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異世界を旅する忍者 短編  作者: ねこダルマ2世
4/8

『音の止む家』

前回は色で、今回は音をテーマにしてみました。ホラーを要素を初めて入れてみました。

旅日記 No.0520

次の世界へ足を踏み出した瞬間、七技はいつも通り忍術で風の気配で感じ取った。

――この世界は、音が消えつつある。

木々のざわめきも、虫の声も、遠くの川のせせらぎも、すべてが砂に吸い込まれるように小さく、そして鈍い。まるで分厚い布の向こうにあるような、そんな音ばかりだ。

「…… また、時間がかかるのか」

腕に書かれたタトゥーを見る。空間孔を開く準備はまだできていない。探している男の気配はどこにもない。早く次の世界へ行きたい。だが、この世界に留まるしかない。

「仕方ない…」

七技は静かに歩き、森のはずれにぽつんと建つ古びた一軒家にたどり着いた。誰も住んでいないように見えた。だが、戸の隙間からかすかな声が漏れてくる。


「…… 聞こえる……また、あの音が……」

「静かに、して…… 音に、気づかれる……」

家の中には、老夫婦が息をひそめるようにして身を寄せていた。

「…俺と似ているな。はぁ…。」

七技はこの時、「恐怖の中にも、怒りも悲しみもなく、ただ静かに受け入れようとしている」老夫婦の姿が、七技の信条と似ていると感じ、無視もできず、戸を開けて入る。

「ひっ!!」

「待て、俺は客だ。ここは旅館だろう?」

二人は驚いて口をつぐみ、指を唇に当てた。

「お願い、声を出さないで。大きな音を出したら、あれが来る……」

老女は震える声で囁いた。

「何が来るんだ…?」

「しぃっ!お話しますから…お入りください…」

話を聞くと、この家には毎晩決まった刻に、誰もいないはずの二階から「音」が降りてくるという。

「ひた…… ひた……」

まるで足音のような、それでいて生き物ではないような、奇妙な音。

音が近づいてくると、家の中の音が一つずつ消されていく。

時計の針の音。

炉の火のはぜる音。

息づかいまでが、だんだんと吸い込まれるように消えていく。

「それでも、誰も傷つけたりはしないのです。ただ、音を奪っていくだけ……」

「だけど、音がなくなったら、もう何も聞こえなくなって…… その次は何が起きるのか、誰も知らない……」


七技は冷静に頷いた。

「心配するな。俺は音だけでは驚かない。」

七技はその後、静かにする二人が落ち着くのを待つ。

「そ、それでは…こちらへ…」

部屋に案内されて、七技は老婆が静かにお辞儀したのを見て、軽く会釈した。

そして、夜が更け、外は完全に闇に包まれた。

「うん…?」

そして来た。

「ひた…… ひた……」

二階の階段から、音が降りてくる。

重い空気が階下へと流れ込んでくる。音が近づくたびに、家の中のあらゆる音が、まるで水の中に沈んでいくように小さくなっていく。

老夫婦は眼を閉じ、互いの手を強く握りしめている。

七技は動かない。

ただ、音の正体を見極めようと、暴風忍法…風の忍術で気配を探り続けた。

――恐れる必要はない。何かが襲ってくるわけではない。

この「音」は、この家に長く住み、この土地を守り続けてきた存在の「声」だった。

だが、誰からも話しかけられることがなくなり、誰の声も聞こえなくなり、その存在はただ「音」だけになってしまったのだ。

誰もその音を聴こうとしなくなったから、音はただ寂しさを伝えるだけになってしまった。

七技は武器を出さない。そしてこの後は、術も唱えない。

ただ、静かに階段の方へ向き直り、低く落ち着いた声で話しかけた。

「お前の音は、悪い音ではない。ただ、誰も聴いていなかっただけだ。」

音は止まった。

「ひた……」

それきり、何も響かない。

七技は続けた。

「寂しいのなら、音を奪うな。お前の音を、誰かに聴かせてみろ。」

静寂が家を包む。

だが、その静寂は、もう恐ろしいものではなかった。

やがて、階段の上から、かすかな、だが優しい音が響いてきた。

まるで風が木々をそよがせるような、そんな音。

それはゆっくりと階下へ降りてきて、老夫婦の前を通り、戸口へと消えていった。

同時に、家の中の音が一つ、また一つと戻ってきた。

時計の音。

火の音。

そして、老夫婦の安堵した吐息が、再び部屋に満ちていった。


翌朝。

七技は既に戸口に立っていた。

腕のタトゥーの色が変わっていたからだ。

「久しぶりに一晩過ごしたな」

次の世界へ行く準備が、ようやく整ったのだ。

「あの…旅人さん…」

「なんと、お礼を…」

老夫婦は七技に礼を言おうとした。

だが七技は手を軽く挙げ、制した。

「俺は何もしていない。ただ、音の話を聴いただけだ。」

七技は次の世界へ向かう前に、最後に一言残した。

「音は奪うものではない。聴いてもらうものだ。それを忘れなければ、あの音はもう恐くない。」

別れを告げる間もなく、七技の姿はそのまま老夫婦の前から消えた。

彼は別に英雄でもない。

ただ、早く次の世界へ旅立ちたかっただけなのだ。

そして、七技は、誰も見ていないことを確認してから、次の世界へと向かった。


旅の記録

『音の止む家』

音は奪えば消える。

だが、聴いてあげれば、いつまでも響き続ける。

恐れるから、音は消えていく。

心で聴けば、音は決して消えたりしない。

また一つ、大切なことを覚えた。

――七技

主人公の旅日記には、終わりがないのか…それとも?

それは、私の人生と関係するかもしれない。

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