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名探偵・ザ・グレート  作者: 真山砂糖
8/19

8 来訪

また数日後……。

 数日後、嶋村先輩が春日井さんの勤務先で件のカバンについての証言を得た。春日井さんが例のカバンを数年前から使用していることが判明したということだった。カバンについては、春日井さんに怪しい点は全くないと思われた。

 しかしその矢先、驚くべきことが起こった。春日井さんと岡村正義さんが路上で言い争っているのを、高木先輩が目撃したのだ。高木先輩はすぐに仲裁に入り、二人から事情を聞いたという。二人は道を歩いていて、肩がぶつかったことが発端になり、殴り合いの一歩手前になるまでの言い争いになったとのことだった。


「おう、それで、二人を帰したんだな」

「はい、事件性はなさそうでしたので」

 係長の質問にテンション低めで高木先輩が返した。

「おう、しかしよう、偶然で済ませられるのか? 大都会のT県に一体どれだけ人がいるんだ。オレオレ詐欺の受け子の容疑がかかった人間と、そいつに仕事の依頼をされた探偵を転ばせた人間が、道で肩がぶつかるって、宝くじに当たるくらいのあり得ない確率じゃねえか?」

「そうねー、係長にー、恋人が見つかるくらいー、あり得ない確率ねー」

「……」

 京子のKY発言で、係長は真顔で無言になった。その場で全員無言になった。

「……えっと、それでは、村田係長、岡村も監視対象にしましょう」

 気まずくなった場を山崎課長が優しい口調でなんとか和らげた。でも、係長は悲痛な顔のままだった。


 しばらくの間、係長は深く傷ついたようで、()()んでいた。京子以外は皆、係長に気を使っていて、声もかけられずにいた。ここで驚くべきことが起こった。刑事課のこの気まずい場をぶっ壊すくらいの大きな声が突然響くなんて全く予想できなかった。あの男がやって来たのだ。

「皆さん! こんにちは!」

 中山木さんだった。京子並みのKYな質と音量の挨拶をして、Tシャツと短パン姿で筋肉ポーズを取っていた。

「あー、筋肉探偵だー」

「こんにちは! 村田さん!」

「……あ、中山木さん、どうしてここに?」

 中山木さんのKYな圧に押されて、係長は少し元気を取り戻したように見えた。

「相談したいことがありまして、やって来ました」

「相談ですか……それでしたら、所轄署のほうで……」

 係長は筋肉ポーズを取る探偵にダルそうに告げた。

「僕は村田さんとこちらの美しい女性刑事たちに相談したいのです」

「ありがとー、でもー、ウザいー」

「ちょっと、京子」

 京子のKY発言を全くスルーして、中山木さんは筋肉ポーズを決めていた。

「あの、申し訳ないですが、相談事でしたら基本的に所轄署で対応しておりますので……」

 山崎課長が申し訳なさそうに言っている途中で、中山木さんの背後から、ひょっこりと小さな顔が現れた。

「お忙しいところ、失礼いたします。息子がどうしても県警にというものですから伺ったのですが、別の警察署へ行くほうがいいのですね。お邪魔して申し訳ありませんでした」

 優しく静かな口調で深々と頭を下げたのは、何と、中山道(なかやま みち)さんだった。

「ぁ、ぁ、ぁ、中山道先生……」

 山崎課長は固まっていた。

「あー、おばあちゃーん。久しぶりー」

 京子の特徴ある言い回しで、すぐに中山道さんは私たちのことを思い出したようだった。

「あらまあ、あの時の」

「あれ、母さん、知ってるんですか?」

「ええ、私の展覧会に来てくださった方々よ」

「そういえば、母さんの展覧会に行くって言ってたな……」

「あ、あの時は、どうも」

 係長が後頭部をさすりながらペコリと頭を下げた。

「あらあら、皆さん警察の方でしたか、おほほほ」

 中山道さんはとても筋肉探偵と親子だとは思えないくらいに上品に笑った。

「あ、あ、あ、あの私、刑事課で課長をしております山崎正一と申します。中山先生の大ファンでして、御著書は全て所有しております」

 山崎課長は興奮気味に名刺を渡しながら言った。 

「我々がお力になりますので、どうぞこちらへ、どうぞ、どうぞ」

 課長は先ほどとは打って変わって、すごい低姿勢で中山さん親子を応接室へと案内した。


 私と京子と係長と課長の四人で応対することになった。中山道さんは、身の回りで起きていることを話した。

「ここ数ヶ月の間なのですが、自宅が誰かに見張られている気がするのです。それと、海外から携帯に電話がかかってきて、相手が私の個人情報を知っていたんです」

「電話会社からの郵便が盗まれたりしていませんか?」

「ええ、郵便物が盗まれたんです。電話関係だけではなくて、証券会社の郵便も」

 係長の質問に中山道さんは落ち着いて答えた。毎月届く電話会社の請求書が一度だけ来なかったそうで、それと、証券会社から届くはずの郵便も届かなかったので、郵便局と証券会社に連絡したら、盗難の可能性があるということで、警察に相談に来ることに決めたとのことだった。

「携帯電話の番号は盗まれた郵便物から漏れたんでしょう。証券会社からの郵便となると、財産をどれだけお持ちなのかがバレてますね」

 係長の返答に、中山道さんの顔が少し強張った。

「見張られている気がするとのことですが、具体的には、怪しい人物を目撃したとか、でしょうか?」

「いえ、はっきりと見たわけではないのですが……」

「……そうですか。この場合、郵便が盗難にあって、怪しい電話がかかってきていますし、何者かの気配を感じて当然でしょう」

「村田さん、母の警護とか、してもらえるんでしょうか?」

「中山木さん、残念ですが、現段階では、警護するというのは難しいですね」

 係長は課長の手前、申し訳なさそうな感じで言った。

「中山先生、ご安心を」

 山崎課長が残念そうにしている中山道さんに言った。

「村田係長、中山先生の自宅周辺の巡回を所轄署に頼んでおきます。今から、先生のご自宅へ行って、お力になってあげて下さい」

「はい!」

 私たちの力強い返事に、中山親子の表情が少し緩んだ。


春日井四郎と岡村正義が、路上で言い争いですか。

なんか、裏があるんでしょうかね?

それと、中山道先生がオレオレ詐欺か何かの悪党に狙われてるのでしょうかね?

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