10話
「……黒瀬 湊は、危険だ」
低い声が、静かに響く。
放課後の校舎裏。人のいない場所。
「……確認する」
城崎 恒一が、一ノ瀬 雫を見る。
「君はどう判断する」
「……」
一ノ瀬はすぐには答えない。
少しだけ視線を落として、
「……不安定です」
それが一番近い言葉。
「……ですが」
顔を上げる。
「……敵ではありません」
はっきりと。
「……そうか」
城崎はわずかに目を細める。
「だが現実は違う」
淡々と続ける。
「彼は怪異と同等の挙動をしている」
「……」
否定できない。
「死なない。予知のような動き。危険地帯への常時出現」
一つ一つ、事実だけを並べる。
「……人間ではない可能性が高い」
「……違います」
一ノ瀬が小さく言う。
「……人間です」
「根拠は?」
「……」
言葉に詰まる。
証明できない。
「……感情があります」
それでも、絞り出す。
「……守ろうとする動きもある」
「……それは擬態でも可能だ」
即座に返される。
「……」
一ノ瀬が黙る。
「……一ノ瀬 雫」
城崎の声が少しだけ重くなる。
「君は優秀だ」
「……」
「だからこそ、感情で判断するな」
「……はい」
分かってる。分かってるけど、
「……」
納得はしてない。
「……本日」
城崎が告げる。
「黒瀬 湊の確保を再度実行する」
「……」
空気が重くなる。
「抵抗した場合は?」
部下が確認する。
「――排除」
迷いのない声。
「……」
一ノ瀬の手が、わずかに震える。
同じ頃。
「……めんどくせぇな」
黒瀬は屋上にいた。人がいない場所。
最近、ここが一番落ち着く。
「……学校にまで来るか」
視線を感じる。気配。
隠してるつもりでも、分かる。
「……いるだろ」
わざと声に出す。数秒後、
「……気づいていたか」
物陰から一人出てくる。
スーツ姿。昨日のやつらの一人。
「……仕事熱心だな」
「任務だ」
「だろうな」
軽く笑う。
「……黒瀬 湊」
名前を呼ばれる。
「同行してもらう」
「嫌だって言ったら?」
「力ずくになる」
「知ってる」
昨日聞いた。
「……なあ」
少しだけ首を傾ける。
「俺ってそんなに危険?」
「……はい」
即答。ちょっと傷つく。
「理由は?」
「存在が不明確すぎる」
「ひどくね?」
「事実だ」
まあそうか。
「……断る」
一歩下がる。
「……そうか」
男が構える。
「なら――」
その瞬間、
「待って」
声。一ノ瀬 雫。
「……一ノ瀬」
男が少し驚く。
「……私がやります」
静かな声。でも、揺れてる。
「……了解した」
男が下がる。完全に任せる形。
「……黒瀬」
一ノ瀬が向き直る。
「……来て」
「嫌だ」
「……お願い」
「無理」
即答。
「……なんで」
「捕まりたくない」
それだけ。
「……違う」
一ノ瀬が一歩近づく。
「……このままだと」
少しだけ、声が震える。
「……殺される」
「……」
それは、まあそうだろうな。
「……だから」
「来いって?」
「……うん」
「……無理だな」
ため息。
「俺、信用されてねぇし」
「……する」
「お前はな」
でも、
「他は違うだろ」
「……」
否定できない。
「……黒瀬」
一ノ瀬がさらに近づく。
距離がほぼゼロ。
「……信じて」
「……」
その言葉は、少しだけ、重い。
「……悪い」
「無理だ」
答えは変わらない。
「……なんで」
「お前が困るから」
「……は?」
予想外の顔。
「俺が捕まったら、お前も面倒だろ」
軽く笑う。
「……あと」
少しだけ視線を逸らす。
「……俺、止まれねぇし」
「……」
それが全て。
「……だから」
一歩下がる。
「……またな」
背を向ける。その瞬間、
「――動くな!!」
後ろから声。
複数。包囲。
「……やっぱ来るか」
囲まれてる。
完全に。
「……黒瀬」
一ノ瀬の声。少しだけ震えてる。
「……抵抗しないで」
「する」
即答。
「……なんで」
「まだ死にたくない」
本音。
「……でも」
少しだけ笑う。
「どうせ死ぬけどな」
次の瞬間、全員が動いた。
「――確保!!」
一斉に来る。
速い。でも、
「……見える」
体が動く。刀を抜く。
弾く。
避ける。
「……っ!」
一人の攻撃をいなす。
でも数が多い。
「……だる」
正直キツい。
「黒瀬!!」
一ノ瀬が叫ぶ。
「……ごめん」
小さく呟く。そして、わざと前に出る。
「――来いよ」
集中する。視線が集まる。
その瞬間、全員の動きが一点に寄る。
「……悪いな」
一歩、踏み込む。
最短距離。包囲の隙間。
「――ッ!?」
抜ける。
「逃がすな!!」
声が飛ぶ。
「……無理だろ」
屋上の端。柵。
そのまま、飛び越える。
「黒瀬!!」
一ノ瀬の声。
「……またな」
軽く手を振る。
そして、落ちる。
風。重力。
「……あー」
空を見る。
「……何回目だっけ」
もう分からない。
地面が近づく。
「……まあいいか」
衝撃。意識が飛ぶ。
「……9回目」
目を開ける。
屋上の手前。
「……逃げ切るか」
立ち上がる。
「……めんどくせぇな」
でも
「……やるしかねぇ」
もう、戻れない。
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