15話
夜。
「……対象、変質を確認」
淡々とした報告。
ビルの一室。簡易的な指令室。
「……詳細を」
城崎 恒一が視線を上げる。
「……戦闘記録より、通常時とは別個体と見られる挙動を確認」
画面には戦闘。
スロー再生。黒瀬の動きが変わる瞬間。
「……これが」
部下が呟く。
「……例外個体の完成形ですか」
「……違う」
城崎が首を振る。
「未完成だ」
静かに断言する。
「……だが」
少しだけ間。
「放置すれば、いずれ災害になる」
空気が重くなる。
「……作戦を実行する」
その一言で、全員の姿勢が変わる。
「……対象、黒瀬 湊」
「……はい」
「――確保優先」
一瞬の沈黙。そして、
「抵抗時は?」
「――排除」
迷いはない。
「……」
一ノ瀬 雫は、何も言えなかった。
分かってる。これが正しい判断。
でも、
「……」
納得は、できない。
同じ頃。
「……はぁ」
黒瀬 湊は、コンビニの前でしゃがんでいた。
「……腹減った」
普通にさっきまで命のやり取りしてたとは思えない。
「……なんか食うか」
でも、
「……あれ」
財布を見る。
「……金、あったっけ」
記憶が曖昧。
「……まあいいか」
適当に買う。どうでもいい。
「……」
店を出る。夜風。
静か。
「……」
ふと、違和感。
「……囲まれてるな」
小さく呟く。
気配。複数。
「……仕事熱心だな、ほんと」
ため息。
「……出てこいよ」
数秒後、
「……確認が早いな」
城崎が姿を現す。その後ろに、複数。
完全包囲。
「……こんばんは」
黒瀬が軽く手を上げる。
「……雑談しに来たわけじゃないだろ」
「当然だ」
城崎が答える。
「……黒瀬 湊」
一歩前に出る。
「本日をもって、君の確保を最優先事項とする」
「……おー」
軽く頷く。
「ついに来たな」
「……抵抗するな」
「無理」
即答。
「……だろうな」
城崎も理解している。
「……一ノ瀬 雫」
名前を呼ぶ。
「……はい」
少しだけ遅れて返事。
「君がやれ」
「……」
空気が止まる。
「……え?」
黒瀬が少しだけ驚く。
「……マジ?」
「……任務だ」
城崎の声は変わらない。
「対象は危険度S相当。君が最も接触経験が多い」
合理的な判断。だからこそ、
「……」
一ノ瀬は動けない。
「……雫」
黒瀬が名前を呼ぶ。少しだけ柔らかい声。
「……無理ならいいぞ」
「……」
その言葉が、逆に刺さる。
「……私は」
小さく呟く。手が震える。
でも、
「……やります」
顔を上げる。決めた。
「……そうか」
城崎が頷く。
「……黒瀬」
一ノ瀬が刀を構える。
「……来て」
「……」
黒瀬は少しだけ黙る。
それから、
「……マジでやるのか」
「……任務」
「……そっか」
軽く笑う。
「……じゃあ」
ゆっくりと刀を抜く。
「……やるしかねぇな」
空気が張り詰める。
誰も動かない。そして、
「――来い」
一ノ瀬が踏み込む。
速い。迷いはない。
「……っ!」
黒瀬が受ける。
重い。
「……本気かよ」
笑う。
「……当たり前」
一ノ瀬の声が低い。
「……任務だから」
「……だよな」
分かってる。
「……でも」
少しだけ間。
「……死ぬなよ」
「……」
その一言で、一ノ瀬の動きが一瞬止まる。
「……ふざけないで」
次の一撃。速い。鋭い。
「……おっと」
ギリギリで避ける。
「……やっぱ強ぇな」
本音。
「……黒瀬」
一ノ瀬が踏み込む。
「……捕まって」
「無理」
「……なんで」
「止まれねぇ」
それだけ。
「……」
一ノ瀬が歯を食いしばる。
「……じゃあ」
一歩踏み込む。
「……止める」
その目は、完全に覚悟が決まってる。
戦闘が激化する。斬る。避ける。ぶつかる。
「……っ!」
黒瀬の腕に傷。
「……やるな」
でも笑ってる。
「……なんで笑ってるの」
「楽しいから」
「……」
それが一番おかしい。
その瞬間。
「――ッ!」
黒瀬の動きが止まる。
一瞬の空白。
「……!」
一ノ瀬の刃が、届く。
胸元。
「……あ」
浅い。でも、確実に入った。
「……黒瀬!!」
自分で叫ぶ。
次の瞬間、黒瀬が、笑った。
「……あー」
その目が変わる。
「……それ、ダメだろ」
声も違う。冷たい。
「……黒瀬?」
「……だから言ったのに」
ゆっくりと、刃を握る。
血が流れる。でも止まらない。
「……俺、壊れてるって」
そのまま、一ノ瀬を弾き飛ばす。
「――っ!!」
後方に転がる。
「……雫」
黒瀬が立つ。
「……今の、いいトリガーだった」
「……何」
「……出やすくなる」
一歩前に出る。
「……だからさ」
その笑い方、完全に別物。
「……もう無理だぞ」
空気が変わる。
完全に。
「……総員、構え!!」
城崎の声。一斉に武器が向く。
でも、
「……遅い」
黒瀬が消える。
次の瞬間、一人が吹き飛ぶ。
「――ッ!?」
速すぎる。
「……な」
城崎の目が細くなる。
「……これが」
「……現象か」
「……黒瀬!!」
一ノ瀬が叫ぶ。
でも、もう止まらない。
黒瀬は、人間の枠を、完全に外れ始めていた。
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