17話
夜。
壊れた路地。倒れた隊員たち。
重い空気。
その中心に、
「……はぁ」
黒瀬 湊が立っていた。呼吸は荒い。
でも、
「……まだ動けるな」
笑っている。壊れかけのまま。
「……黒瀬」
一ノ瀬が一歩近づく。
「……聞いて」
「……なんだ」
「……あなたの能力」
少しだけ間。
「……分かったかもしれない」
「……」
黒瀬の目がわずかに動く。
「……ほう」
「……あなた」
言葉を選ぶ。
「……戻ってない」
「……知ってる」
「……違う」
首を振る。
「……増えてる」
「……」
空気が止まる。
「……何言ってんだ」
「……あなたの中に」
さらに一歩。
「……今まで死んだあなたが、全部残ってる」
「……」
その言葉に、黒瀬は何も返さない。
でも、
「……だから」
一ノ瀬が続ける。
「……さっきのあなたが出てくる」
「……」
「……強くなるのも、ズレるのも」
「……全部」
静かに言い切る。
「……積み重なってるから」
沈黙。数秒。
「……あー」
黒瀬が、ゆっくり笑う。
「……それ、最悪だな」
否定はしない。
「……でも」
刀を軽く振る。
「……納得はできる」
「……」
一ノ瀬の表情がわずかに変わる。
「……黒瀬」
「ん?」
「……このままだと」
少しだけ、声が震える。
「……あなた、消える」
「……」
それは、もう分かってる。
「……俺じゃなくなる、か」
「……うん」
「……」
少しだけ空を見る。
「……まあ」
軽く笑う。
「……今でも半分くらいそうだけどな」
「……違う」
即否定。
「……まだ、あなた」
一歩踏み込む。
「……いる」
「……」
その言葉に、ほんの一瞬だけ、
黒瀬の目が揺れる。
その瞬間。
「……もういいだろ」
低い声。黒瀬の中から。
「……は?」
表情が変わる。
「……出てくんなって言ったよな」
自分で、自分に言う。
「……黙ってろ」
でも、
「……もう限界だ」
声が重なる。完全に別。
「……お前じゃ無理だ」
「……」
一ノ瀬が息を呑む。
「……黒瀬?」
「……違うな」
顔を上げる。
その目は、完全に別。
「……もう、交代だ」
空気が変わる。
「……雫」
名前を呼ぶ。でも、声が冷たい。
「……邪魔だ」
一歩踏み込む。
速い。今まで以上。
「――ッ!」
一ノ瀬が構える。でも、追いつかない。
「……遅い」
一瞬で距離を詰める。
斬る――その直前、
「――やめろ!!」
黒瀬の声。
内側から体が止まる。
一瞬だけ。
「……チッ」
舌打ち。
「……まだ残ってんのか」
その隙に、一ノ瀬が距離を取る。
「……黒瀬!!」
「……来るな」
即答。
「……」
「……これ以上、近づくな」
声が低い。
でも、今度は元の黒瀬。
「……俺、もうダメだ」
「……違う」
「……違わねぇよ」
少しだけ笑う。
「……分かるだろ」
「……」
分かってる。さっき見た。
「……だから」
黒瀬が続ける。
「……終わらせろ」
「……え」
「……俺を」
静かな声。
「……今なら、まだ俺だ」
「……」
時間が止まる。
「……黒瀬」
声が震える。
「……無理」
「……やれ」
「……無理!!」
叫ぶ。
「……できない」
「……できる」
「……できない!!」
涙が滲む。
「……なんで」
「……助けたいから」
その一言。
「……」
黒瀬が黙る。
そして、少しだけ笑う。
「……それが一番ダメなんだよ」
「……」
「……助けるなら」
ゆっくりと言う。
「……殺せ」
「……」
世界が、静かになる。
「……時間だ」
低い声。また別の黒瀬。
「……もういい」
一歩踏み出す。
「……全部壊す」
「――やめて!!」
一ノ瀬が叫ぶ。でも、止まらない。
その瞬間。
一ノ瀬が、決める。
震える手で、刀を握り直す。
「……黒瀬」
小さく呟く。
「……助ける」
涙を拭う。
「……だから」
顔を上げる。
「……終わらせる」
その目に、迷いはない。
夜が、動く。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




