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第9話「密室を走る列車」

第9話 密室を走る列車


――2013年11月18日 午前8時30分

日本国・青森県青森市 CLIB日本支部・青森臨時調査室


 青森の朝は、鉛色の雲に覆われていた。

 昨夜から降り続いていた雨は明け方に止んだものの、窓の外には冷たい霧が漂っている。

 臨時調査室では、十河雪乃がすでに机に向かっていた。

 机の上には、鉄道時刻表、列車の運行記録、乗客名簿、そして事件現場の写真が整然と並べられている。

 雪乃は昨夜から、ある疑問について考え続けていた。

 午前2時17分。

 被害者の懐中時計が止まっていた時刻である。

 しかし、その時刻に列車が停車したという記録は存在しない。

 さらに、乗客の1人は駅のホームのようなものを見たと証言していた。

 停車した列車。

 存在しない駅。

 そして、施錠された寝台個室。

 それぞれの謎が、1つの事件の中に重なっている。

「……やはり、おかしいですね」

 雪乃は小さく呟いた。

 その時、調査室の扉が開いた。

「おはよう、雪乃」

 エレノア・アシュフォードが入ってきた。

 その後ろには、ソフィア・ベネットが続いている。

「おはようございます」

 雪乃は顔を上げた。

「2人とも、よく眠れましたか?」

「私はぐっすり!」

 ソフィアが笑顔で答えた。

「エレノアは、夜中まで資料を読んでたみたいだけど」

「少し気になることがあっただけよ」

 エレノアは椅子に腰掛けた。

「それより、運行記録は届いた?」

「はい。今朝、鉄道会社から追加の資料が届きました」

 雪乃は1枚の書類を差し出した。

「事件当夜の運転記録です」

 エレノアは資料を受け取った。

「……列車の速度変化まで記録されているのね」

「はい。運転関係の記録を確認したところ、午前2時17分頃に停車した事実はありませんでした」

 ソフィアが尋ねた。

「じゃあ、乗客の人が見たホームは?」

「それについても、説明できる可能性があります」

 雪乃は路線図を広げた。

「事件当夜、列車は青森県内の鉄道施設付近を通過していました」

「鉄道施設?」

「はい。旅客駅ではありません。保守作業に使用される設備です」

 雪乃は資料を指さした。

「その付近には照明や屋根のある構造物があり、夜間に窓から見ると、駅のホームのように見える可能性があります」

 ソフィアは頷いた。

「じゃあ、乗客の人は駅だと思い込んだのかもしれないね」

「ええ。ただし、まだ現地確認が必要です」

 エレノアは腕を組んだ。

「それでも、列車が止まったという証言をそのまま信じる必要はなくなったわね」

「はい」

 雪乃は頷いた。

「それから、列車が一時的に減速していたことも確認できました」

「減速?」

「はい。速度が落ちたため、乗客は停車したと感じた可能性があります」

 エレノアは小さく微笑んだ。

「なるほど。存在しない停車駅の謎は、少しずつ解けてきたわね」

 ソフィアは写真を見つめた。

「でも、高宮さんが持っていた古い時刻表の駅名は?」

 雪乃の表情が変わった。

「……それは、まだ分かりません」

 彼女は古い時刻表の写真を取り出した。

 赤いインクで囲まれた駅名。

 そして、裏面に記された午前2時17分という数字。

「ただ、1つだけ確かなことがあります」

 雪乃は静かに言った。

「事件当夜の列車の運行と、この古い時刻表は、必ずしも同じことを示しているとは限りません」

 エレノアは頷いた。

「ええ。私もそう思うわ」

 その時、調査室の電話が鳴った。

 雪乃が受話器を取った。

「はい。十河です」

 数秒後、彼女の表情が変わった。

「……分かりました。すぐ伺います」

 受話器を置いた雪乃は、2人を見た。

「三上警部からです」

「何か分かったの?」

