第2話「1986年のロンドンと、小さな灰色の脳細胞」
第2話 1986年のロンドンと、小さな灰色の脳細胞
――1986年11月6日 午前9時15分
英国・ロンドン
クロノス急行・1号客車
規則正しい車輪の音が、静かな客車に響いていた。
エレノア・アシュフォードは、窓の外に広がる光景をじっと見つめていた。
つい先ほどまで、列車は無数の光が渦巻く奇妙な空間を走っていた。しかし、いつの間にか窓の外には、見慣れたロンドンの街並みが広がっている。
ただし、その風景は彼女の知るものとは少し異なっていた。
道路を走る自動車は古い形をしており、建物の壁には色褪せた広告が掲げられている。通りを歩く人々の服装にも、現代とは異なる流行が見て取れた。
「……本当に着いたの?」
向かい側の座席から、ソフィア・ベネットが不安そうに尋ねた。
「少なくとも、外の景色は1980年代のロンドンと矛盾しないわね」
エレノアは淡々と答えた。
「でも、まだ証明されたわけではないでしょう?」
「もちろん。古い街並みを再現した施設という可能性もあるもの」
「エレノアって、本当に疑い深いのね」
「疑うことと、否定することは違うわ」
エレノアは窓の外を指さした。
「例えば、あの自動車。フォード・シエラの初期型ね。向こうの交差点にはオースチン・メトロも走っている。どちらも、この時代の英国では珍しくない車種よ」
「車にも詳しいの?」
「多少はね。事件現場に残された車両の痕跡から、犯人の移動手段を特定することもあるでしょう?」
「普通の高校生は、そんなこと考えないと思うけど……」
ソフィアは苦笑した。
その時、客車の天井から柔らかな鐘の音が響いた。
『まもなく、1986年11月6日、ロンドン中央時空駅に到着いたします。お忘れ物のないよう、ご注意ください』
車内放送が終わると、列車はゆっくりと速度を落とし始めた。
エレノアは座席から立ち上がり、机に置かれていた事件資料を鞄にしまった。
「さて、ソフィア」
「何?」
「ここからが本番よ」
彼女は小さく微笑んだ。
「40年前のロンドンが、私たちを歓迎してくれるといいのだけれど」
「できれば、危ない事件には巻き込まれたくないな……」
「残念ね。私たちは、その事件を調べに来たのよ」
ソフィアは深い溜息をついた。
「そうだった……」
やがて、列車が完全に停止した。
扉の向こうには、薄暗い地下ホームが広がっていた。
――同日 午前9時30分
CLIBロンドン支部・地下時空駅
ホームに降り立った2人を出迎えたのは、紺色の制服を着た年配の駅員だった。
「ようこそ、1986年のロンドンへ」
駅員は丁寧に帽子を取った。
「お2人が、今回の調査員ですね」
「ええ。エレノア・アシュフォードです」
「ソフィア・ベネットです。よろしくお願いします」
駅員は2人の名前を確認すると、小さな封筒を差し出した。
「こちらをお受け取りください。現地での活動に必要なものが入っています」
エレノアが封筒を開くと、中には身分証明書、紙幣、硬貨、そして小さな鍵が入っていた。
「……1986年当時のポンド紙幣ね」
「はい。現代の通貨は、この時代では使用できませんので」
ソフィアが紙幣を取り出した。
「わあ、本当に昔のお金だ」
「それから、こちらが宿泊施設の鍵です」
駅員は続けた。
「地上には、当支部が管理する宿泊施設がございます。滞在中は、そちらをご利用ください」
「現地での身分はどうなっているの?」
エレノアが尋ねた。
「お2人は、ロンドンを訪問中の学生という扱いになっております。必要な身分証明も用意されています」
「なるほど」
エレノアは書類を確認した。
記載された生年月日は、1986年の時点で2人が現在と同じ年齢になるよう調整されていた。
「ただし、1つ注意がございます」
駅員は声を低くした。
「この時代の人々に、未来から来たことを明かしてはなりません」
「当然ね」
「また、現代の通信機器は使用できません。携帯電話などは、こちらでお預かりいたします」
ソフィアは残念そうに自分の携帯電話を取り出した。
「写真も撮れないんだ……」
「代わりに、当時のカメラをお貸しできます」
「本当ですか?」
「ええ。ただし、撮影したフィルムは現地で管理してください」
エレノアは小さく頷いた。
「つまり、1986年の人間として行動しなさいということね」
「そのとおりです」
駅員は満足そうに微笑んだ。
そして、もう1枚の封筒を取り出した。
「それから、今回の調査について、追加の連絡がございます」
「追加?」
エレノアは封筒を受け取った。
中には、CLIBの紋章が印刷された書類が入っていた。
『時空迷宮事件調査室・第1特別調査班』
『事件番号:CLIB-1986-1107』
