13話
夜。
「……例の対象、確認しました」
低い声が静かに響く。
ビルの屋上。冷たい風。
「……そうか」
城崎 恒一が目を細める。
「報告を続けろ」
「……はい」
部下がタブレットを操作する。
画面には、いくつもの黒い点。
「……対象出現地点周辺に、残留反応を複数確認」
「……残留?」
「……はい。怪異と類似していますが、性質が異なります」
「……」
城崎がわずかに笑う。
「やはりか」
「……ご存知で?」
「記録にある」
短く答える。
「……例外個体だ」
空気が少しだけ重くなる。
「……例外?」
「……人間でも怪異でもない、中間の存在」
淡々と続ける。
「……死を起点に、世界の分岐を発生させる個体」
「……」
部下が言葉を失う。
「……まさか」
「……ああ」
城崎が頷く。
「黒瀬 湊は――」
一瞬、間を置いて、
「戻っているのではない」
静かに断言する。
「……世界を、繰り返している」
「……」
理解が追いつかない。
「……それって」
「……ああ」
城崎の目が鋭くなる。
「人間が扱っていい現象じゃない」
その頃。
「……はぁ」
黒瀬 湊は、夜道を歩いていた。
「……増えてんな」
足元。黒い跡。
昨日より、明らかに多い。
「……見えてないんだよな、これ」
一ノ瀬には見えてなかった。
つまり、
「……俺だけか」
少しだけ笑う。
「……気持ち悪」
踏みしめる。自分の残りカス。
「……ほんと、最悪な能力だな」
でも。
「……今さらか」
どうでもいい。
やることは変わらない。
「……黒瀬」
声。振り向く。
一ノ瀬 雫。
「……来ると思った」
「……来る」
「だろうな」
いつも通り。
「……黒瀬」
今日は少し違う。
「……話がある」
「珍しいな」
「……うん」
少しだけ間。
「……組織が動いてる」
「あー、知ってる」
「……違う」
首を振る。
「……あなたのこと、知ってる」
「……」
少しだけ、止まる。
「……どこまで」
「……分からない」
正直に言う。
「……でも」
一歩近づく。
「……危ない」
「今さらだろ」
軽く返す。
「……違う」
強く否定。
「……あなたの能力」
少しだけ迷って、
「……普通じゃないって、バレてる」
「……」
それは、まあそうだろうな。
「……で?」
「……捕まったら」
声が少し低くなる。
「……戻れなくなるかもしれない」
「……」
その言葉で、少しだけ空気が変わる。
「……それは困るな」
軽く言う。でも、
「……ちょっとだけな」
「……」
一ノ瀬が黙る。
「……黒瀬」
「ん?」
「……逃げて」
「逃げてる」
「……違う」
首を振る。
「……もっと遠くに」
「……無理だな」
即答。
「……なんで」
「出るから」
それだけ。
「……」
一ノ瀬が言葉を失う。
「……あいつら、湧くんだよ」
軽く言う。
「……俺の近くに」
「……え?」
「……分かんねぇけどな」
空を見上げる。
「……なんとなく、そういう気がする」
「……」
それは、かなり正しい直感。
でも、本人は気づいてない。
「……だから」
黒瀬が続ける。
「……逃げても意味ねぇ」
「……」
一ノ瀬が黙る。
その目は、完全に不安で揺れてる。
「……黒瀬」
小さく、
「……あなた」
言葉を選ぶ。
「……何者なの」
「……」
少しだけ考える。
「……知らん」
それしか出てこない。
「……」
一ノ瀬が俯く。
「……怖い」
ぽつりと。
「……うん」
黒瀬はあっさり頷く。
「俺も」
「……」
予想外の返答。
「……分からんのが一番怖い」
それは、本音。
「……」
少しだけ沈黙。
「……まあいいか」
黒瀬が軽く言う。
「……どうせ、やること同じだし」
「……」
それが、一番怖い。
その瞬間。空気が、変わる。
「……来たな」
黒瀬が呟く。
でも、
「……違う」
一ノ瀬の声が低い。
「……これは」
影じゃない。重い。
圧が違う。
「……おいおい」
黒瀬が笑う。
「……ボス戦か?」
闇が、集まる。
形を作る。
人型。でも、明らかに違う。
「……あー」
黒瀬が小さく呟く。
「……これ、死ぬな」
「……黒瀬」
一ノ瀬が構える。
「……逃げるぞ」
黒瀬が言う。
「……え?」
「……無理だ」
即断。
「……今の俺じゃ勝てねぇ」
珍しい判断。
「……でも」
「死ぬ」
一言。それで十分。
「……っ」
一ノ瀬が迷う。
その瞬間、それが動く。
速い。重い。
「――来るぞ!!」
黒瀬が前に出る。
「……黒瀬!」
「いいから走れ!!」
また同じ流れ。でも、今回は違う。
「……逃がさない」
低い声。それが喋った。
「……は?」
次の瞬間、視界が歪む。
空間ごと、引き寄せられる。
「……っ!」
逃げ場がない。
「……クソ」
これは、完全に詰み。
「……黒瀬!!」
一ノ瀬の声。
遠い。
「……まあいいか」
黒瀬が小さく笑う。
「……やるしかねぇ」
刀を握る。
「……何回目だっけ」
もう分からない。
でも、
「……次で終わらせる」
根拠はない。でも、そう決めた。
「――来いよ」
闇が迫る。
その中で、黒瀬は笑った。
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