 ソフィアが尋ねた。

「はい。懐中時計の鑑定結果が出たそうです」

 エレノアは立ち上がった。

「それは聞き逃せないわね」


――同日 午前9時20分

青森県警察・臨時捜査本部


 三上修一警部は、机の上に1枚の鑑定報告書を置いた。

「問題の懐中時計だが、興味深い結果が出た」

 雪乃は椅子に腰掛けた。

「どのような結果でしょうか?」

「時計の機械部分に、大きな破損はなかった」

 エレノアが顔を上げた。

「つまり、衝撃で止まったわけではない?」

「その可能性が高い」

 三上警部は頷いた。

「鑑定によると、時計は外部から操作され、意図的に針を動かされた形跡がある」

 ソフィアが驚いた。

「……誰かが時計を止めたの?」

「そう考えられる」

 三上警部は答えた。

「ただし、いつ操作されたかまでは分からん」

 エレノアは報告書を見つめた。

「……なるほど」

 雪乃が尋ねた。

「指紋は?」

「被害者のものと、複数の不鮮明な痕跡がある。犯人を特定できる状態ではない」

 雪乃は頷いた。

「つまり、午前2時17分という時刻は、死亡時刻を示しているとは限らない」

「そのとおりだ」

 三上警部は答えた。

「さらに、司法解剖の暫定結果も届いている」

 エレノアは顔を上げた。

「死亡推定時刻ね」

「そうだ。午前1時頃から午前3時頃までの間と考えられている」

 ソフィアは首を傾げた。

「かなり幅があるんですね」

「死亡時刻を分単位で特定するのは難しいからな」

 三上警部は答えた。

「胃の内容物や体温、その他の所見を総合しても、この程度の幅は残る」

 エレノアは頷いた。

「それが自然ね」

 雪乃は手帳を開いた。

「では、午前2時17分に犯行が行われたと断定することはできません」

「そういうことだ」

 三上警部は続けた。

「もう1つ、重要な情報がある」

 彼は別の写真を取り出した。

 そこには、被害者の衣服が写っていた。

「被害者の上着の内側から、小さな紙片が見つかった」

 雪乃は写真を見つめた。

「……紙片?」

「古い紙の一部らしい。裏面に、鉛筆で文字が書かれていた」

 エレノアが尋ねた。

「何と?」

 三上警部は答えた。

「『原本は別にある』」

 室内に沈黙が落ちた。

 ソフィアが呟いた。

「……原本?」

 雪乃は静かに頷いた。

「高宮さんは、何かの資料を探していたのかもしれません」

 エレノアは写真を見つめた。

「そして、その資料をめぐって誰かと争っていた」

 三上警部は腕を組んだ。

「その可能性はある。だが、まだ証拠が足りん」

 雪乃は頷いた。

「まずは、高宮さんと口論していた藤原健一さんに、詳しく話を聞きたいと思います」

「ちょうど、今日の午前中に事情聴取を予定している」

 三上警部は答えた。

「君たちも同席して構わん。ただし、質問は私の許可を得てからにしてくれ」

「承知しました」


――同日 午前10時15分

青森県警察・事情聴取室


 藤原健一は、落ち着かない様子で椅子に座っていた。

 26歳。東京都内の出版社に勤務する男性で、鉄道関係の書籍や資料を扱っている。

 昨日のカシオペア車内では、高宮俊一と口論していた人物だった。

「藤原さん」

 三上警部が口を開いた。

「昨夜の行動について、もう一度確認させてください」

「……はい」

 藤原は小さく答えた。

「午後10時以降、どこにいましたか?」

「自分の個室です」

「ずっと?」

「……ほとんど」

 雪乃は顔を上げた。

 三上警部が尋ねた。

「ほとんど、というのは?」

 藤原は視線を落とした。

「一度だけ、廊下へ出ました」

「何時頃だ?」

「午後10時40分頃です」

 雪乃は手帳を開いた。

 その時刻には、彼女自身が藤原を目撃している。

「その時、どちらへ向かわれましたか?」

 雪乃が尋ねた。

 藤原は少し迷った。