『調査対象:アーサー・ウィットモア死亡事件』
『現地先任調査員:セシル・ルノワール』
『所属:CLIB欧州事件調査部』
『年齢:18歳』
『出身:ベルギー王国・ブリュッセル』
『専門:犯罪心理分析、証言検証、人物関係調査』
エレノアは書類を読み進めた。
「……セシル・ルノワール?」
「はい」
駅員は頷いた。
「今回の事件では、すでに別の調査員が現地で活動しております」
「私たち以外にも探偵がいるの?」
ソフィアが驚いた。
「ええ。CLIBには、さまざまな専門分野を持つ調査員が所属しております」
駅員は続けた。
「今回のルノワール調査員は、人物の心理分析を専門とする探偵です」
「心理分析……」
エレノアは興味深そうに呟いた。
「その人も、私たちと同じ時代から来たの?」
「彼女の所属時代は、皆様と同じ2026年です。ただし、今回の任務では先行して1986年に到着しております」
「なるほど」
エレノアは書類を閉じた。
「それで、その調査員とはどこで合流するの?」
「ベーカー街付近の喫茶店『ローズ・アンド・クラウン』です」
駅員は小さな地図を差し出した。
「午前10時30分に待ち合わせとなっております」
「分かったわ」
エレノアは地図を受け取った。
ソフィアは嬉しそうに笑った。
「同じCLIBの人がいるなら、少し安心だね」
「そうかしら?」
エレノアは首を傾げた。
「優秀な探偵が複数集まれば、意見が対立することもあるわ」
「もう会う前からそんなこと言わないでよ……」
ソフィアは苦笑した。
駅員は2人を地上への階段へ案内した。
「どうぞ、お気をつけて」
エレノアは軽く頷いた。
「ありがとう」
2人は長い階段を上り始めた。
その先には、40年前のロンドンが待っていた。
――同日 午前10時05分
ロンドン・ベーカー街付近
地上に出た瞬間、ソフィアは思わず声を上げた。
「……すごい!」
目の前には、1986年のロンドンが広がっていた。
通りを走る赤い2階建てバス。黒いタクシー。古い型の乗用車。街角には公衆電話ボックスが立ち、新聞売りの男性が朝刊を並べている。
歩道を行き交う人々の服装も、2026年とは大きく異なっていた。
肩幅の広いジャケットを着た男性。鮮やかな色のコートを羽織った女性。大きな髪型をした若者たち。
街の至るところに、1980年代という時代の空気が漂っていた。
「本当に40年前なんだ……」
ソフィアは感動したように呟いた。
「まだ断定するのは早いわ」
エレノアは相変わらず冷静だった。
「でも、ここまで大規模な再現をする理由は考えにくい。時間旅行という仮説の信頼性は、かなり高くなったわね」
「もう認めちゃえばいいのに」
「証拠が揃えば認めるわ」
2人は通りを歩き始めた。
エレノアは鞄から小さな手帳を取り出した。
「今回の調査では、まずウィットモアの死亡状況を確認する必要があるわ」
「昨日、CLIBの本部があった場所ね」
「ええ。事件現場と同じ建物であることは確認できた。問題は、なぜその建物が40年後にCLIBの本部になっているのかよ」
「偶然じゃないの?」
「偶然の可能性もあるわ。でも、調べる価値はあるでしょう?」
ソフィアは頷いた。
しばらく歩いたところで、2人は小さな喫茶店の前に到着した。
木製の看板には、金色の文字で店名が記されていた。
『ROSE & CROWN』
「ここだね」
ソフィアが言った。
「ええ」
エレノアは腕時計を確認した。
午前10時18分。
待ち合わせまでは、まだ少し時間がある。
「……ちょうどいいわ」
エレノアは扉に手をかけた。
「先に入って、店内を観察しましょう」
「私は朝ご飯が食べたいな」
「あなたは本当に食欲旺盛ね」
「だって、お腹が空いてるんだもの」
ソフィアは笑った。
2人は喫茶店の扉を開いた。
そして、そこで3人目の探偵と出会うことになる。
――同日 午前10時20分
喫茶店『ローズ・アンド・クラウン』
店内には、焼きたてのパンと紅茶の香りが漂っていた。
窓際には小さな丸テーブルが並び、数人の客が新聞を読んだり、談笑したりしている。
エレノアとソフィアは、空いている席を探して店内を見渡した。
その時だった。
「Non, non, non! それではいけません!」
突然、店の奥から少女の声が響いた。
2人が振り返ると、窓際のテーブルに1人の少女が座っていた。
年齢は18歳ほどだろうか。
艶やかな黒髪を丁寧に整え、淡いクリーム色のブラウスに濃紺のジャケットを合わせている。首元には小さなリボンが結ばれ、靴は新品のように磨かれていた。
少女の前には、紅茶のカップと皿が置かれている。
しかし、彼女は何やら不満そうだった。
「この砂糖壺の位置をご覧ください。カップから右へ3インチ。ところが、スプーンは左へ2インチもずれているではありませんか!」
