9 怪しい男
中山道先生宅へGO!
私たちは、中山親子を乗せて、閑静な住宅街へと車を走らせた。中山道さんの自宅は、小高い丘にある、T県有数の高級住宅街にあった。たった一本の道だけが、他の地区へと通じている陸の孤島のような場所だった。
家の立地をより確認するために、京子と係長と一緒に家の周辺を歩いて回った。そこで、思いもかけない人物に遭遇した。
「おう、あいつ、何やってんだ?」
係長が、電柱の陰から中山道さんの自宅の方を見ている怪しい男を発見した。
「えー、怪しいー」
その男はキョロキョロと辺りを見回すような感じで、電柱の陰にいた。
「係長、あの男、春日井さんでは?」
「おう、だよな、行くぞ」
私たちは小走りでその男に近寄った。
「うわっ、びっくりした」
その男は私たちの足音に気づいて瞬時に振り返って驚いた。春日井さんだった。
「県警の村田です。春日井さん。どうしてこんな所に?」
「あ、あの、仕事で……」
「仕事?」
「は、はあ、仕事です。営業の仕事……」
「でもどうして、こんな電柱の陰に隠れるようなことをしてるんですかね?」
「あ、それは、ですね、昔から刑事ドラマの見過ぎで、こういうのやってみたかったんですよ」
「そうですか、刑事ドラマの見過ぎで。ふーん、あの家、じっと見てましたよね?」
「あ、いや、じっと見てたわけではないですが、その、実は、私、あの家の方のファンなものですから」
「ファン?」
「ええ、あの家、有名な俳句の先生の家なんです、それで……」
「俳句の先生ですか。何という先生ですか?」
「え、あ、確か、なかせんどうさんです、はい」
春日井さんはカバンから展覧会のチラシを取り出して言った。
「なかせんどうさん?」
「はい、そうです。ほら、これ。私、ファンなので、先生のお宅に営業で伺えないかとここから見てたんです」
春日井さんは、係長の質問に対してずっとしどろもどろな感じだった。
「営業ですか? どのような商品を?」
「あ、はい、弊社の新製品の電気シェーバーをですね……これです」
「電気シェーバーですか。どれどれ。ほう、男性向けの商品ですね……。それと俳句と何か関係が?」
「いえ、弊社の商品と俳句とは何の関係もありません。私が単になかせんどう先生のファンなだけです」
春日井さんは営業マンらしい説得力のある口調で受け答えしていたが、結構苦しそうな無理矢理な内容の返答だった。
「あ、私、そろそろ会社に戻らないといけませんので、失礼してよろしいでしょうか」
見計らったようなこの帰社発言を奇妙に感じた私たちは、お互いに顔を見合わせて躊躇した。
「……ええ、どうぞ」
少し間があってから係長がそう言った。春日井さんはぎこちなく歩き去っていった。
「え、係長、帰してもいいのですか!?」
「そうよー」
私も京子も驚いた。
「おう、勤務先も自宅住所もわかってるんだ。いいだろう」
「それにしても、変ですよね。係長」
「おう、そうだな。なかせんどう先生だってよ。ファンなら間違えるはずねえだろが」
「それにー、電気シェーバー? 何でー?」
私たち三人は中山道さんの自宅へ戻り、そのことを説明した。
「この男なんですが」
「……いえ、私はこの方のことは存じ上げませんわ」
中山さんは、差し出された春日井さんの写真を見て、首を傾げながら知らない人物だと答えた。
「そうですか」
「私は、ファンの方に自宅の住所を教えることなんてありませんし」
「それはそうよねー、おばあちゃーん」
「村田さん、僕が春日井さんから依頼を受けたことと何か関係があるんじゃ……」
中山木さんは前腕筋を強調しながら言った。
「それは、今の段階では否定はできないでしょうね」
「僕と母が親子だということを、春日井さんは知っているのかな……」
「それも何ともいえませんね」
中山親子は心配そうにしていた。所轄署の刑事による巡回強化を約束し、私たちは県警への帰路についた。
「おう、どう思う、お前ら」
「怪しいですよー、春日井さんー、絶対に "クロ" よー」
「春日井さんといい、岡村正義さんといい、中山さん親子といい、何か関連があるとしか……」
「おう、だよな。みんな怪しいと思えるな。春日井のことは、嶋村たちに任せておこう。で、俺たちは岡村正義を調べてみるか」
「はい、係長」
この日は以上で仕事を終え、翌日のためにゆっくりと休んだ。
なんか、みんなどこかで繋がってるんじゃないかと思えて、怪しいですね。