「……高宮先生の部屋です」

 ソフィアが息を呑んだ。

「高宮さんの?」

「はい」

 藤原は頷いた。

「先生に、もう一度話をしようと思ったんです」

 三上警部が尋ねた。

「会えたのか?」

「……いいえ」

「なぜ?」

「扉をノックしましたが、返事がありませんでした」

 雪乃は顔を上げた。

「扉は開いていましたか?」

「いいえ。鍵がかかっていたと思います」

「確認したのですか?」

「……取っ手に手をかけました」

 エレノアは藤原を見つめた。

「その時、室内から音は聞こえた?」

「……いいえ」

「明かりは?」

「扉が閉まっていたので、分かりません」

 エレノアは頷いた。

「そう」

 三上警部が続けた。

「その後は?」

「自分の部屋へ戻りました」

「午前2時頃は?」

「寝ていました」

「証明できる人は?」

「……いません」

 藤原は俯いた。

 室内に沈黙が落ちた。

 雪乃は静かに尋ねた。

「藤原さん。高宮さんと口論していた理由を教えていただけますか?」

 藤原は顔を上げた。

「……資料のことです」

「古い鉄道時刻表ですか?」

 藤原の表情が変わった。

「……どうして、それを?」

「高宮さんの所持品から見つかっています」

 雪乃は答えた。

 藤原は小さく息を吐いた。

「……先生は、ある資料を公表しようとしていました」

「どのような資料ですか?」

「昔の鉄道記録です。正式な資料には残っていない、ある駅の存在を示すものだと」

 エレノアが尋ねた。

「それを公表すると、誰かが困るの?」

 藤原は唇を噛んだ。

「……分かりません」

「でも、あなたは公表を止めようとしていた」

「それは……」

 藤原は言葉を詰まらせた。

 ソフィアが優しく声をかけた。

「藤原さん。高宮さんのこと、嫌いだったんですか?」

 藤原は驚いたように顔を上げた。

「……いいえ」

「じゃあ、どうしてあんなに怒っていたんですか?」

 藤原はしばらく黙っていた。

 そして、小さく答えた。

「……怖かったんです」

「怖かった?」

「先生が調べていた資料には、普通では考えられないことが書かれていたんです」

 雪乃は静かに尋ねた。

「どのような?」

 藤原は震える声で答えた。

「……同じ列車が、同じ時刻に、違う場所を走っていたという記録です」

 エレノアの表情が変わった。

「……同じ列車が?」

「はい」

 藤原は頷いた。

「先生は、それが単なる記録の誤りではないと考えていました」

 雪乃は時刻表を見つめた。

「……なるほど」

 藤原は続けた。

「私は、そんな資料を公表したら先生の信用が失われると思ったんです」

「それだけ?」

 エレノアが尋ねた。

 藤原は答えなかった。

 ソフィアは、その沈黙を見つめた。

 彼は何かを隠している。

 しかし、その表情には、殺人を犯した者の余裕よりも、何かを恐れる人間の切迫感があった。


――同日 午前11時40分

青森県警察・廊下


 事情聴取を終えた3人は、廊下へ出た。

 雪乃は手帳を開いた。

「藤原さんの証言には、確認すべき点があります」

 エレノアは頷いた。

「午後10時40分頃に高宮さんの部屋を訪れたという話ね」

「はい。私自身、その頃に藤原さんを廊下で目撃しています」

 ソフィアが尋ねた。

「じゃあ、その話は本当なの?」

「少なくとも、藤原さんが廊下にいたことは確認できます」

 雪乃は答えた。

「ですが、高宮さんの部屋を訪れたかどうかまでは分かりません」

 エレノアは腕を組んだ。

「それに、鍵がかかっていたという証言も本人の話だけ」

「はい」

 雪乃は頷いた。

「ただし、重要なのは、午後10時40分の時点ですでに施錠されていた可能性があることです」

 ソフィアは首を傾げた。

「それって、どういうこと?」

 エレノアは答えた。

「もし藤原さんの話が本当なら、密室は午前2時17分よりずっと前から成立していたかもしれない、ということよ」