店員の女性が困惑していた。
「申し訳ありません、お嬢さん……」
「いえ、あなたを責めているのではありません。決して」
少女は慌てて立ち上がった。
そして、店員の女性に向かって優雅に一礼した。
「美しいマドモアゼルを困らせるなど、私の望むところではありません。ただ、物事には正しい配置というものがあるのです」
「は、はあ……」
「すべてがあるべき場所に収まってこそ、人間の心は安らぐ。そう思いませんか?」
少女は満足そうに微笑むと、砂糖壺とスプーンの位置を丁寧に直した。
「Voilà! これで完璧です」
店員は曖昧に笑い、その場を離れていった。
ソフィアは小声で囁いた。
「……変わった人ね」
「ええ」
エレノアは少女を観察していた。
「でも、興味深いわ」
「何が?」
「彼女、店員の手元を見ていたでしょう?」
「そうだった?」
「ええ。砂糖壺の位置を直している間も、ずっと店員の指先を観察していた」
ソフィアは首を傾げた。
「どうして?」
「さあ。本人に聞いてみれば分かるかもしれないわね」
その時、少女がこちらを振り向いた。
「おや?」
少女は2人を見つめた。
そして、柔らかな笑みを浮かべた。
「Bonjour、マドモアゼルのお2人」
ソフィアは驚いた。
「あ、こんにちは」
「もしお席をお探しなら、こちらへどうぞ。幸い、私のテーブルにはまだ余裕があります」
少女は優雅に椅子を引いた。
「若い淑女を立たせたままにするなど、紳士のすることではありませんから」
エレノアは眉を上げた。
「……あなたも女性でしょう?」
「もちろんです」
少女は平然と答えた。
「しかし、礼節とは性別によって制限されるものではありません。美しい女性には、誰であろうと親切にするべきなのです」
ソフィアは思わず笑った。
「ありがとうございます」
「どういたしまして、マドモアゼル」
少女は胸に手を当て、芝居がかった仕草で一礼した。
エレノアは少し考えた末、席についた。
「では、お言葉に甘えさせていただくわ」
「Très bien! 素晴らしい」
少女は嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、まだ自己紹介をしていませんでしたね」
彼女は姿勢を正した。
「私の名前はセシル。セシル・ルノワールと申します」
そう言って、少女は再び優雅に頭を下げた。
「どうぞ、お見知りおきを」
――同日 午前10時35分
喫茶店『ローズ・アンド・クラウン』
「セシル・ルノワール……」
エレノアはその名前を繰り返した。
「フランスの方?」
その瞬間、セシルの笑顔が固まった。
「……Pardon?」
彼女はゆっくりと顔を上げた。
「今、何とおっしゃいました?」
「フランスの方かと聞いたのだけれど」
セシルは深い溜息をついた。
「Mon Dieu……またですか」
彼女は胸元のリボンを整えた。
「私はベルギーの出身です。フランス人ではありません」
「あら、失礼」
「いえ、構いません。英国の方々は、フランス語を話す者を皆フランス人だと思われることが多いので」
セシルは少し不満そうに続けた。
「ベルギーはベルギーです。フランスとは別の国なのですよ」
ソフィアは慌てて頷いた。
「ごめんなさい。気をつけます」
すると、セシルはすぐに柔らかな笑顔に戻った。
「お気になさらず、マドモアゼル。あなたのような可愛らしい方に謝られてしまっては、こちらが恐縮してしまいます」
エレノアは腕を組んだ。
「……随分と気障な話し方をするのね」
「お褒めいただき光栄です」
「褒めていないわ」
「それは残念」
セシルは楽しそうに笑った。
ソフィアもつられて笑った。
「私はソフィア・ベネット。こちらはエレノア・アシュフォードよ」
「エレノア……」
セシルはその名前を聞くと、興味深そうに少女を見つめた。
「なるほど。アシュフォード嬢ですか」
「何か?」
「いえ、失礼。ただ、あなたの目が少し気になりまして」
「目?」
「ええ。あなたは店に入ってから、出入口、窓、店員、客の順番で視線を動かしていました」
エレノアの表情が変わった。
「……それが?」
「普通の方は、まず空いている席を探します。しかし、あなたは店内の構造と人の配置を確認していた」
セシルは紅茶を一口飲んだ。
「まるで、事件現場を調べる探偵のように」
エレノアは静かに微笑んだ。
「……あなたも、人間観察が趣味なのかしら?」
「趣味というより、習慣ですね」
「では、あなたは何者?」
セシルは少し考えた。
そして、右手の人差し指を自分のこめかみに当てた。
「私は、ここを使う仕事をしています」
「頭?」
「ええ。小さな灰色の脳細胞です」
