれる、そんな木の実。
七技はそれを摘み、一口食べる。
「生き物を傷つけることもなく、こうして命を繋げるのなら、それに越したことはない」
夕暮れが近づき、空が茜色に染まる頃。
「雲行きが怪しいな…」
七技は空を見上げて気づく。
「……雷電忍法」
瞳の色が黄色になり髪の毛の先端も黄色に変わる。
「さて、どこに落ちるか…」
雲行きを伺い、しばらく空を見上げた七技は、ゆっくりと雲の流れが変わったことに気づき、瞳と髪の毛の色を戻す。
「ふぅ…無人島の天気は変わりやすい…どこの世界も同じか。」
炎・水・雷・風・土・植物。
六つの忍術を、それぞれの場面で使い、この島で一日を過ごす術を手に入れた。
どれも、七技が旅の中で身につけ、使い慣れた術ばかり。
「……毎度思うが、いつでもどこでも生きていけるんだな、俺。」
夜が訪れ、満天の星が海面に映し出される。
焚き火の炎がゆらめき、潮風が木々をそよがせる音だけが響いている。
七技は炎を見つめながら、ふと思いに耽る。
これまで幾多の世界を旅し、幾多の場所で夜を明かしてきた。
見知らぬ土地で、一人で過ごす夜など、慣れてしまったはずだ。
だがこの静けさの中で、七技は一つの術のことを思い出す。
――無心忍法。
これは七技の第七の術。
もし今、この術を使えば…。そう考えたとき
「ふぅ……ここでも使わずに済んだか…」
心の底から、そう思う。
あの力は、使えばすべてを楽に解決してくれる。
だが同時に、その世界にあったもの、人々の想い、時間、命 —— そういうものすべてを、何もかも奪い去ってしまう。
「この力、あいつを見つけるときに使う…」
そう七技は、決めている。
この旅の間は、決して「七つ目の忍法」を使わない。
六つの術で事足りるのなら、七つ目の力に頼ることなど、決してしない。
「…… 大丈夫だ。俺は六つの術と、この手があれば、どの世界でも生きていける」
七技は炎を指でなぞり、静かにそう誓った。そうやって、六つの忍術で旅を切り抜けている、そのことを忘れないためにも。
やがて真夜中、腕のタトゥーが鮮やかに輝きだした。
「色も変わったか…」
次の世界への扉が、開かれる時が来たのだ。
七技は焚き火へと近づき、砂をかぶせて炎を静かに消し、
「……水氷忍法」と瞳の色が青に変わり髪の毛の色も青くなる。
どこからか、水を出し、その水をそっと注ぐ。
灰は冷やし、跡も残らないように砂をならし、木々の間を歩いても実を落とした痕も残さないように、すべてを整える。
「この島には、俺が来たことなど、何も残してはならない」
潮風が頬を撫でる。
満月が海面を銀色に照らし、星々が静かに輝いている。
何も変わらない、いつもの静かな夜。
七技は空間へと手を伸ばし、扉を開く。
「さらば、ありふれた無人島よ。」
その姿は、月の光に溶け込むように、静かに消えていった。
――しばらくして、島の反対側。
岩陰で数日間、助けを待ち続けていた一人の男が、ふと砂浜の方を見た。
そこには、誰かがいたような痕跡が、ほんのりと残っていた。
焚き火の跡も、足跡も、すっかり消されているけれど、潮風とは違う、どこか温かく、穏やかな気配だけが、そこに残っていた。
男は不思議そうに首をかしげ、「気のせいか」と一言いい
「……こんな無人島に誰かいるなんて、ありえないよな」
そうつぶやくと、男は岩陰へと戻り、安らかな気持ちで目を閉じた。
旅の記録
『六つの術と無人島の夜』
火をおこす術。
水を探す術。
大地を整える術。
恵みを与える術。
光り、護る術。
そして、そのすべてを知りながら、最後の術を使わないと決める心。
力とは、使うものではない。
使わずに済むのなら、それに越したことはない。
俺は六つの術を、これからも大切に使っていく。
そして七つ目の術は、いつまでも心に封じたままで。
今回も、兄の痕跡はなかった。
だがこの島で、俺は再び、自分自身の心を確かめた。
――七技
簡単に七技の特徴、能力を書かせていただきました。




