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名探偵・ザ・グレート  作者: 真山砂糖
3/5

3 変な探偵

事務所へGO!

 私たち三人は中山木さんを車に乗せて、彼の事務所へと向かった。何と、驚くべきことに、着いた先は、あの "グレート探偵事務所" だったのだ。どこかで聞いたことのある名前の探偵事務所だなと思ってはいたのだが、わずか数時間前の記憶がまだ定着していないようだったので、油断していた。私は嬉しいのか、悲しいのか、それとももっと別の感情なのか、どう表現していいのかわからない難しい気持ちになった。変質者っぽい中山木ニック探偵が、喫茶店の上にある探偵事務所の探偵だということが残念に思えたし、しかし同時に、この夢のような探偵事務所の中に入ることができるというワクワク感が襲ってきたからだ。

「へー、一階が喫茶店かー、お腹すいたらー、便利かもねー。でもさー、何で係長まで一緒について来たんですかー?」

 京子は相変わらずギャルのノリだった。私は、その横で何も言い返さない係長に目がいった。係長は何かに圧倒されたかのように、その場に膝をついていた。

「……まさか……こんな理想的な探偵事務所があるなんて……」

 係長は私と同じく、感動していたのだ。

「これだ、これだよ……これぞ昭和だ! 近くにポルノ映画館でもあれば、もっと昭和だ! いや、ストリップ劇場があれば完璧だ! それだけじゃない、風俗店も――」

「あのー、セクハラ相談窓口に通報しますねー」

 我を忘れて興奮する係長のセリフを遮って、京子は電話をかけようとしてスマホを取り出した。このおバカなやり取りを見て唖然としていた中山木さんに、私は申し訳ない気持ちになった。

「いや、何をやってるんですか? 早く来てくださいよ」

 若干怒り気味の中山木さんはそそくさと階段を上がって行った。


 私たちは二階の探偵事務所に入った。小中学校の教室くらいの広さの部屋で、ごく普通のオフィスという感じだった。置いてあるベンチプレスやダンベルなどの筋トレ器具を除けば。私のワクワク感はどこへ行ったのやら、少し、拍子抜けした。

「おう、なんか、単なるトレーニング・ジムじゃねえか?」

「失礼ですね」

 係長に対して中山木さんはムッとした。

「あ、こりゃ、失敬」

「事務所は、お一人で運営されてるんでしょうか?」

「はい、完全に僕一人で」

「孤独ー」

 私たちは事務所の中を見回してから、真ん中に置かれてあるソファーに腰掛けた。中山木さんは机の引き出しをガサゴソとしていた。

「これ、保険証です。これで身分証明になりますか?」

「保険証は、顔写真がないので、これではちょっと……」

 私は中山木さんから保険証を受け取って、申し訳なさそうに言った。

「パスポートはありませんか? ほら、アメリカで修行してたんでしょう?」

「あ、そうか、パスポートか。でも家に置いてあるかも、えーと、あった、あったあった」

 中山木さんは上腕二頭筋を見せつけながら日本国のパスポートを係長に渡した。

「どれどれ」

 私たちはパスポートで顔と名前を確認した。

「えっと、お名前は、"中山 季二句(きにく)" ……さん? 36歳。え、あれ? 中山木ニックさんでは……」

 私は中山木さんを見た。

「"中山 季二句(きにく)" が本名です。アメリカっぽい名前にするために、名刺にはニックネームを記載してあるんです。ニックゆえに」

 彼はポーズを決めながら自信満々に寒いギャグをとばした。

「はぁ、なんか面倒くせえな」

 思わず係長から本音が漏れた。中山木さんは、悠々と筋肉ポーズを取っていた。


 一応、近所の自宅アパートにも行って、役所からの郵便物や、電気水道料金の通知書などで中山木さん本人だと断定できた。

「ええと、そうだ、中山木さんが受けた仕事の依頼についてですが……」

「それについては、お答えできません! 守秘義務がありますから」

 中山木さんは、胸筋を目立たせながら胸を張って堂々と答えた。

「いや、しかし――」

「でしたらまた、こちらに何か聞きに来ることになるかもしれませんね」

 係長が私を諌めるように間に入ってきた。

「ええ、もちろん、僕はかまいません」

 背筋を見せつけながら中山木さんは答えた。

「なんかー、筋肉はカッコいいんだけどー、キモいー」

「ちょっと、京子っ」

 中山木さんは気にせずに決めポーズを取っていた。

「ところで、季二句(きにく)って、変わった名前ですよね?」

「はい、よく言われます。俳人の母が付けてくれた名前です。季語の季に、句が二つ、っていう意味で」

「お母様、俳人なんですか」

「はい」

「えー、()()なのー、()()のやり過ぎとかでー?」

 係長と中山木さんの会話に、京子がおバカな返しをしてしまった。

「ちょっと京子、()()って意味が違う、字が違う」

 私は小声で注意した。中山木さんは意味を理解してなかったようで助かった。

「俳人ってすごいですね」

「僕の母はめっちゃ有名人なんです。来月まで展覧会をしてるんですよ」

「え、それって、芸術文化センターでですか?」

「そうです。T県立芸術文化センターで」

「おお、それはすごい。俳人の中山……みちさんだったかな、の展覧会ですよね。いや、うちの上司が俳句好きで、その展覧会に行ったんですよ」

「うお、それはうれしいです。そうです、中山道(なかせんどう)って書いて、 "なかやまみち" です、僕の母は。これ、展覧会のチラシです、もしよろしければ」

 係長と中山木さんは、展覧会のチラシを見ながらしばらく会話が弾んでいた。

「それじゃ、我々はそろそろ失礼します」

「はい。もし、警察の手に余る事件があるようでしたら、その時はぜひ私にご依頼を。名探偵・ザ・グレート!」

 中山木さんは戦隊ヒーローのように、ポーズを決めた。

「……」

 私たちはどう反応していいのかわからず、無言で探偵事務所を後にした。


変態なのか変人なのか。

どっちにしろ、変な探偵ですね。

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