エレノアは一瞬、目を細めた。
「……なるほど」
セシルは満足そうに頷いた。
「人間は目で見たものだけを信じがちです。しかし、真実とは必ずしも目に見える場所にあるとは限りません」
「つまり、あなたも探偵?」
「そのように呼ばれることもあります」
セシルは微笑んだ。
「もっとも、私は走り回るのが得意ではありません。靴が汚れますから」
ソフィアは思わず笑った。
「じゃあ、どうやって事件を解決するんですか?」
「考えるのです、マドモアゼル」
セシルは自分のこめかみを軽く叩いた。
「人間の心を理解し、証言の矛盾を整理し、すべての事実を正しい場所へ並べる。それだけで、事件の真相は自然と姿を現します」
エレノアは興味深そうに聞いていた。
「……面白い考え方ね」
「ありがとうございます」
「でも、現場を調べずに推理するのは危険よ。人間の証言には誤りがあるし、物的証拠を無視することもできない」
「もちろんです」
セシルは頷いた。
「証拠を軽視するつもりはありません。ただ、証拠を残すのも、隠すのも、そして嘘をつくのも人間です」
彼女は静かに続けた。
「だからこそ、人間の心を理解することが重要なのですよ」
エレノアは小さく笑った。
「……どうやら、私たちは少し考え方が違うようね」
「違いがあるからこそ、会話は楽しいのです」
セシルは優雅に微笑んだ。
「そして、時には異なる考え方が、同じ真実へたどり着くこともあるでしょう」
その言葉に、エレノアは何も答えなかった。
ただ、彼女の青い瞳には、確かな興味が浮かんでいた。
やがて、セシルは小さな懐中時計を取り出した。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
エレノアは眉を上げた。
「本題?」
「ええ」
セシルは声を落とした。
「あなた方をお待ちしておりました。アシュフォード嬢、ベネット嬢」
ソフィアが驚いた。
「……えっ?」
セシルは革製の鞄から小さな手帳を取り出した。
その表紙には、時計の文字盤と迷宮を組み合わせた紋章が刻まれていた。
エレノアの表情が変わった。
「……CLIB」
セシルは微笑んだ。
「そのとおりです」
彼女は手帳を開き、2人に身分証明を見せた。
『時空迷宮事件調査室』
『欧州事件調査部』
『調査員 セシル・ルノワール』
「改めまして」
セシルは優雅に一礼した。
「CLIB所属の探偵、セシル・ルノワールです」
ソフィアは目を丸くした。
「あなたが、先に来ていた調査員さん!?」
「Oui。お会いできて光栄です」
エレノアは腕を組んだ。
「……最初から名乗ればよかったのでは?」
「それでは面白くありませんから」
セシルは楽しそうに答えた。
「それに、あなた方がどのような方なのか、少し知りたかったのです」
「私たちを試したの?」
「ほんの少しだけ」
エレノアは溜息をついた。
「……性格が悪いわね」
「お褒めいただき光栄です」
「だから、褒めていないわ」
ソフィアは2人を見比べて苦笑した。
「……なんだか、すごい組み合わせになっちゃった」
――同日 午前11時05分
喫茶店『ローズ・アンド・クラウン』
セシルがCLIBの身分証をしまった、その時だった。
店内の奥から小さな騒ぎ声が聞こえてきた。
「だから、僕は取っていないと言っているだろう!」
若い男性の声だった。
エレノアが振り返ると、店の奥で男女が言い争っていた。
男性は20歳前後。茶色のジャケットを着た、少し気弱そうな青年だった。
その向かいには、同じくらいの年齢の女性が立っている。
「でも、昨日までここにあったのよ!」
女性は泣きそうな顔をしていた。
「母からもらった大切な指輪なのに……」
青年は困惑していた。
「僕が盗むわけないだろう?」
「じゃあ、どこへ行ったの?」
「それは……」
青年は言葉に詰まった。
周囲の客たちが興味深そうに見つめている。
ソフィアは心配そうに呟いた。
「……何かあったみたい」
「指輪がなくなったようね」
エレノアは冷静に答えた。
その隣で、セシルが静かに立ち上がった。
「これは、いけませんね」
「どうしたの?」
ソフィアが尋ねた。
セシルは胸元のリボンを整えた。
「若い男女が、あのように悲しそうな顔をしている。実に残念なことです」
そして、優雅に歩き出した。
「少し、お節介を焼いてまいりましょう」
エレノアは眉を上げた。
「……あなた、何をするつもり?」
「もちろん」
セシルは振り返った。
「恋人たちの仲直りのお手伝いです」
エレノアは呆れたように溜息をついた。
「……探偵というより、仲人ね」
「Merci! 最高の褒め言葉です」
セシルは嬉しそうに答えた。
――同日 午前11時15分
喫茶店『ローズ・アンド・クラウン』