 雪乃は頷いた。

「そうです」

 ソフィアは少し考えた。

「でも、高宮さんが自分で鍵をかけていた可能性もあるよね?」

「もちろん」

 エレノアは答えた。

「だから、まだ犯人がどうやって出たのかは分からないわ」

 雪乃は手帳を閉じた。

「……もう一度、乗務員の行動を確認したいと思います」

 エレノアは顔を上げた。

「田辺車掌ね」

「はい」

 雪乃は答えた。

「特に、事件発覚前に誰が客室へ近づけたのかを確認する必要があります」

 ソフィアは頷いた。

「私も、田辺さんにもう少し聞いてみたいことがある」

「何ですか?」

 雪乃が尋ねた。

「昨日、田辺さんは『高宮さんが何かを急いでいた』って言ってたよね」

「はい」

「でも、どうしてそんなことを知っていたんだろう?」

 エレノアはソフィアを見た。

「……なるほど」

 ソフィアは続けた。

「高宮さんが自分から話したのかもしれない。でも、田辺さんの方から何か聞いた可能性もあると思う」

 雪乃は静かに頷いた。

「確認してみましょう」


――同日 午後1時15分

青森県警察・臨時捜査本部


 三上警部は、3人を前にして新しい資料を広げた。

「田辺車掌の乗務記録を確認した」

 雪乃は顔を上げた。

「何か分かりましたか?」

「事件当夜、田辺は午後11時頃から午前3時頃まで、所定の業務を担当していた」

 エレノアが尋ねた。

「その間、客室の近くへ行く機会は?」

「何度かあったようだ」

 三上警部は答えた。

「ただし、すべての移動が記録されているわけではない」

 雪乃は頷いた。

「夜間の乗務では、必要に応じて車内を巡回することがありますから」

「そうだ」

 三上警部は続けた。

「それから、もう1つ気になることがある」

 彼は1枚の写真を取り出した。

 そこには、乗務員の制服の袖口が写っていた。

「田辺の制服から、ごく小さな血液反応が検出された」

 ソフィアが息を呑んだ。

「……血?」

「まだ誰の血液かは確定していない」

 三上警部は答えた。

「ただし、詳しい鑑定を進めている」

 雪乃は写真を見つめた。

「……田辺さんは、事件発覚時に遺体へ近づいていますか?」

「その可能性はある。だから、血液反応だけでは犯行の証拠にはならん」

 エレノアは頷いた。

「ええ。重要なのは、いつ付着したかね」

 三上警部は腕を組んだ。

「その点を調べている」

 雪乃は少し考えた。

「田辺さんの行動について、もう一度確認させてください」

「分かった」

 三上警部は答えた。

「ただし、これ以上の事情聴取は慎重に進める必要がある」

 雪乃は頷いた。

「承知しました」


――同日 午後2時30分

CLIB日本支部・青森臨時調査室


 調査室へ戻った3人は、事件の時系列を整理していた。

 雪乃はホワイトボードに、重要な時刻を書き込んだ。

『11月16日 午後10時40分 藤原が高宮の客室付近へ』

『11月17日 午前2時17分 懐中時計が示す時刻』

『同日 午前5時40分 遺体発見』

 エレノアは腕を組んだ。

「……この3つの時刻を、同じように扱ってはいけないわね」

 雪乃は頷いた。

「はい。午後10時40分は藤原さんの証言と私の目撃が一部一致していますが、午前2時17分は時計の表示だけです」

 ソフィアが尋ねた。

「じゃあ、事件が起きたのはもっと早かった可能性もある?」

「あります」

 雪乃は答えた。

「司法解剖の結果では、午前1時から午前3時頃までの幅がありますが、死亡時刻の推定には誤差があります」

 エレノアは静かに頷いた。

「そうね。今ある情報だけでは、午後10時40分に生きていたかどうかも確定できない」

 雪乃はホワイトボードを見つめた。

「……もし、犯人が意図的に午前2時17分を示したのなら、私たちはその時刻に注意を向けさせられていることになります」

