6話
「黒瀬」
一ノ瀬が小さく呼ぶ。
声が少しだけ揺れてる。
「……抵抗しないで」
「無理」
即答。
「……なんで」
「されたくないから」
当たり前だろ。
「……危険なのは事実」
「知ってる」
「なら――」
「でも俺、人間だぞ?」
一応な。
「……」
一ノ瀬が黙る。
その隙に、
「動くな」
スーツの男――城崎が一歩前に出る。
後ろの連中も、同時に構えた。
全員、武器持ち。刀みたいなやつ。銃っぽいのもある。
「……抵抗は推奨しない」
「へぇ」
軽く笑う。
「じゃあ質問」
「なんだ」
「抵抗したら?」
少しだけ間。
そして、
「――排除する」
「だろうな」
知ってた。
「……黒瀬」
一ノ瀬が、もう一度呼ぶ。
「……お願い」
「悪い」
肩をすくめる。
「聞けねぇわ」
次の瞬間、足が動いてた。
全力で、横に跳ぶ。
「――ッ、確保しろ!!」
声が飛ぶ。地面を蹴る音。
風を切る音。
全部、まとめてうるさい。
「……っと」
ギリギリで避ける。弾丸。速いな。
「ほんとに撃ってくるのかよ」
笑えない。
「黒瀬!!」
一ノ瀬の声。振り返らない。
「……ごめんな」
小さく呟く。
聞こえてないだろうけど。
路地を抜けて、裏道へ。
「……はぁ、はぁ」
息が荒い。
体力は普通だ。
何回も死んでるけど、そこは変わらない。
「……どこまで追ってくる」
考える。逃げ切るのは無理だ。
相手は組織。人数も装備も違う。
「……なら」
やることは一つ。
「……対抗手段、持つか」
今までみたいに死に戻り前提じゃ限界がある。
さっきみたいに人間相手だと、普通に詰む。
「……武器」
呟く。必要だ。
戦うためじゃない。時間稼ぐための手段。
「……売ってるわけねぇよな」
当たり前だけど。
でも、
「……いや」
思い出す。
あの場所。前に一回だけ、巻き込まれて行った。
「……あるな」
決めた。
その日の深夜。
街外れ。古びたビルの地下。
「……ここか」
扉を開ける。中は薄暗い。
カウンターに無愛想な男。
「……誰だ」
「客」
「帰れ」
即断。
「冷たくね?」
「一般人は来る場所じゃねぇ」
「だろうな」
でも来た。
「……これで分かるか?」
ポケットから出す。昨日拾ったやつ。
影が消えた後に残ってた、小さな黒い結晶。
男の目が変わる。
「……どこで手に入れた」
「拾った」
「嘘だろ」
「ほんと」
「……」
少しの沈黙。
そして、
「……何が欲しい」
交渉成立。
「刀」
「は?」
「夜使えるやつ」
男がじっと見る。
「……お前、何者だ」
「高校生」
「……ふざけてるのか」
「割と真面目」
ため息。
「……死にたいのか」
「もう何回か死んでる」
「……は?」
軽く流す。
「いいから、あるだろ」
「……あるにはあるが」
男が奥に消える。
数分後。
一本の刀を持って戻ってくる。
黒い鞘。妙に軽い。
「……怪異に干渉できるやつだ」
「へぇ」
受け取る。
手に馴染む。不思議と、違和感がない。
「……代金は」
「それでいい」
結晶を指す。
「足りるのか」
「むしろ釣りが来る」
「じゃあいらん」
「……変なやつだな」
お互い様だろ。
「……死ぬなよ」
男がぼそっと言う。
「無理」
即答。
「……だろうな」
苦笑された。
帰り道。刀を持って歩く。
違和感はある。でも、
「……これで多少はマシか」
完全に頼る気はない。どうせ最後は死ぬ。
でも、
「……選択肢は増えた」
それでいい。
その頃。
「……逃がしたか」
城崎が呟く。
「申し訳ありません」
部下が頭を下げる。
「構わん」
淡々とした声。
「どうせ、また出てくる」
「……」
「彼はそういう存在だ」
そして、
「一ノ瀬 雫」
「……はい」
少しだけ、間。
「君はどう思う」
「……」
一ノ瀬が黙る。
少しだけ視線を落として、
「……危険です」
それは事実。
でも、
「……ですが」
顔を上げる。
「……人間です」
「……そうか」
城崎はわずかに笑う。
「なら、証明してみろ」
静かに、
「次に会った時に」
夜が、また始まる。
「……来るなよ」
誰もいない夜道で呟くでも分かってる。
どうせ来る。
「……はぁ」
ため息。刀に手をかける。
「……今度は、少しは戦うか」
夜は嫌いだ。
でも逃げるだけは、もっと嫌いだ。
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