「失礼、お2人とも」
セシルは言い争っていた男女に声をかけた。
青年が驚いて振り返る。
「何ですか?」
「突然お声をかけて申し訳ありません。ですが、少しお困りのようでしたので」
セシルは女性に向かって優雅に一礼した。
「美しいマドモアゼル。差し支えなければ、お話を聞かせていただけませんか?」
女性は戸惑いながら頷いた。
「……指輪がなくなったんです」
「なるほど」
「昨日、このお店で彼と会った時には、確かに持っていたんです。でも、今朝になって見つからなくて……」
「それで、彼を疑っているのですね?」
女性は俯いた。
「……はい」
青年は悲しそうな顔をした。
「僕は本当に知らないんです」
セシルは2人を見つめた。
そして、穏やかに微笑んだ。
「では、少しだけ質問をさせてください」
女性は頷いた。
「昨日、指輪はどちらに?」
「小さな箱に入れて、鞄の中にしまっていました」
「箱の色は?」
「赤いベルベットの箱です」
「なるほど。そして、昨日このお店を出た後は?」
「家に帰りました」
「途中で、どこかへ立ち寄りましたか?」
「いいえ」
セシルは青年に視線を向けた。
「あなたは?」
「僕も、彼女を家まで送ってから帰りました」
「ふむ……」
セシルは少し考えた。
その間、エレノアは離れた場所から2人の様子を観察していた。
ソフィアが小声で尋ねる。
「ねえ、エレノア。どう思う?」
「情報が足りないわ」
「セシルさんは分かってるのかな?」
「さあ。でも、何かに気づいたようね」
その時、セシルが女性に尋ねた。
「ところで、昨日このお店で、何か特別な出来事はありませんでしたか?」
女性は少し驚いた。
「特別な出来事?」
「ええ。例えば、普段とは違う会話をしたとか」
女性は青年を見た。
青年は急に顔を赤くした。
「そ、それは……」
セシルは微笑んだ。
「なるほど。ありましたね?」
「……はい」
女性は小さく頷いた。
「彼が……結婚の話をしてくれたんです」
ソフィアが目を輝かせた。
「えっ!」
青年は恥ずかしそうに俯いた。
「まだ正式なプロポーズじゃないんですけど……」
セシルは満足そうに頷いた。
「Magnifique! 素晴らしいことです」
そして、青年に向き直った。
「では、あなたは彼女に何か贈り物をするつもりだったのでは?」
青年の表情が変わった。
「……どうして、それを?」
「あなたの上着の内ポケットが、先ほどから不自然に膨らんでいるからです」
青年は慌てて胸元を押さえた。
セシルは穏やかに続けた。
「もちろん、それだけで指輪を盗んだとは言えません。ですが、あなたは彼女の指輪がなくなったと聞いても、驚くより先に困った顔をした」
「それは……」
「何かを隠しているのでしょう?」
青年はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと内ポケットから小さな箱を取り出した。
赤いベルベットの箱だった。
女性が息を呑んだ。
「それ……!」
「ごめん」
青年は俯いた。
「昨日、君が席を外した時に、こっそり借りたんだ」
「どうして?」
「指輪のサイズを調べたかったんだよ」
青年は恥ずかしそうに続けた。
「正式にプロポーズする時に、ちゃんとした指輪を贈りたくて……」
女性は呆然としていた。
「じゃあ……盗んだんじゃなくて……」
「うん。でも、勝手に持ち出したのは悪かった。本当にごめん」
青年は頭を下げた。
女性はしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑った。
「……馬鹿ね」
「え?」
「そんなこと、言ってくれればよかったのに」
青年も照れくさそうに笑った。
セシルは満足そうに頷いた。
「Voilà! これで一件落着です」
ソフィアは嬉しそうに拍手した。
「すごい! セシルさん!」
「ありがとうございます、マドモアゼル」
セシルは優雅に一礼した。
しかし、エレノアは腕を組んだままだった。
「……1つ質問があるわ」
「何でしょう、アシュフォード嬢?」
「あなた、最初から指輪が彼のポケットにあると分かっていたの?」
「いいえ」
セシルは首を振った。
「最初は、ただの可能性でした」
「では、なぜ結婚の話を聞いたの?」
「彼らの表情です」
セシルは静かに答えた。
「女性は怒っていました。しかし、その怒りには恐怖よりも悲しみが強く表れていた。青年は疑われたことに傷ついていましたが、指輪の話題になるたび、何かを言いたそうにしていた」
エレノアは黙って聞いていた。
「そして、青年の服装です」
セシルは続けた。
「彼は靴を丁寧に磨き、ネクタイも新しいものを着けていました。恋人との大切な約束がある男性によく見られる姿です」
