第4話 宰相
ファラオの寝所。
重厚な石壁に囲まれた室内に、揺らめく松明の炎がほの暗い光を投げかけていた。
まだ麻痺の残る身体は重く、激しい頭痛が一真の意識を灼く。
(くそっ……前の男がどれほど毒を盛られていたのか分からんが、身体がまったく言うことをきかない……)
ベッドの上で浅い息を吐く一真の額に、ひんやりとした濡れタオルがそっと重ねられた。
「……無理をしては ダメです、ファラオ」
傍らに付き添う王妃アンが、痛々しそうな眼差しで一真の顔を覗き込んでいた。
その瞳には深い憂いと、それ以上の深い愛おしさが宿っている。
「まだお身体は毒の残滓に蝕まれています。どうか、今だけは休んでください……」
アンの温かい手が、一真の震える手を優しく包み込む。
一真はゆっくりと呼吸を整え、小さく頷いた。
「すまない……心配をかけたな、アン。
だが、もう大丈夫だ。俺は……絶対に倒れたりしない」
(市民課の窓口でも、市民の安全を守るのが俺の仕事だった……。
ましてや今は、この国のトップで、この子の夫なんだ。弱音なんて吐いていられるか……)
二人が静かに視線を交わしていたその時、重厚な扉が軋んだ音を立てて開いた。
「おお、これはこれは。
息を吹き返されたどころか、王妃様と睦まじく過ごされておられるとは」
足音もなく部屋へ入ってきたのは、老宰相アアイであった。
皺の深い顔に張り付いたような笑みを浮かべ、恭しく頭を下げる。
「ファラオ、お身体の具合はいかがでございますか。
刺客の襲来と聞き、このアアイ、肝を冷やしましたぞ」
アアイの言葉とは裏腹に、その鋭い眼光は一真の様子を品定めするように観察していた。
(この老いぼれ……言葉の端々に探りを入れてきやがる。
俺が本当に復活したのか、それとも死に体なのかを見極めに来たのか……)
一真はアンの手を優しく握り返しながら、ベッドの上で身体を起こした。
身体中に走る激痛を押し殺し、鋭い眼光で老宰相を見据える。
「……心配をかけたな、アアイ。
見ての通りだ。冥府の神も、俺を受け取るのを拒んだらしい」
アアイの眉が、ピクリと不自然に跳ね上がった。




