18 仕上げ
みんな強いですね。特に、中山木探偵と磯田京子。
「クソぉぉぉ! 筋肉バカがぁぁぁ!」
市川は頭が沸騰しそうなくらい怒り狂って、地団駄を踏んでいた。
「じゃ、嶋村、高木。市川を連行するぞ」
係長が命令を出した。しかし、中山木さんが両先輩を通させまいとスッと手を伸ばした。
「村田さん、僕がこの男を自白させて見せましょう」
中山木さんは自分の胸をドンと叩きながら言った。
「あ、いや、だからそんな必要ないって。後は警察が――」
「いえ、僕がやります」
中山木さんは困惑した係長を遮って力強く言った。
「……え?」
私たちの誰もが、嫌な予感しか感じていなかったはずだ。市川も含めて。その市川は慄きながらあたふたしているように見えた。例えるなら、猫に睨まれた鼠のように。しかし、窮鼠猫を噛むことが起こった。市川が中山木さんに殴りかかったのだ。
「クソが!」
「ふん!」
中山木さんは軽々とラリアートをかました。市川は吹っ飛ばされて、テーブルに激突してソファーの上に倒れこんだ。アメリカのプロレスラーみたいな力技だった。
「ぎゃーーー! 痛え! ピアスが!」
市川はドクドク流れている血を止めようと必死に鼻を両手で押さえていた。
「痛え! 痛え! あんたら、刑事だろ! 助けてくれ!」
市川は藁にも縋るように私たちに助けを求めた。私は助けたかったが、それが刑事の務めだと理解していたが、悪党がお仕置きされるのをもっと見ていたいとの欲望を押さえられずにいた。もっとも、助けたくとも、筋肉探偵を止めることなど不可能だった。
「オレオレ詐欺のような悪どいことをやらかした犯罪者を、私は許しません!」
「うぉぉ、待て待て、俺はやってない!」
市川は必死に否定した。中山木は市川の胸ぐらをつかみ、隣のテーブルに放り投げた。
「あなたが、オレオレ詐欺グループのリーダーですね?」
「いぃぃぃ! 違う!」
中山木は市川の右腕をつかみ、まるでバットをスイングするような感じで、市川を壁に叩きつけた。市川はお笑い番組のコントのようにオーバーに床に倒れこんだ。
「将来を期待されている陸上選手を悪の道に引きずりこんだあなたを、私は許しません!」
中山木は市川をつかんで振り回して投げた。市川はもうすでに満身創痍で、床に体を強打した。そして中山木は床に倒れている市川に四の字固めをかけた。
「あなたが、オレオレ詐欺グループのリーダーですね?」
「いいいいい痛ぇぇぇぇ! 違う、違う! ギブ! ギブ! グプッ……」
「まだ認めませんか」
中山木は市川を引きずり起こして、キャメルクラッチをかけた。
「あなたが、オレオレ詐欺グループのリーダーですね?」
「……ぃひ……」
まるで半殺し状態だった。
「おいおい、もう漫画の世界だな、こりゃ」
係長は苦笑していた。私はいつしか手に汗握って心のなかで中山木さんを応援していた。
「さあ、認めなさい」
「……ぁぃ……」
「声が小さい!」
「いやいや、キャメルクラッチの状態だから、声が出ないんじゃ……」
係長が言うと、中山木は市川を投げ捨ててから、チョークスリーパーをかけた。
「あなたが、オレオレ詐欺グループのリーダーですね?」
「……ぁぃ……」
「声が小さい!」
「……あい……」
「罪を認めるのですね?」
「……あい……」
市川は苦しそうにそう言うと、口から泡を吐きながらガクッと意識を失った。
「どうです、刑事さん。やりましたよ。グレート!!!」
市川を床に投げ捨て、中山木さんは自慢げに得意の筋肉ポーズを取った。
「……あはは……腕力で解決しちまいやがった」
「網走でもー、似たようなことがー、あったしー、いいんじゃないー」
京子と同じく、私も係長も網走での事件を思い出していた。市川の自白を聞いた上川苺さんは、しゃがみ込んで両手で顔を覆いながら、安堵のため息を漏らしていた。取り憑いていた悪霊から解放されたような、肩の荷が下りたような、そんな感じだった。
「……係長、一時はどうなるかと思いましたが、結果オーライですね……」
私は顔が若干引きつっていたはずだ。
「でも、どう報告するんですか、これ」
嶋村先輩がこの現場の惨状を見回して言った。
「おう、何とかなるだろ、録画もしてあるしな」
係長はそう言いながらもとても困った顔をしていた。もちろん、中山木さんを除いた私たちも。
しばらくして、パトカーが到着し、現場検証が行われた。
この筋肉探偵、筋肉で自白させてしまいましたね。