「それだけでは、結婚の話と断定できないわ」
「もちろんです」
セシルは微笑んだ。
「だから質問したのですよ」
エレノアは少し考えた。
そして、小さく頷いた。
「……なるほど」
セシルは満足そうだった。
「人間の心は、時に証拠より雄弁なのです」
「でも、今回は彼が実際に箱を持っていたから確認できた。心理だけで結論を出したわけではないでしょう?」
「そのとおり」
セシルは嬉しそうに笑った。
「あなたは、なかなか鋭い方ですね」
「あなたもね」
2人は互いに微笑んだ。
ソフィアはその様子を見ながら、心の中で思った。
この2人、少し似ているかもしれない。
ただし、性格はまったく違うけれど。
――同日 午後0時10分
喫茶店『ローズ・アンド・クラウン』
昼が近づき、店内は少しずつ賑やかになっていた。
エレノアたちは、再び窓際のテーブルへ戻っていた。
セシルは紅茶のカップを丁寧に置き、砂糖壺の位置を直した。
「さて、改めて今回の任務についてお話ししましょう」
エレノアは頷いた。
「お願いするわ」
セシルは鞄から薄い革製の書類入れを取り出した。
中には、写真、新聞の切り抜き、手書きのメモが収められていた。
「私は、昨日の朝にこの時代へ到着しました」
「昨日?」
ソフィアが尋ねた。
「ええ。CLIB欧州事件調査部から、先行調査を命じられたのです」
セシルは写真を1枚取り出した。
そこには、眼鏡をかけた中年男性が写っていた。
「アーサー・ウィットモア。48歳。歴史研究者です」
エレノアは写真を見つめた。
「今回の調査対象ね」
「そのとおりです」
セシルは頷いた。
「彼は数年前から、歴史上の記録の食い違いについて研究していました」
「記録の食い違い?」
ソフィアが尋ねた。
「ええ。例えば、同じ事件について、異なる結末が記録されている場合です」
エレノアは目を細めた。
「……事故死と殺人事件」
セシルは微笑んだ。
「すでにご存じでしたか」
「ええ。私たちも、2026年で2種類の新聞記事を見つけているわ」
セシルは興味深そうに頷いた。
「では、話が早いですね」
彼女は別の書類を取り出した。
「私が調べたところ、ウィットモア氏は最近、奇妙な脅迫状を受け取っています」
「脅迫状?」
ソフィアが尋ねた。
「はい。差出人は不明。ですが、その内容が実に奇妙でして」
セシルは1枚の紙を取り出した。
そこには、短い文章が書かれていた。
『11月7日、真実は死ぬ。』
『だが、死者は再び歩き始める。』
エレノアはその文章を見つめた。
そして、ゆっくりと口元を緩めた。
「……なるほど」
ソフィアは不安そうに尋ねた。
「エレノア……これって……」
「ええ」
エレノアは頷いた。
「私たちが受け取った手紙と、よく似ているわ」
セシルが顔を上げた。
「……手紙?」
エレノアは鞄から、2026年に受け取った便箋の複写を取り出した。
『1986年11月7日、私は殺される。』
『だが、犯人はまだ生まれていない。』
セシルはその文章をじっと見つめた。
「……Mon Dieu」
「どう思う?」
エレノアが尋ねた。
セシルは少し考えた。
「非常に興味深いですね」
「それだけ?」
「いいえ」
セシルは静かに続けた。
「この2つの手紙には、共通する特徴があります」
「筆跡?」
「それもあります」
セシルは2枚の紙を並べた。
「ですが、私が注目したのは文章の内容です」
エレノアは眉を上げた。
「内容?」
「ええ。どちらも、まだ起きていない出来事を、すでに確定した事実のように書いています」
ソフィアが頷いた。
「確かに……」
「そして、どちらも受取人に恐怖を与えることを目的としているように見える」
セシルは静かに言った。
「しかし、本当に脅迫することが目的なのでしょうか?」
エレノアは少し考えた。
「……別の目的があると?」
「その可能性があります」
セシルは頷いた。
「例えば、誰かに特定の行動を取らせるための警告」
「あるいは、誰かを事件現場へ誘導するための招待状」
エレノアが続けた。
セシルは満足そうに微笑んだ。
「Très bien。まさに、そのとおりです」
ソフィアは2人を見比べた。
「……やっぱり、探偵同士ってすごいね」
エレノアは腕を組んだ。
「まだ推測の段階よ」
「もちろんです」
セシルは頷いた。
「だからこそ、本人に確認する必要があります」
彼女は懐中時計を取り出した。
「実は、本日の午後2時にウィットモア氏と会う約束をしています」
「今日?」
ソフィアが驚いた。
「ええ。私は現地の若い研究者として、彼に接触しました」
セシルは微笑んだ。
「彼は私を、ベルギーから来た歴史研究の協力者だと思っています」
エレノアは頷いた。
「なるほど。CLIBの身分を隠しているのね」
