彼の小さなやさしさ。
この作品は、主人公の旅日記を紹介する。それだけの作品です。
夜の帳が下りた高層ビル群の屋上で、七技…俺は静かに目を閉じ、風の流れに身を委ねた。風の忍術によって街全体の気配を探り寄せるが、どこを探しても探している男の気痕跡はない。この世界にも奴はいないと悟った七技は袖をめくり、右腕の紋章に目をやるが、紋章の色を見て、「まだ次にはいけないな…」っと、次の異世界へ跳ぶための空間孔を開けるには少しばかりの時間を要するようだった。
仕方がなく、七技は真夜中の都市へと足を踏み出す。忍装束のままではいくら異世界とはいえ目立ちすぎるため、足音もなく路地裏を滑り、集積所で見つけた薄汚れた作業服を手早く羽織った。
着替えを済ませ、しばらく街の様子を観察しながら歩く。頭上には空中道路が幾重にも交錯し、一見すると高度に発展した都市に見えたが、足元には日々生み出される大量のゴミが積み重なっていた。街の空気は重く、決して治安が良いとは言えない。赤青の警告灯を明滅させたこの世界の警察のような人物たちが、険しい表情で路地や通りを巡回していた。
「面倒を避けよう」俺は一人でつぶやく。
無用なトラブルや詮索を避けるため、俺は気配を消して人の気配がない廃墟ビルの中へと潜り込む。暗がりの中を進むと、崩れた壁の陰で身を縮めて眠り込む一人の若い男を見つけた。俺は素早く間合いを詰め観察する。「刃物や拳銃は持っていないな。」その男は、ただ極限まで疲れ果て、腹を空かせた苦しげな表情で眠っているだけだった。
「世界には、その世界だけの正しさがある」――それが俺…七技の信条であり、旅人として異世界の歴史や人生に深く介入することはない。しかし「これくらいなら、問題はないだろう。」何度も旅を続けている俺。目の前の小さな飢えを癒やす程度の気まぐれならば、世界を歪めることもない。
周囲に人の気配がないことを確認すると、俺は植物の忍術を唱えた。「森林忍法…」コンクリートの亀裂から芽吹いた小さな木は、瞬く間にみずみずしい甘い香りを放つ木の実を数個結んだ。俺はその実を摘み取り、眠る男の枕元へそっと置くいた。「…そろそろ行くか…」紋章の色が変わったため、俺は空間に穴をあけた。そして開いた穴へと足を踏み入れ、何事もなかったかのように俺は、その場から消え去った。
あの男が、どうなったのかはわからない。だが、
翌朝、差し込む朝光の中で目を覚ました男は、鼻先をくすぐる甘い香りに気づく。そこにあった鮮やかな木の実を信じられない思いで見つめ、差し出された救いに貪るようにかぶりついた。男の頬を温かい涙が伝い、その顔には久しく忘れていた小さな笑みが浮かんでいた。っと、俺は新しい世界で前のことを想像をして、旅の日誌をつけた。
主人公の名前は、七つの技と書いて七技です。一人語りの時もあれば、第三者からの目線で書かれることもあります。




