12話
「……10回目」
黒瀬 湊は、静かに呟いた。
目の前には影。
一体じゃない。三体。
さっきと同じ配置。同じ動き。
同じ詰み。
「……無理ゲーだろ、これ」
軽く笑う。でも、
「……やるしかねぇ」
いつも通り。
何度も繰り返す。
11回目。
12回目。
13回目。
「……」
回数が増えるほど、違和感が強くなる。
「……なんだこれ」
動きは覚えてる。でも、感覚がズレる。
タイミングが微妙に狂う。
「……遅れてる?」
いや、違う。
「……抜けてる」
一瞬、判断が飛ぶ。
そのせいで死ぬ。
「……クソ」
これが代償か。
「……記憶だけじゃねぇな」
削れてるのは、もっと別の何か。
14回目。
「……もういい」
刀を握る。
「……力押しでいく」
理屈じゃ無理なら、回数で押す。
「……どうせ死ぬし」
影が来る。速い。
「……知ってる」
避ける。斬る。
一体、削る。
「……まだだ」
二体目。間に合わない。
「っ!」
肩を持ってかれる。
「……痛ぇな」
でも無視。
「……あと一体」
踏み込む。その瞬間、
視界が揺れる。
「――は?」
一瞬、止まる。体も、思考も。空白。
「……あー」
終わり。腹を貫かれる。
「……またこれか」
意識が落ちる。
「……15回目」
戻る。息を吐く。
「……ダメだな」
完全に、ズレてる。
「……このままだと詰む」
考える。どうする。
どうやって抜ける。
「……」
ふと、違和感。
「……あれ」
足元。
地面に、跡ある。
黒い、染みみたいな。
「……こんなのあったか?」
前の周回では見てないはず。
「……いや」
しゃがむ。触れる。
冷たい。
「……これ」
なんとなく分かる。
「……俺、か?」
さっきまでここで死んだ何か。
その残り。
「……は?」
意味が分からない。
「……残ってる?」
じゃあ、今までの死は?
全部、どこに行った?
「……消えてない?」
背筋が少しだけ冷える。
「……冗談だろ」
立ち上がる。周りを見る。
よく見ると、ある。
薄く、いくつも。黒い跡。
「……」
数える気にはならない。
「……これ」
つまり、
「……俺、戻ってるんじゃなくて」
言葉にする。
「……置いてきてるだけか?」
死んだ自分をこの場所に。
「……」
理解したくない。でも、
「……合ってる気がする」
それが一番嫌だ。
「……黒瀬!」
声。振り向く。
一ノ瀬 雫。
「……来たのか」
「……当たり前」
息が少し荒い。走ってきたな。
「……逃げろって言っただろ」
「……無理」
「だろうな」
軽く笑う。
「……ちょうどいい」
「……何が」
「……見えるか」
地面を指す。
「……?」
一ノ瀬が見る。
「……何もない」
「……だよな」
やっぱり。
「……黒瀬」
「ん?」
「……どうしたの」
「……いや」
少し迷って、
「……やばいかもしれん」
正直に言う。
「……」
一ノ瀬の顔が変わる。
「……何が」
「……俺の能力」
「……」
初めて、はっきり言った。
「……戻ってるんじゃねぇ」
小さく呟く。
「……残してる」
「……?」
「……死んだ俺が」
言葉が重い。
「……ここに」
「……」
一ノ瀬が黙る。理解できてない。
「……嫌な感じ」
それだけは伝わってる。
「……黒瀬」
「ん?」
「……やめて」
またそれ。
「……無理」
「……なんで」
「もう止まれねぇ」
それだけ。
「……」
一ノ瀬が何か言いかけて止まる。
その瞬間、
「――来るぞ」
空気が歪む。影が現れる。
三体。
「……さっきと同じ」
「……うん」
「……なら」
刀を構える。
「……終わらせる」
「……できるの」
「分からん」
正直に言う。
「……でも」
少しだけ笑う。
「……やるしかねぇだろ」
踏み込む。影が動く。
速いけど
「……見えてる」
さっきまでより、少しだけ。
「……ここだ」
一体目。斬る。
深く入る。
「……次」
二体目。
タイミングを合わせる。
「……今」
ギリギリで回避。
斬る。
「……いける」
最後。三体目。
大きく動く。
「――黒瀬!!」
一ノ瀬の声。
「分かってる!!」
踏み込む。その瞬間、
また空白。
「――ッ!」
でも、止まらない。
体が勝手に動く。
「……え?」
自分でも分からない。
でも、斬っていた。
「……終わり」
三体目が裂ける。消える。
静寂。
「……はぁ……」
息を吐く。
「……今の」
おかしい。
完全に、俺の動きじゃない。
「……黒瀬」
一ノ瀬が近づく。
「……今」
「……ああ」
分かってる。
「……ちょっとズレてた」
「……違う」
首を振る。
「……あれ」
じっと見る。
「……あなたじゃない」
「……」
それは、一番言われたくないやつだ。
「……」
少しだけ沈黙。
「……まあいいか」
軽く流す。
「勝ったし」
「……」
一ノ瀬は納得してない顔。
でも、それ以上は言わない。
「……黒瀬」
「ん?」
「……その能力」
少しだけ迷って、
「……危険すぎる」
「知ってる」
即答。
「……でも」
空を見上げる。
「……やめられねぇ」
それが全て。
「……」
一ノ瀬が黙る。
その目は、もう完全に恐怖と心配が混ざってる。
「……帰るか」
刀をしまう。背を向ける。
「……またな」
歩き出す。
その足元に、黒い跡が、残ってることに気づかないまま。
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