「そのとおりです」
セシルは静かに続けた。
「今回の任務では、時代への干渉を最小限に抑える必要があります」
「ええ。重大な歴史改変は禁止されている」
エレノアは答えた。
「そして、未来の情報だけで犯人を特定してはいけない」
「よくご存じですね」
「出発前に説明されたもの」
セシルは満足そうに頷いた。
「では、問題ありません」
ソフィアが尋ねた。
「でも、ウィットモアさんが本当に明日死ぬなら、助けなくていいんですか?」
その言葉に、セシルの表情が少し真剣になった。
「……難しい問題ですね」
彼女は静かに答えた。
「CLIBの目的は、歴史を好き勝手に書き換えることではありません」
「でも……」
「もちろん、目の前で人が危険にさらされているなら、救助することはできます」
セシルは続けた。
「ただし、私たちは未来の記録を知っているからという理由だけで、過去の人物を拘束したり、事件を未然に消し去ったりしてはいけないのです」
エレノアは頷いた。
「つまり、現地で得られた証拠をもとに判断する必要があるということね」
「そのとおりです」
セシルは微笑んだ。
「私たちは探偵です。歴史の支配者ではありませんから」
ソフィアは少し考えた。
そして、静かに頷いた。
「……分かりました」
エレノアは時計を確認した。
午後0時25分。
「それで、セシル」
「何でしょう?」
「その訪問には、私たちも同行できるの?」
「もちろんです」
セシルは即答した。
「最初から、その予定で調整してあります」
ソフィアが嬉しそうに顔を上げた。
「本当ですか?」
「ええ。ウィットモア氏には、私の研究仲間を2人連れていくと伝えてあります」
エレノアは小さく笑った。
「……準備がいいのね」
「当然です」
セシルは胸を張った。
「優秀な探偵は、常に数手先を考えて行動するものですから」
「それは同感ね」
エレノアは頷いた。
セシルは右手を差し出した。
「では、改めてよろしくお願いいたします。アシュフォード嬢」
エレノアはその手を握った。
「ええ。よろしく、ルノワール嬢」
ソフィアは2人を見比べた。
「……なんだか、すごい組み合わせになっちゃった」
セシルは楽しそうに笑った。
「心配はいりませんよ、マドモアゼル」
「どうしてですか?」
「優秀な頭脳が2つあれば、どんな謎も解けるはずです」
エレノアは即座に答えた。
「優秀な頭脳が2つあると、意見が対立する可能性も高くなるわ」
「それもまた、楽しみの1つでしょう」
セシルは微笑んだ。
ソフィアは小さく溜息をついた。
「……私、苦労しそう」
しかし、その表情はどこか楽しそうだった。
――同日 午後1時20分
ロンドン・ベーカー街付近
3人は喫茶店を出て、ウィットモアの自宅へ向かって歩いていた。
空は相変わらず曇っていたが、雨は降っていなかった。
セシルは小さな革製の鞄を持ち、慎重に歩道を進んでいた。
その足取りは、どこか独特だった。
「……セシル」
エレノアが声をかけた。
「何でしょう?」
「さっきから、水溜まりを避けて歩いているわね」
「当然です」
セシルは真顔で答えた。
「靴が汚れてしまいますから」
「多少の泥くらい、後で落とせるでしょう?」
「Non! それではいけません」
セシルは立ち止まった。
「身だしなみとは、常に整っていることが重要なのです。後で直せばよいという考え方は、乱雑さへの第一歩ですよ」
エレノアは呆れたように溜息をついた。
「……面倒な性格ね」
「よく言われます」
セシルは平然と答えた。
ソフィアは笑いを堪えていた。
「でも、セシルさんって本当に綺麗にしてますよね」
「ありがとうございます、マドモアゼル」
セシルは嬉しそうに微笑んだ。
「あなたも、とても素敵な装いですよ」
「えへへ……ありがとうございます」
エレノアは2人を見比べた。
「……私には何も言わないの?」
セシルは少し考えた。
「アシュフォード嬢」
「何?」
「あなたの襟元が、少し曲がっています」
「……」
エレノアは無言で襟を直した。
ソフィアはとうとう吹き出した。
「ふふっ……!」
セシルは満足そうに頷いた。
「Voilà。これで完璧です」
エレノアは深い溜息をついた。
「……本当に面倒な人ね」
しかし、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
しばらく歩いたところで、ソフィアが尋ねた。
「ねえ、セシルさん」
「何でしょう?」
「CLIBには、ほかにも探偵がいるんですか?」
セシルは頷いた。
「もちろんです」
「どんな人たちが?」
「それはもう、実に個性的な方々ばかりですよ」
セシルは楽しそうに答えた。
