2話
朝は嫌いじゃない。
夜みたいに死なないからだ。
「黒瀬ー、昨日の課題やった?」
「やってない」
「即答かよ」
前の席の佐藤が振り返ってくる。
こいつはいいやつだ。普通に。
普通すぎて、たまに羨ましくなる。
「てかお前、最近顔色悪くね?」
「気のせい」
「いや絶対なんか――」
そこで、言葉が止まる。
理由は簡単だ。
教室のドアが開いた。
静かに、一人の女子が入ってくる。
黒髪。整った顔立ち。無駄のない動き。
全体的に冷たい印象。
一ノ瀬 雫。
「あー……」
佐藤が小さく呟く。
「何」
「いや、お前さ」
「うん」
「昨日、あいつとなんかあった?」
「ない」
即答。
本当にない。
いや、正確にはあったけどない。
説明できるわけがない。
夜に化け物が出て、死んで、巻き戻って、助けたとか。
言ったら病院行きだ。
「……そうか?」
佐藤はまだ疑ってる顔してるけど、そこでチャイムが鳴った。
とりあえず助かった。
昼休み。
屋上。風が少し強い。
「……で」
背後から声。
「なんでついてくるんだよ」
振り向かなくても分かる。
「……質問がある」
一ノ瀬だ。
やっぱり来たか。
「ないって言っただろ」
「嘘」
即否定。迷いゼロ。
「あなた、あれを見えてた」
「何の話」
「……昨日の怪異」
あー、はい。
バレてるやつ。
「で?」
とりあえずとぼけるのやめる。
無駄だし。一ノ瀬は少しだけ目を細めた。
「一般人は見えない」
「らしいな」
「なのに、あなたは見えてた」
「そうだな」
「それに」
一歩、距離を詰めてくる。
「……あの状況で、躊躇なく飛び込んだ」
「たまたまだろ」
「違う」
断言。
「……知ってた動きだった」
図星。ちょっとだけ笑いそうになる。
「で?」
「あなた、何者?」
シンプルな質問。
でも答えは一つしかない。
「ただの高校生」
「嘘」
「じゃあなんだと思う?」
少し考える素振り。
そして、
「……怪異側」
「は?」
それは予想外。
いや、まあ分からなくもないけど。
「あなたが来てから、動きが変わった」
「偶然だろ」
「それに」
じっと、見られる。
「……あなた、死ぬことに躊躇がない」
「……」
それは。ちょっとだけ、刺さる。
「普通じゃない」
「そりゃどうも」
肩をすくめる。
実際普通じゃないし。
「否定はしない」
「しても信じないだろ」
「……そう」
一ノ瀬は一歩引いた。少しだけ、間が空く。
風の音だけが聞こえる。
「……監視する」
「は?」
「あなたのこと」
さらっと言ってくる。
「怪異かどうか、確かめる」
「いやいや」
思わず笑う。
「めんどくさすぎだろそれ」
「必要なこと」
真顔。冗談じゃないやつ。
「拒否権は?」
「ない」
「だろうな」
知ってた。
「……あと一つ」
まだあるのかよ。
「昨日」
少しだけ、声のトーンが落ちる。
「……なんで助けたの」
それか。一瞬だけ、言葉に詰まる。
別に理由なんてない。
というか――
「……なんとなく」
結局それしか出てこない。
一ノ瀬はじっと見てくる。
「……理解できない」
「俺もしてない」
本音。
自分でも分かってない。
なんであんなことしてるのか。なんで何回も死んでるのか。
「……やっぱり危険」
結論それかよ。
「ひどくね?」
「事実」
バッサリ。
まあいいけど。
「……今夜も出る」
一ノ瀬が言う。
「昨日と同じ場所」
「あー……」
知ってる。
どうせまた死ぬ。
「来るなよ」
一応言っとく。
「来る」
即答。
「だと思った」
ため息。
「……死ぬな」
ぽつりと、一ノ瀬が言う。
「は?」
「足手まとい」
言い直した。
なるほどね。
「了解」
軽く手を振る。どうせ無理だ。
夜は、だいたい死ぬ。
その日の夜。
同じ路地。同じ影。
そして、
「……やっぱ来たか」
隣には、一ノ瀬 雫。
「……来るなって言ったよな?」
「あなたもいる」
「まあな」
少しだけ、笑う。
「じゃあ」
一歩、前に出る。
「今回もよろしく」
「……?」
一ノ瀬が怪訝な顔をする。
次の瞬間。影が動いた。
そして、
「――またか」
視界が、赤く染まる。
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