17 戦闘開始
さてさて、何が始まるんだ。
一触即発の状況だった。どちらが先に動くか、それが私たち警察にとってすごく重要なことだった。重苦しい沈黙が流れ、部屋中に緊張が走っていた。10秒が1分に感じられた。
「ぶあっくしょい!」
突然、係長が大きなくしゃみをした。これで戦いの火蓋が切られた。最初に手を出したのは、敵だった。東南アジア風の男が中山木さんに殴りかかったのだ。
「ふん!」
中山木さんは相手のパンチをやすやすと手のひらで受け止め、特大のラリアートを食らわせた。男は約5メートル後ろまで吹っ飛ばされ、勢いでガラスのテーブルが壊れた。
「え? 強ええ」
係長はマジで驚いていた。
「おい、一斉にかかれ!」
市川が命令した。男たちには意味が伝わっていなかったが、状況を理解したのか、残りの五人が同時に私たちに襲いかかってきた。
「おりゃー!」
中山木さんがまたもやラリアートをかました。男は約7メートル後ろまで吹っ飛ばされ、酒棚に激突し、高級そうな酒瓶が落ちてたくさん割れまくった。京子は敵陣に突っ込んでいき、得意の正拳突きを男の腹に食らわせ、相手の懐に入って、背負投で床に叩きつけた。嶋村先輩と高木先輩は、相手のパンチを受け流してから殴るという正攻法で二人を倒した。京子は残る一人の顔面に回し蹴りを食らわせて、一撃で沈めた。わずか1分ほどで、六人の男たち全員をぶちのめした。
「……噂では聞いてたが、磯田、お前すごいな……」
「だからー、私を怒らせたらー、だめですよー、先輩ー」
嶋村先輩に言われて、派手なアクションを演じたばかりの京子は普段のノリで言い返した。両先輩はちょっとビビってるみたいだった。
「おう、東南アジア系だな、こいつら。思ってたよりも規模がデカい犯罪組織かもな」
係長はテーブルに肘をつきながら言った。
「クソポリ公が! ドンペリ10本も割りやがって!」
「やったの、この探偵」
「警察がこんなことしていいのかよ!」
「先に手を出したのは、お前らのほうだ」
怒る市川に係長は呑気に言った。
「そんなもん、証拠なんかないだろ!」
「録画してる」
怒る市川に係長はスマホを向けた。
「クソがぁぁぁ!」
市川は劇画のような顔で怒り叫んだ。
「おう、香崎、録画、代わってくれ」
係長は私にスマホを預けた。
「さてと、上川苺さん、君はこいつらに強制されて、オレオレ詐欺の受け子をさせられた、そうだね?」
「……」
「苺、正直に話して」
岡村が言いづらそうにしている上川さんを諭すように言った。
「……はい」
上川さんは一呼吸置いてから静かに返事をした。
「だそうだ。これで、市川、春日井、お前ら二人、詐欺の強要の容疑だな。それと、暴行の現行犯と公務執行妨害もな。県警まで行こうか」
「お前らこそ、業務妨害だろ!」
「地獄の取り調べが待ってるぞ。必ず吐かしてやる、覚悟しとけ」
怒りの市川と反対に、係長は冷静に言った。
「村田さん、その必要はありませんよ。僕がこの場で白状させます」
「え、おいおい、ダメだ、俺ら警察に任せろ」
係長が止めるのも聞かず、中山木さんはブルブル震えている春日井をテーブルの下から引っ張り出し、強烈なビンタを浴びせた。バチッという鈍い大きな音と共に、春日井は回転しながら口から血を吐き、床にぶっ倒れた。私たちは誰も、この筋肉男を止められそうになかった。
「春日井さん、あなた、僕の母を詐欺ろうとしましたね」
「ひ、ひ、ひぃぃぃ、やめてくれ!」
中山木さんは春日井の頭を掴んで薙ぎ払うように投げた。春日井は足元に倒れている男につまずいて豪快に床に突っ伏して顔面を強打した。
「ぁぅ、ぁぅ……」
すでに虫の息の春日井を引っ張り上げて、中山木さんはヘッドロックをかけた。
「あなたは、オレオレ詐欺で僕の母を騙そうとしましたね」
中山木さんは徐々に腕に力を入れて春日井の首を絞めていった。
「おいおい、やり過ぎんなよ」
係長が心配そうに言った。
「ぅぉ、ぉぉ、わあひが、ぃゃりぃまひた……」
春日井は両足をバタバタしながら、自分の罪を認めた。
「白状しましたね。どうです、村田さん、探偵としての僕の力量は」
「……おいおい、探偵なら、推理で何とかしろよな……」
係長が本質を突いたが、中山木さんは嬉しそうに筋肉ポーズを取り始めた。私たちは呆れているというか、何というか、どう反応したらいいのか、わからずにいた。京子のKYも発動する隙がなかった。私はただ無意識に録画中のスマホを意識が飛んで倒れている春日井に向けていた。
「おい、春日井! 死んでねえだろな……。警察が市民にこんなことしていいのか!」
市川は半狂乱だった。
「やったの、この探偵」
係長は筋肉ポーズを取る中山木さんを指さして冷たく言った。
乱闘だったーーー!