「現場に残された小さな痕跡から犯人を特定する方。人間の証言を何時間も聞き続ける方。犯罪者の心理を研究する方。そして、誰もが見落とすような日常の違和感を見抜く方もいます」
ソフィアは目を輝かせた。
「すごい……!」
「ですが」
セシルは少し苦笑した。
「皆さん、少々癖が強いのです」
エレノアは横目で彼女を見た。
「……あなたがそれを言うの?」
「何か問題でも?」
「いいえ。何でもないわ」
ソフィアは思わず笑った。
セシルは続けた。
「CLIBには、異なる時代や世界で起きた事件を調査するため、さまざまな国籍と専門分野の探偵が集められています」
「じゃあ、また別の探偵さんと一緒に事件を調べることもあるんですね」
「ええ」
セシルは微笑んだ。
「きっと、これから何度もあるでしょう」
エレノアは興味深そうに呟いた。
「……退屈しなさそうね」
「それは保証いたします」
セシルは満足そうに答えた。
やがて、3人は古い煉瓦造りの建物が並ぶ路地へ入った。
エレノアは周囲を見渡した。
見覚えのある街並み。
そして、路地の突き当たりにある3階建ての建物。
黒い鉄柵。重厚な木製の扉。
それは、2026年にCLIBの本部が存在していた場所だった。
「……ここね」
エレノアが呟いた。
セシルは頷いた。
「ええ。アーサー・ウィットモア氏の自宅です」
ソフィアは不安そうに建物を見上げた。
「……本当に同じ建物だ」
エレノアは無言で扉を見つめていた。
40年後、この建物は時空迷宮事件調査室となっている。
しかし、現在は歴史研究者の自宅。
そして明日、この場所で1人の男性が死亡する。
その事実を知っているのは、3人のCLIB調査員だけだった。
セシルは2人の様子に気づいた。
「どうかなさいましたか?」
「……いいえ」
エレノアは首を振った。
「少し、考え事をしていただけよ」
セシルは静かに微笑んだ。
「考えることは大切です。しかし、時には行動も必要ですよ」
そう言うと、彼女は扉の前へ進んだ。
そして、呼び鈴を押した。
建物の内部から、古い鐘の音が響いた。
数秒後。
扉の向こうから、ゆっくりと足音が近づいてきた。
エレノアは息を潜めた。
ソフィアは緊張した表情で扉を見つめた。
セシルは相変わらず、優雅な姿勢を崩さなかった。
やがて、鍵の外れる音がした。
扉が開く。
そこに立っていたのは、眼鏡をかけた中年の男性だった。
年齢は40代後半。少し痩せた顔立ちに、疲れたような目元。
男性は3人を見つめた。
「……どちら様でしょうか?」
セシルが一歩前へ出た。
「Bonjour、ウィットモア様」
彼女は優雅に一礼した。
「本日お約束しておりました、セシル・ルノワールです」
男性は少し驚いたように目を見開いた。
「ああ……あなたが、ルノワールさんですか」
「ええ。こちらのお2人は、私の研究仲間です」
男性はエレノアとソフィアを見た。
その瞬間だった。
彼の表情が変わった。
驚愕。
そして、恐怖。
まるで、そこにいるはずのない人物を見たかのように。
「……そんな……」
男性は小さく呟いた。
エレノアは、その変化を見逃さなかった。
「……どうかなさいましたか?」
男性は震える手で、エレノアを指さした。
「君は……」
エレノアは眉をひそめた。
「私をご存じなのですか?」
男性は答えなかった。
ただ、青ざめた顔で彼女を見つめ続けていた。
そして、ようやく絞り出すように言った。
「……どうして、君がここにいる?」
ソフィアは驚いてエレノアを見た。
エレノア自身も、思わず言葉を失った。
初めて会うはずの男性。
40年前のロンドン。
そして、明日死亡することになっている人物。
その男性が、なぜ自分を知っているのか。
エレノアの胸に、新たな疑問が生まれた。
ウィットモアは震える声で続けた。
「……あり得ない」
そして、信じられない言葉を口にした。
「君は……まだ生まれていないはずだ」
沈黙が落ちた。
エレノアは、ゆっくりと目を細めた。
その隣で、セシルが静かに呟いた。
「……Mon Dieu」
彼女の表情から、先ほどまでの柔らかな笑みが消えていた。
「どうやら、私たちは……」
セシルはエレノアを見つめた。
「実に奇妙な事件に足を踏み入れてしまったようですね」
エレノアは小さく微笑んだ。
「……ええ」
その青い瞳には、確かな興奮が宿っていた。
「どうやら、退屈する暇はなさそうね」
1986年11月6日。
アーサー・ウィットモアが死亡する、前日。
3人の少女探偵は、ついに事件の中心人物と対面した。
しかし、彼女たちはまだ知らない。
この男が抱えている秘密が、単なる殺人事件の謎を超え、異なる時代と世界を結びつける巨大な迷宮の入口となることを。
そして、翌日の夜。
この建物で、誰も予想しなかった事件が起きることを。
――第2話 完