 ソフィアは頷いた。

「でも、どうして?」

 エレノアは答えた。

「その時刻に、何か別の意味があるからかもしれないわ」

 雪乃は古い時刻表の写真を取り出した。

 裏面には、鉛筆で書かれた数字がある。

『02:17』

 そして、その下には、存在しない駅の名前。

 エレノアは写真を見つめた。

「……時計と時刻表」

 雪乃が尋ねた。

「何か気になりますか?」

「ええ。犯人が時計を止めた理由は、死亡時刻を偽装するためだけではないかもしれない」

 ソフィアが顔を上げた。

「どういうこと?」

「高宮さんが持っていた時刻表に、同じ数字が書かれていたでしょう?」

「うん」

「なら、犯人はその数字を見て時計を操作した可能性がある」

 雪乃は頷いた。

「つまり、時計の時刻は犯人が資料から選んだものかもしれない、ということですね」

「ええ」

 エレノアは答えた。

「でも、それを証明するには、時計に触れた人物を特定する必要があるわ」

 その時、ソフィアが小さく呟いた。

「……ねえ」

「何?」

 エレノアが尋ねた。

「もし高宮さんが、午前2時17分に何かを確かめようとしていたとしたら?」

 雪乃は顔を上げた。

「……どういう意味ですか?」

「水城さんが言ってたでしょう? 高宮さんは、北海道に着く前に何かを確かめたかったって」

 ソフィアは続けた。

「もしかしたら、高宮さんはその時刻に起きて、窓の外を見るつもりだったのかもしれない」

 エレノアは少し考えた。

「……なるほど」

 雪乃も時刻表を見つめた。

「それなら、午前2時17分は犯人が作った数字ではなく、高宮さん自身が重要視していた時刻だった可能性があります」

「そういうこと」

 ソフィアは頷いた。

 エレノアは微笑んだ。

「いい着眼点ね、ソフィア」

「えへへ」

 ソフィアは少し照れた。

 雪乃はホワイトボードに、新しい一文を書き加えた。

『午前2時17分は、被害者自身が注目していた時刻か?』

 その時、調査室の電話が鳴った。

 雪乃が受話器を取った。

「はい。十河です」

 数秒後、彼女の表情が変わった。

「……本当ですか?」

 エレノアが顔を上げた。

 雪乃は続けた。

「分かりました。すぐ確認します」

 受話器を置いた雪乃は、2人を見た。

「……新しい情報が入りました」

「何?」

 エレノアが尋ねた。

 雪乃は静かに答えた。

「田辺車掌の制服から検出された血液について、鑑定結果が出たそうです」

 ソフィアが息を呑んだ。

「……誰の血だったの?」

 雪乃は一瞬だけ沈黙した。

 そして、答えた。

「……高宮さんの血液です」

 室内に静寂が落ちた。

 エレノアは腕を組んだ。

「……それだけでは、まだ犯人とは言えないわ」

 雪乃は頷いた。

「はい。ですが、田辺さんの説明と一致するかどうか、確認する必要があります」

 ソフィアは不安そうに呟いた。

「……田辺さんが、犯人なのかな」

 エレノアは窓の外を見た。

 灰色の空の下、青森の街並みが静かに広がっている。

「……まだ分からないわ」

 彼女は答えた。

「でも、少なくとも1つ、確かめるべきことがある」

 雪乃が尋ねた。

「何でしょう?」

 エレノアは静かに言った。

「田辺車掌は、本当に事件発覚後に初めて高宮さんの部屋へ入ったのかしら?」

 雪乃は手帳を閉じた。

「……確認しましょう」

 3人は立ち上がった。

 密室の謎。

 午前2時17分という時刻。

 そして、存在しない停車駅。

 すべての答えは、まだ見えていなかった。

 しかし、事件の輪郭は少しずつ明らかになり始めていた。

 その中心にいるのは、誰なのか。

 少女たちは、まだ結論を出していなかった。


――第9話 完

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